ビームス ジャパン鈴木修司に聞く、旅の拠点「FAV HOTEL」の魅力と広島旅行のお薦めルート&スポット

  • 文:小久保敦郎(サグレス)
  • 写真:梅宮 瞳
  • 映像ディレクター:三浦 誠(RUDOLF Inc.)
  • 撮影監督:阿部大輔 (bird and insect)
  • AC:北原優 (bird and insect)
  • プロダクション・マネージャー:高田篤

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鈴木修司●1976年、三重県生まれ。地元の国立大学を卒業後、1998年にビームス入社。メンズウエアや「フェニカ」の前進である「ビームスモダンリビング」など店舗スタッフとして複数レーベルを経験。「フェニカ」のマーチャンダイザー、「ビーミングbyビームス」のバイヤーを経て、2016年にビームス ジャパンのクリエイティブディレクターに就任。国内各地の銘品を求めて、年間およそ120日は旅する日々。コラボ商品などヒット企画を連発している。Pen Official Columnist。

2020年10月に飛騨高山で初のホテルを開業。その後、高松と熊本、伊勢に順次進出、来年までに全国18施設の展開を予定している「FAV HOTEL」。独自コンセプトのホテルは、これまでにないタイプとして熱い視線を集めている。

今回、昨年12月にオープンした「FAV HOTEL 広島平和大通り」を訪れたのが、ビームス ジャパンのクリエイティブディレクターとして活躍する鈴木修司さん。国内各地の銘品を探し求める“目利き”であるだけでなく、旅のプロでもある鈴木さんの目にこのホテルはどう映るのか、話を聞いた。

家族旅行など「グループ」に特化したホテル

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エグゼクティブバンクの二段ベッドは下段がクイーンサイズ2つ、上段にシングル2つという構成。上段下段ともに十分な空間が保たれ、横になると圧迫感はさほど感じない。

家族連れやグループ旅行の計画を立てる際、みんなで泊まれるホテルの客室が見つからずに苦労した経験はないだろうか。ビジネスホテルに象徴される通り、国内の宿は2名までの宿泊を前提にした部屋が過半数を占めるという。その点で「FAV HOTEL」がこれまでのホテルと違うのは、グループをターゲットにしていること。ひと部屋の定員は4名か6名が基本単位だ。だから人数が多くても、同じ部屋で旅先の夜を過ごすことができる。

「FAV HOTEL 広島平和大通り」で鈴木さんが宿泊したのは、二段ベッドが印象的な「エグゼクティブバンク」。広さは35㎡あり、最大6名まで利用できる。一年の1/3は仕事で各地を巡り、これまで数多のホテルに泊まってきた鈴木さんは言う。

「グループでゆったりと過ごせて、でもスイートルームのように贅沢すぎない設定の部屋って、特に都市部のホテルにはあまりありません。ですから、とても貴重な存在だと思いました。今回はひとりで泊まりましたけど、親しい人たちと一緒なら間違いなく楽しいだろうと想像してしまいます」

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大型の液晶テレビとソファ、さらにダイニングテーブルが置かれたリビングスペース。室内の照明は細かな設定が可能で、夜はベッドを暗くしてリビングだけ明るくすることもできる。

では、鈴木さんが家族で利用したら、どうなるのだろう。

「二段ベッドを見たときに、いい歳をした大人なのに童心をくすぐられて、ワクワクしてしまって。だから家族で来たら、まずはじゃんけん大会じゃないですか。誰がどのベッドで寝るか、場所決めの。子どもを優先するのではなく、親も公平に。もう、それだけで楽しいじゃないですか(笑)」

「FAV HOTEL 広島平和大通り」の客室は、「エグゼクティブバンク」の他に「ジャパニーズモダン」、「ヘラルボニージャパニーズモダン」、「ヘラルボニーユニバーサルルーム」があり、計4タイプ。いずれも35㎡のゆったりとした空間で、グレージュの優しい色合いを基調に上品なトーンでまとめられている。

客室名にある「ヘラルボニー」は、「異彩を、放て。」をテーマに掲げる福祉実験ユニット。知的障害のある作家のライセンス事業や、それらをプロダクトに落とし込むライフスタイルブランドの運営などを通じて、「障害」のイメージ変容と、福祉を起点とした新たな文化の創造を目指している。

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ヘラルボニーユニバーサルルーム。壁にかけたアートパネル、カーテンやクッションカバーに自然なかたちで知的障害のある作家のアート作品を取り入れ、ボーダーレスな社会のあり方を客室で表現する。

 

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ヘラルボニーユニバーサルルーム。テーブルウエアにも作品を採用している。繊細で色鮮やかな描写を施されたプレートが、部屋での食事シーンを明るく彩る。

