ベルギーの名匠、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の最新作『トリとロキタ』が3月31日(金)から公開される。2022年のカンヌ国際映画祭で「75周年記念大賞」を受賞した本作の公開を前に、ダルデンヌ監督へのインタビューが実現した。映画のストーリーとインタビューの様子をお伝えしたい。
トリとロキタは地中海をわたってヨーロッパへやってきた移民だ。アフリカのベナン出身のトリは「不吉な子」として迫害を受け、ベルギーへ渡ってきた。トリはまだ子どもだが、しっかり者だ。十代後半のロキタはカメルーン出身で、祖国にいる家族にお金を送っている。すでにビザを持つトリの姉と偽り、ロキタはビザを取得しようとしていた。
二人はイタリア料理店の客に向けてカラオケを歌って小銭を稼いでいるが、それはあくまで表向きの顔。本当はシェフに雇われ、ドラッグの運び屋をしてお金を稼いでいる。
ビザを手に入れたいロキタだったが、ビザ取得の面接ではトリの姉であることを疑われ、取得できない状況が続いていた。
焦るロキタは偽造ビザと引き換えに、シェフからの提案に乗り、三ヶ月間ひとりきりで大麻を栽培することになる。目隠しをされ、栽培倉庫に連れてこられるロキタ。外界からの情報は一切遮断され、不安を覚える。「トリと連絡を取りたい」と言っても聞き入れてもらえない。
そんな中、トリは倉庫に向かう車に忍び込み、ロキタのもとへ。二人はつかの間の再会を喜ぶが、そこにシェフがやってきて……。
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本作は移民の厳しい現実が赤裸々に描かれている。ダルデンヌ監督はインタビューの初めに、「映画で描いたことはヨーロッパの現実です。ある新聞記事が目に留まり、そこから調べたのですが、未成年だけでヨーロッパに渡り、何らかの理由で消息が分からなくなっている未成年の亡命者がいました。犯罪組織に組み込まれてしまう構造があるのです」と語った。
しかし、犯罪に手を染めてしまう二人を描くことは、移民と犯罪を結び付けてしまう危険はないのだろうか。
「その懸念はよく分かります。でも、この映画のなかで二人がお金を稼ぐ唯一の方法は違法で働くこと。経済と社会がそうさせているのです。ロキタのように家族に送金する必要はあるが、ビザを取得できない場合、闇社会で働くことしか残されていないのです」
移民を排斥する排外主義はヨーロッパをはじめ各国で広がり、大きな問題となっている。国境を越えてやってくる移民に対し、どのように向き合えばよいか。
「移民に対して友情をもつことが大切です。移民はわたしたちにとって脅威ではない。映画で描いたように、犯罪組織に関わる移民の子供たちがいるのも事実です。彼らは様々な理由でやってきますが、彼らに身分を与えればよいのです。難民として認定し、ビザを与え、学校に行かせてやり、職業訓練をすることが重要です」
ダルデンヌ監督が、映画を通して伝えたかったこととは。
「映画ではトリとロキタの友情のすばらしさを見せたかった。ロキタがトリをかばう場面を見てほしい。友情を描くと同時に、移民の子どもたちがヨーロッパで置かれている現実の状況を告発したかったのです」
『トリとロキタ』
監督/ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演/パブロ・シルズ、ジョエリー・ムブンドゥほか
2022年製作 ベルギー・フランス合作映画
89分 3月31日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントのほかにて全国公開。
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