
伊勢湾と熊野灘に面し、南北に長くのびる三重県。伊勢海老や松阪牛に代表される美食の宝庫として知られ、伊勢神宮など魅力的な観光資源も各地に点在している。
一方、この地ではさまざまな伝統工芸品や地場産品が育まれてきた。たとえば、古くは武具の飾りとして発展を遂げた伊賀くみひも。土鍋で約80%の全国シェアを誇る四日市ばんこ焼もそのひとつ。他にも松阪もめんやパール、かぶせ茶など、県内各地で優れた品々が生まれている。それらの魅力を改めて見つめ直し、未来へとつなぐ試みが、この3年にわたり行われている。定期的に開催されるワークショップには県内を代表する事業者が集結し、地域や業種の枠を超え連携。各界で活躍するクリエイターを講師に迎え、新たな価値を生む商品開発を目指してきた。次ページのコラボ商品は、その一例だ。食材に関しては人気料理家のウエキトシヒロ監修のもと、新たな視点でレシピを作成。さらに、持続可能な社会の実現が求められるいま、エシカル消費に対応した商品開発も進んでいる。
そうして生まれた商品は、伊勢市の人気セレクトショップ「衣 ジェネラルストア」、神戸市の「じばさんele」、都内の「無印良品 銀座」、「二子玉川 蔦屋家電」にて展示販売を予定する。新たな三重の名品を、ぜひ実際に手に取ってみてほしい。
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コラボ商品
業種の異なる事業者が手を組み、これまでになかった商品を模索。素材のポテンシャルを活かしたコラボレーションが実現した。
ジュエリーボックス
(アリマノ × クラフトアルマジロ)

お気に入りのジュエリーは、身に着けていない時も目で楽しみたい。そんな想いを具現化したのがこちら。収納しても容器の上にジュエリーが顔を出す。チタン製で強くて軽く、繊細に施された加工も美しい。シルバー¥7,700、ブルー¥8,800(ともに写真のジュエリーは別売)/クラフトアルマジロ www.craft-armadillo.com、アリマノ https://alimano-onlineshop.com

バイクパーツの製造で溶接に用いる部品を利用している。
お風呂タオル
(おぼろタオル × 神戸ザック)

おぼろ染めやガーゼタオルなど、新たな商品開発を進めてきたおぼろタオル。神戸ザックのロゴが入ったこちらは、銭湯などでの使用を考えて商品化したもの。2重袋織構造のガーゼは肌当たり優しく、汗を素早く吸収する。湯に浸すと柄が浮き出るのも面白い。¥990/おぼろタオル www.oboro-towel.co.jp
鹿の角ペンダント
那智黒石ペンダント
(アリマノ × 松島組紐店)
鹿の角と那智黒石を、国の伝統的工芸品の伊賀くみひもでペンダントに。三重に昔からある素材を組み合 わせたファッションアイテムだ。鹿は神の使いとして大切にされ、那智黒石もお守りに用いられてきた。絹のくみひもは色鮮やかで、金属にはない温かみを纏う。各¥16,500/アリマノ https://alimano-onlineshop.com、松島組紐 http://www.iga-kumihimo.com
ミニ掛け軸
(三重軸装 × 衣 ジェネラルストア)
床の間がない住宅でも掛け軸を身近に感じてもらえるよう、ミニサイズにアレンジ。寺社仏閣用掛け軸の素材をそのまま使った本格派だ。生地は700種類以上の中から現代的な柄をチョイスした。文字が記されていないバージョンもあり、使い方の自由度が広がる。各¥5,280/衣 ジェネラルストア www.kholomo.com、三重軸装 https://miejikusou.jp
日本茶香炉
(藤総製陶所 × マルシゲ清水製茶)
四日市ばんこ焼の窯元とお茶農家が共同開発したアイテム。香炉は電気式加熱を採用し、安全性に配慮。茶葉は三重特産であるかぶせ茶の茎茶を選んだ。甘さを感じる優しい香りが特徴で、リラックスしたひとときを演出してくれる。¥16,500/藤総製陶所 https://fujisou-s.jp、マルシゲ清水製茶 https://marushige-cha.jp

