歴史と想いを後世に伝える、“金継ぎ”というサステナブルな伝統技法【大脇京子インタビュー】

  • 動画ディレクション:TISCH(MARE Inc.)
  • 動画制作、撮影:仲谷譲
  • インタビュー、文:山下美咲
  • スタイリング:菅原百合
  • ヘア&メイク:阪本明子(SIGNO)

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大切に思うものがたとえ壊れてしまっても、もとどおりに修復しながら、黄金の輝きによってそれまで以上の美と価値を付与する。陶磁器などをできるだけ長く大切に愛でるために興ったとされる金継ぎは、海外からも注目が集まっている日本ならではの伝統技法のひとつだ。今回は、金継ぎの職人として人気を集める大脇京子に話を聞いた。

ものを接着したり補強したりする技術は、実は日本には縄文時代から存在する。その継ぎ目に金属粉をまとわせる“金継ぎ”の技法は、茶の湯文化の発達とともに発生。割れや欠けを元どおりに修復しながらそこにむしろ情趣を見出す、独自の美学が定着した。「伝統的な技法では本漆のみで接着を行います。その際に混ぜ合わせる小麦粉や砥粉(とのこ)は、口に入っても安心安全な、すべて土に還っていく素材。直したあとも、それを実際に人間が使いつづけていくために発達した技術なんだと納得させられます」と、神奈川県鎌倉市で金継ぎ職人としての活動を続ける大脇京子は語る。

まずは漆と小麦粉を練りあわせて糊をつくり、欠けや割れの断面に塗って接着。乾くまで最低でも2週間待ったら、次ははみ出した部分を削りつつ、漆と砥粉を混ぜたものをペースト状にして塗布する。さらに何度か漆を重ね、継ぎ目がなめらかになったところでようやく粉を蒔くのだが、ここまでに最短でも3週間。長いと半年かかるものもある。「漆の木から樹液が出てくるのを待って、接着面が乾くのを待ち、金属粉が定着するのを待つ……。現代では、合成接着剤を使って早く仕上げることもできます。でも、何カ月も時間をかけ自分の手でものを直していっていると、内側から沸きあがる“本物の美しさ”が見えてくることがあるんです。そこから『これを大切に後世につないでいこう』という想いに変わるのが、金継ぎのすばらしいところです」

キーワードとなるのは、“待つ”時間。金継ぎを始めてから、自身の性格も変わったと大脇は微笑む。「気長になったし、失敗したりものが壊れたりしてもゆったりした気持ちで見ていられるようになりました。また大切な器であってもしまいこまず、日常的に使っているので、好きなものをつねに身の回りに置いておくことの豊かさも感じられるようにもなりました」。何事も時短が良しとされがちな昨今の世の中で、多くの人の手を渡り長きにわたって愛されてきたものを、丁寧に時間をかけて修復し、またさらに語り継いでいく。歴史をつなぐ伝達者としての役割を、彼女は繊細かつしなやかにこなしているのだ。

衣装協力:ジャケット¥64,900、パンツ¥46,200/ウジョー(エムTEL03-6721-0406)、トップス¥27,500/ロキト(株式会社アルピニスムTEL03-6416-8845) トッパーブラウス¥28,600、ワンピース¥25,300/ルリ ダブリュー(ルリ ダブリュー eメール:contact@ruriw.com)、チョーカー¥99,000/ウジョー(エムTEL03-6721-0406)