彼らとコラボすることで、このホテルがすべての人に開かれた場所でありたいという思いをかたちにした客室だ。「このような発信は大切ですし、アーティストとして活動されている方の支援にもなりますので、非常に共感できます」と鈴木さん。「取り入れているアートパネルやファブリックはとても好感がもてるものでした。アート好きな人ではなくても、自然に受け入れられると思います」

建物の設計は「PDP LONDON」がプロデュース。ロンドンを拠点に活動を行う世界的なクリエイティブ集団で、高級レジデンスから歴史的建造物の再生まで幅広い分野で卓越した手腕を発揮する。そのデザインについて、鈴木さんは「居心地がいい。いろいろな意味でバランスがとれているのだと思います」とお気に入りの様子。「家とは違う非日常の空間なのだけれど、行き過ぎてはいない。室内の色や素材の質感は程よい高級感があり、どこか海外のエッセンスを感じつつ、リラックスした時間を過ごせます。日常と非日常のさじ加減が上手だと思いました」

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客室の窓は大きくとられ、日中は自然光が室内を包み込むような設計も特長のひとつ。

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ローカルな旅を楽しむためのさまざまなサポート

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カフェバーのテーブル席でくつろぐ鈴木さん。背後の壁は砂を混ぜた土を使うことからお砂焼とも呼ばれる広島の伝統工芸「宮島焼」をモチーフにしたもの。

エントランスからホテルに入るとカフェバーになっており、奥に注文カウンターと自動チェックイン機が置かれたフロントデスクがある。従来のホテルとは異なるスタイリッシュなつくりに「ホテルと知らずに入ってきたら、おしゃれな会社の受付かと思ってしまうかも」と鈴木さん。カフェバーのテーブルは、宿泊者なら自由に使えるパブリックスペース。椅子ごとにコンセントも用意されており、客室から気分を変えたワークスペースとしても利用できる。

メニューはコーヒーをはじめとするソフトドリンクのほか、地元のクラフトビールメーカー「セッションズ ブリュワリー」のビールを用意。オリジナルハンバーガー、5種のチーズピザなどの軽食も味わえる。営業は7時~22時で朝食のセットもあるので、旅行者にとっては心強い存在だ。

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ホテルから歩いて30分で行けるスポットを集めた「FAV SPOT A to Z BOOK」。各スポットを表す単語をA~Zに当てはめた26カ所は美術館や飲食店、ストリートなどバラエティ豊か。

「FAV HOTEL」はグループで利用できるホテルであると同時に、ローカルを存分に楽しむための拠点になることも強く意識する。観光名所に行くのは、旅の醍醐味。でも、見知らぬ街の路地裏を歩いたり、地元の人に愛される名店を訪れたり、そんなガイドブックにはない“普段着のローカル”に触れる時間も旅の豊かさのひとつと考えている。「FAV HOTEL 広島平和大通り」では、オリジナルの小冊子「FAV SPOT A to Z BOOK」をフロントで配布。名所や飲食店など地元で人気のスポットを、広島出身のスタッフがセレクトした。いずれもホテルから徒歩30分以内の場所にある。

「このホテルでしかもらえない、独自発信のガイドがあるのは宿泊者にとって嬉しいこと。拝見するとガイドブックというより、街を知るための読み物ともいえる内容です。飲食店はお好み焼き屋だけでなくローカルなうどん店も取り上げていて、地元目線なのがいい。ポケットに入れてふらりと街歩きをしたくなりますね」

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大理石調のキッチンにはIHクッキングヒーターがあり、鍋やフライパンをはじめ包丁、まな板など調理に必要なアイテムがひと通り揃う。
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キッチンスペースの棚を開けると、電子レンジや食器類が。生活品を目に入らない場所に収納しておくことで、便利かつ非日常感がある空間を演出する。

ローカルをより深く体感し、その土地にとけ込むような旅をするなら、暮らすような滞在スタイルが望ましい。「FAV HOTEL 広島平和大通り」はすべての客室にキッチンを完備。調理器具や器も備えられているので、普段の生活と同じように室内で食事を摂ることもできる。さらに乾燥機能付きの洗濯機もあり、長期滞在にも対応する設備がコンパクトに配置されている。

出張時は連泊が多いという鈴木さんにとって、充実した設備は実に魅力的。「部屋の中に洗濯機があるのは、とても重宝します。普通のホテルではコインランドリーは別の階にあることが多いですが、室内で完結できるのは嬉しいですね。また外食が続くと疲れることもあるので、キッチンがあるのもありがたい。仮に使わなかったとしても、あるだけで安心しますから」

暮らすように泊まれるホテルで、時間にゆとりある滞在ができれば、徒歩で巡れる周辺からひと足延ばした場所へと“ローカル”の範囲も広がっていく。「FAV HOTEL 広島平和大通り」を拠点にした、ローカルな旅。どんな楽しみ方ができるのか、鈴木さんにお薦めの場所と巡り方を聞いてみた。