お茶の香りには消臭効果があるので、焼き肉やお鍋の後などにもお薦め。
伊賀くみひも × ベビーパールブレス
(衣 ジェネラルストア × 松島組紐店 × ユニオン真珠)
気軽に日常づかいしたくなるパールアクセサリー。名高い伊勢志摩産パールの中でも個性的なバロックベビーパールを使うことで、価格もカジュアルに設定できた。絹糸のくみひもは光沢があり、天然素材なのでアレルギー体質の人でも身に着けやすい。¥4,290/衣 ジェネラルストア http://www.kholomo.com、松島組紐 http://www.iga-kumihimo.com、ユニオン真珠 https://unionpearl.com

このパールアクセサリーには、セレクトショップ「衣 ジェネラルストア」のオリジナル収納袋が付く。
メガネホルダー
(クラフトアルマジロ × 松島組紐店)
バイクのパーツと伊賀くみひもという、普段は交わることがない素材の組み合わせでアクセサリーに。組紐はしなやかで耐久性に優れた工芸品。そこにアルミフランジのミニチュアを結びメガネホルダーにする発想が楽しい。紐・紺×フランジ・シルバー¥3,300、紐・黄色×フランジ・黒¥3,850/クラフトアルマジロ www.craft-armadillo.com、松島組紐 http://www.iga-kumihimo.com

メガネホルダーは写真のように、パーツをメガネの一部に引っ掛けて使用する。紐・銀×フランジ・ガンメタ¥3,300
チタンカップバッグ
(クラフトアルマジロ × 神戸ザック)

鈴鹿でオートバイのマフラーを製造するクラフトアルマジロ。その技術を生かした人気商品「チタンカップ」を持ち歩きたいとの声に応え、収納バッグを作製した。気軽に使えるよう、軽量かつ丈夫なナイロン製に。登山ザックの老舗・神戸ザックが手掛けた。Sサイズ¥1,980、Mサイズ¥2,200/クラフトアルマジロ www.craft-armadillo.com
エシカル商品
社会問題解決のために、事業者ができることを実践。創意工夫を凝らした商品を通して、未来を考えてみてほしい。
三重の食材で作った“Re:ミックスピザ ” - ウツボチリガーリック-
よろこば食堂(ホエイ)× 保田商店(桑名もち小麦)× 山藤(ウツボ)× 辻製油(トマト、フレーバーオイル)

各事業者が抱えている課題を、ピザというかたちで新たな価値にリミックス。チーズの副産物で、栄養価が高いにもかかわらず廃棄されているホエイは、生地に練り込みもっちりした食感を実現。トマトは規格外のものを使用した。未利用魚のウツボも干物にして細かく砕き、食感のアクセントに。未使用資源のゆずの皮から抽出したフレーバーオイルが風味のまとめ役だ。開発時の条件は、食べておいしいこと。未来への想いがあふれる。¥1,180/よろこば食堂 https://yorokoba-ichiba.com、保田商店 www.sozai-ya.jp、山藤 https://yamatou.net 辻製油 www.tsuji-seiyu.co.jp
tutikabe
蒼築舎 × ユニオン真珠(アコヤ貝)、× 熊野那智黒石協同組合(那智黒石)、× 保田商店(麦わら)の3種

土壁は自然素材を建物に利用する伝統技術。それを手がける左官職人が、土壁の技法でデザインパネルを作成した。ポイントは、アコヤ貝や麦わらなど捨てられゆく地域素材を組み合わせたこと。それらをよりよく再生できたのは、常に自然素材と向き合ってきた左官の技術があったからこそ。パネルを飾れば室内の調湿や消臭など、土の力で空間を調えることができる。右から、麦わら(大)¥44,000、アコヤ貝¥71,500、那智黒石(小)¥33,000/蒼築舎 www.tutikabe.net、熊野那智黒石協同組合 www.nachiguroishi.com、保田商店 www.sozai-ya.jp
「四日市ばんこ焼 銀味ごはん鍋」&「専用小型IH 調理器」セット
(藤総製陶所)
土鍋で炊いたご飯の味は、誰もが認めるところ。ただ、ガス火で炊くとエネルギーの多くが炊飯以外に放出され、熱交換にムダが生じてしまう。IH調理器であればロスが少なく済み、安全性も向上するのではないか。そんな想いから開発されたのが、こちらの商品。鍋の土には超耐熱陶土を採用し、鍋底に銀を焼き付けることでIH調理器から効率よく熱を伝導。ワンタッチで自動炊飯できるのも、IHならではのメリットだ。¥ 25,300/藤総製陶所 https://fujisou-s.jp/index.html
期間限定! 三重のものづくりを体感できる場
掲載したコラボ商品やエシカル商品だけでなく、三重の食材や伝統工芸品などが一堂に会する「つながる市 三重編」が都内の「無印良品 銀座」にて行われる。開催中は商品販売だけでなく、複数の地場産業に関するワークショップや著名なゲストを招いてのトークイベントも実施。なお、掲載商品は無印良品 銀座の他、「衣 ジェネラルストア」「じばさんele」「二子玉川 蔦屋家電」の計4カ所で販売予定だ。

無印良品 銀座で開催される今回のフェア。子ども連れでも楽しめそうなラインアップだ。
無印良品 銀座
●東京都中央区銀座 3-3-5
会期:2/6〜2/12
TEL:03-3538-1311
https://shop.muji.com/jp/ginza
二子玉川 蔦屋家電
●東京都世田谷区玉川1-14-1 二子玉川ライズ S.C. テラスマーケット
会期:2/27〜3/5
https://store.tsite.jp/futakotamagawa衣 ジェネラルストア
●三重県伊勢市本町6-4 シャレオサエキ1F
会 期:開催中〜2/19
TEL:0596-22-1128
www.kholomo.com じばさんele
●兵庫県神戸市中央区御幸通8-1-6 神戸国際会館ソル B2F
会期:2/1〜
TEL:078-855-2399
www.icori.net/ele
アレンジレシピ
三重が誇る食材を、料理家のウエキトシヒロが斬新にアレンジ。ここではその全レシピを紹介する。
ウエキトシヒロ
●長野県生まれ。家族のための料理をテーマに、ラクにつくれる「主役飯」を発信する。NHK『おはよう日本』などテレビにも出演多数。
明太子クリーム伊勢うどん(かいだ食品)
一般的なうどんよりも麺が太く、たまり醤油をベースにした黒いタレで味わう伊勢うどん。伊勢神宮の参拝客をもてなすために生まれた歴史ある料理だが、その太い麺ゆえの可能性に目をつけたウエキ。「食べごたえのある麺の太さともちもちした食感は、クリームとも相性抜群。クリームパスタ風にアレンジしました」。和えるのは生クリームとバター、明太子のソース。老舗製麺所の太麺が、現代的なひと品に生まれ変わった。
タコ天おにぎり(ミエライス)
「結びの神」は三重県生まれのブランド米として知られる。もっちりした食感で、冷めてもおいしいのが特徴。この米とタコ天で、三重発祥の天むす風にアレンジしたウエキ。「冷めてもおいしいこの米は、おにぎりにぴったりです。タコは“置くとパスする”という合格祈願の語呂合わせで使いました。夜食にも向いているので、受験生に食べてもらえるとうれしいですね」。タコ天には伊勢うどんのタレで味付けする工夫も施されている。
ミエライスの「結びの神」/ミエライス www.mierice.co.jp
はちみつの甘辛唐揚げ(松治郎の舗)
松治郎の舗は三重にて大正元年創業した老舗養蜂園のはちみつ専門店。松阪・伊勢エリアの花々から採蜜した蜜匠「花々」でウエキが考えたのは、地元の名物をバージョンアップさせるアイデアだ。その名物とは、唐揚げにたまり醤油ベースの甘タレをかける「伊勢甘タレからあげ」。タレの甘みに砂糖ではなくはちみつを使用した。「はちみつを使うことで、甘タレのコクと深みが増します。とろみがあるので唐揚げに絡みやすくなりました」
松治郎の舗の蜜匠「花々」/松治郎の舗 www.matsujiro.shop
鶏焼き飯(丸井食品)
味噌ダレに絡めた鶏肉を、網焼きにした松阪鶏焼き肉。和牛のイメージが強い松阪で、時代を超えて愛されてきたローカルフードだ。その松阪鶏焼き肉に欠かせないタレについて「本当に万能。鶏焼き肉だけに使うのはもったいない」とウエキ。そこでアレンジしたのが焼き飯だ。「タレだけでご飯をおかわりしたくなる味なので、お米と合わせました。具は鶏肉と長ネギ、トウモロコシとシンプルに。子どもも喜ぶ焼き飯になりました」
松阪牛の肉めしキンパ(松本畜産)