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長期滞在なら間違いなく活躍する乾燥機能付き洗濯機。こちらもバスルームの入り口や扉付きのスペースに配置し、室内に生活感が出ないよう工夫する。

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旅のプロに聞く、広島旅のお薦めルート&スポット

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宮島港と広島港の15.19kmを結ぶ高速船は、1日6~8便運航。広島港と広島市内は路面電車やバスで結ばれている(写真は鈴木さん撮影)。

全国津々浦々を訪ね歩き、これまで広島にも何度も足を運んできた鈴木さん。「FAV HOTEL 広島平和大通り」を拠点にしたお薦めの日帰りプランをお聞きすると、「宮島がいいですね」との答えが返ってきた。世界遺産の厳島神社がある宮島は、広島観光としてはメジャーな場所。そこで話を聞いてみると、鈴木さんならではの視点が随所にあることがわかる。

旅は目的地で遊ぶだけではなく、行き帰りの行程も楽しむもの。それが鈴木さんの考え方だ。「まずは広島駅から山陽本線で宮島口駅まで行き、渡船で宮島に渡ります。宮島への王道ルートは、この渡船での往復です。でも、実は宮島と広島港を結ぶ航路もあって、帰りはこのルートを利用する。ジェット船で22分くらい。船のスピード感や景色が全然違う2つの船旅を楽しめますよ」

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潮が満ちると主柱の根元が海水に覆われる厳島神社の大鳥居。令和の大改修を終え、鮮やかな色に蘇ったばかり(写真は鈴木さん撮影)。
 
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左:「あなごめしうえの 宮島口本店」のあなごめし。できたてホカホカのおいしさは格別。「伊都岐珈琲」のスペシャルティコーヒーソフトクリーム。甘すぎない大人向けの味(写真は鈴木さん撮影)。

宮島に到着してからは、厳島神社へと続く表参道商店街を歩き、神社で参拝。その後、紅葉谷公園や宮島水族館で時間を過ごし、フェリー乗り場に戻るのが一般的な流れ。鈴木さんは島内からの往復ルートも変えると、新たな発見があるはずだという。

「帰りは賑やかな表参道商店街と並行する裏通りを歩いてみてほしい。宮島は観光地ですが、たくさんの人が住む島でもあります。住民の生活ルートを通り、その空気感を知るのも楽しいですよ」。

お薦めのお土産は、「宮島工芸製作所」のしゃもじと、「越智陶芸」の土鈴。「しゃもじは製材から仕上げまで島内で一貫してつくられています。土鈴は焼き物の愛らしい鈴で、おばあちゃんがひとつずつ手づくりに。どちらも非常に温かみがあって。小さな島で受け継がれている昔ながらの工芸品です」

おいしいものにも目がない鈴木さん。「個人的に日本一の駅弁だと思っているのが、『あなごめしうえの』のあなごめし弁当。宮島口にある本店は弁当を買えるだけでなく、できたてのあなごめしを食べられる唯一の食堂です。行列必至ですが、思い出になるのは間違いありません」。宮島には、お薦めのスイーツが。「『伊都岐珈琲』という比較的新しいコーヒースタンドのソフトクリームが絶品。写真映えもしますよ」

連泊してまだ時間に余裕があれば「尾道もぜひ」と鈴木さん。「景色が本当に素晴らしい。数々の映画の舞台になってますけれど、行けば世界的な巨匠が惚れる理由がわかります。歩いているだけで楽しい街って、そうはありません」

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ホテルのエントランスにて。「ネームサインは控えめで、大きな看板を掲げていない。従来のホテルとは違うセンスを感じます」と鈴木さん。

家族やグループで気兼ねなくひと部屋に泊まれ、キッチンなどの充実した設備が快適な長期滞在をも可能にしてくれる「FAV HOTEL 広島平和大通り」。「親しい人と数名で泊まれば絶対に楽しい」と太鼓判を押す鈴木さんは、滞在した感想を改めてこう話す。

「ホテルとしての空間は素敵で、居心地もよく快適に過ごせます。一方で、部屋を出るとローカルを楽しもうという気分も芽生えてくる。それは、住んでいるかのように滞在できるからかもしれません。『FAV HOTEL』は、僕なりに解釈すると、旅のハブになるホテル。ここを拠点に、いろいろな遊びや食につながっていく。そんな旅を存分に楽しめる場所だと思いました」

グループ旅行の拠点として、新たに生まれた「FAV HOTEL」。開業を控える各地の「FAV HOTEL」にも、期待は高まるばかりだ。

動画版はこちら

FAV HOTEL 広島平和大通り

住所:広島県広島市中区西平塚町7番15号
TEL:092-292-2431
料金:¥17,000〜(1名から)
FAV HOTEL広島平和大通りウェブサイト:
https://fav-hotels.com/hotels/hiroshimaheiwaodori/
FAV HOTEL ブランドサイト:
https://fav-hotels.com/

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