松阪牛の生産者が、米に混ぜて炊くだけで牛肉の炊き込みご飯になる「にくめしの素」を開発。この炊き込みご飯をウエキがキンパにひと捻りした。「牛肉とキンパはとても相性がいいんです。だから白米の代わりに牛肉の炊き込みご飯でつくれば、さらにおいしくなる。ナムルにしたニンジンや小松菜、そしてたくあんの食感も牛肉のおかげで普通のキンパより際立ちます」。韓国風の海苔巻きが、松阪牛の旨みでワンランク上の味わいに。
しぐれ煮パスタ(総本家新之助貝新)

厳選したアサリを使い、特製のたまり醤油で甘辛く炊いた総本家新之助貝新の浅利志ぐれ煮。炊きたてのご飯がどんどん進むしぐれ煮を、パスタという洋風のひと皿にアレンジした。「ご飯のお供はパスタにしてもおいしいことが多いんです。今回はしぐれ煮にツナを加えることでコクと旨みのバランスを取りました。茹でた麺にしぐれ煮とツナ、バターを和えるだけで本当においしいパスタになります」。大葉が爽やかなアクセントに。手軽にできるのも嬉しい限り。
総本家新之助貝新の「浅利しぐれ煮」/総本家新之助貝新 https://kaishin.co.jp
きゃらぶき胡麻ディップソース(宮川物産)

きゃらぶきは奥伊勢エリアの特産品。地元で自生する山蕗を原料に使い、力強い風味を活かしつつ昔ながらの製法で炊き上げる。素朴で懐かしい里山の味を、年配の人だけでなく若い人にも知ってもらおうと開発したのが胡麻ディップソースだ。「マヨネーズをベースにしたソースに、刻んだきゃらぶきと胡麻、クルミなどを合わせました。たとえば、野菜スティックに添えて。ご飯のお供やお茶請けといったイメージとは違う、新しい食べ方の提案です」
かぶせ茶酵素ドリンク(マルシゲ清水製茶)

かぶせ茶とは、収穫前の新芽に約2週間黒い覆いをかぶせて育てたお茶のこと。甘みたっぷりの味わいで、三重が全国トップの生産量を誇る。このかぶせ茶を使った新たなドリンクメニューの考案が、お茶生産者からのリクエスト。「レモンの酵素シロップを水出しかぶせ茶で割るドリンクを考えました。カテキンに発酵をプラスした身体に優しい飲み物。かぶせ茶の甘さに酵素シロップの爽やかさが寄り添うおいしいコラボレーションが生まれました」
マルシゲ清水製茶の「かぶせ茶ティーバッグ」/マルシゲ清水製茶 https://marushige-cha.jp
三重の食材を使った独自メニューを供するフェア
アレンジメニューの中には、松阪牛の希少部位であるとうがらしを用いた贅沢な皿も揃う。 Photo: Taku Tuchiya
このページで紹介した料理とはまた異なるアレンジメニューを、実際に店舗で供する「食のお三重参り 2023」が開催される。監修したのはウエキトシヒロと、関西を中心に郷土料理店を展開する企業「ワールド・ワン」だ。汁なしカレー伊勢うどんや奥伊勢はちみつゆずサワーなど、こちらは三重の食材を居酒屋メニューとして楽しめるようアレンジした。詳細はPen Onlineの別記事やワールド・ワンのサイトをチェック。期間限定の提供となるのでお見逃しなく。
期間:2/1〜2/28
開催店舗:神戸、大阪、都内のワールド・ワンの複数店舗
www.world-one-group.co.jp