クリエイター3人が考える、 新しい時代のスタンダード

  • 写真:黒坂明美
  • スタイリング:飯垣祥大
  • ヘア&メイク:小森栄祐
  • 編集&文:佐野慎吾
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これからの“スタンダード”について、時代を切り拓くクリエイターとそれぞれの愛用品とともに考えた。

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ジ・オニツカの代表的モデル、 「ダービー」を解き明かす

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アッパーの前半分にだけ鏡面磨きを施した「ダービー」は、ソリッドなモノトーンスタイルに光沢感のアクセントを添える。丸みを帯びたデザインも、ユニークなシルエットを強調する。靴¥47,300/ジ・オニツカ(オニツカタイガージャパン お客様相談室)

自分とは真逆の性質に、憧れの気持ちを抱く──江﨑文武(ミュージシャン)

バンドやソロでの活動のほか、アーティストへの楽曲提供や編曲・プロデュースに加え、映画音楽、アニメーション音楽、CM音楽などを幅広く手がける江﨑文武。やわらかなシルエットをミニマルなモノトーンでまとめたコーディネートに、「ダービー」を合わせてくれた。これまでは音楽活動ばかりに情熱を注いできたという彼だが、コロナ禍で外出もままならない状況が続くなかで、改めて自分の身の回りのものに意識を向けるようになったという。

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ライカ「M6」を愛用していた大おじの影響もあり、江﨑もライカ「MP」を愛用。空シャッターを切ることに、写真を撮ること以上の快感を覚えるほどのメカ好きだ。
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江﨑にとっての新定番として挙げたのは、AppleのAirPodsPro。「音楽を深掘りするようになったきっかけは、中学生の時にiPod nanoを買ったこと。Appleのデザインも元をたどれば、ドイツ人デザイナーのディーター・ラムスの影響が色濃く見られます」と江﨑。 

「もともと小学生の頃は工学部に進むことを夢見ていたほど、ものづくりに強い憧れを抱いていました。凝り始めるとマニアックに突き詰めていくタイプなので、大人になったいまも洋服や靴はもちろん、椅子、皿、時計、カメラなど、欲しいものがどんどん増えてしまうのが悩みです(笑)」特に、質実剛健なドイツのデザインに惹かれることが多いという江﨑。その理由は、自分とは真逆の性質だからという。「僕自身の音楽は、どちらかというとやわらかくて、時に抽象的でもあるフランス寄り。だからビシッと計算されつくしたようなドイツの音楽やデザインに触れると、とてもいい刺激になるんです。バンド活動にしてもそうですが、異なる性質をもつ個性が混ざり合うことで、そこから新しいものが生まれていきます」
細部まで美意識あふれる江﨑の音楽観は、彼のもの選びにも直結しているようだ。

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前半分にはエレガントな光沢感を、後ろ半分にはソリッドな質感を併せもち、まさに江﨑が 惹かれるという剛柔両極の要素を体現しているかのような「ダービー」。「人前で演奏すると きは、このくらい存在感のあるデザインがちょうどいいですね」と江﨑。

江﨑文武/ミュージシャン●1992年、福岡県生まれ。4歳からピアノを、7歳から作曲を学ぶ。東京藝術大学音楽学部卒業。自身のバンドWONK、millennium paradeでキーボードを務めるほか、KingGnu、Vaundyなど数多くのアーティストの作品に参加。2021年よりソロ活動もスタート。

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蓮沼が選んだ一足は、クラシックなレザーシューズらしいスムースレザーのアッパーと、マットなレザーを前後で切り替えたユニークなデザイン。眼鏡をかけたシックな雰囲気にもぴったりだ。靴¥41,800/ジ・オニツカ(オニツカタイガージャパン お客様相談室)

柔軟なマインドで変容していくスタイルを楽しむ──蓮沼執太(音楽家)

アンビエント、サウンドインスタレーション、ポップオーケストラなど、ジャンルや編成にとらわれることのない、自由な創作活動を続ける蓮沼執太。それがどんなに前衛的、または実験的な試みだったとしても、奇をてらうことなく、誰の耳にも親しみやすいポップなサウンドへとアウトプットする蓮沼のスタイルは、常に自然体で気負いのない、彼自身の佇まいにも表れている。

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蓮沼にとっての新定番は、友人であり、ラジオ番組で共演するグラフィックデザイナーの長嶋りかこが、再生紙を使用してデザインしたカレンダー。「時間を記号で表すという点で、楽譜とカレンダーは似ています。来年は時間の流れをもっと感じて過ごしたいと思い購入しました」

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これまで眼鏡とは無縁だった蓮沼だが、「眼鏡をしている自分というのが新鮮で、必要ないものをあえて使ってみるのも面白い」と愛用中。

「いまの時代は、新しさの見出し方も変化していて、古いスタイルやシステムをただ壊して、アヴァンギャルドなことをすればいいのかといったら、必ずしもそうではありません」と蓮沼。以前よりも多様で柔軟な現代社会では、"壊す"という行為自体が、すでにありふれた手法のひとつになっていると彼は考える。「過去のいろんなスタイルを吸収した上で、これまでとは違った側面にフォーカスするだけで、見えかたが変わり、新しさが生まれると思います。だから僕も、自分のなかのスタンダードのようなものを大事にしつつも、常にそれを裏切っていきたいという思いがあるんです。時代の流れを見てリアクションしたり、あえてやったことのない手法を選んだりすることで、スタンダードは常に刷新されていくと思います」

身の回りの品も、親しみやすいクラシックなスタイルをベースにしながら、モダンさを求める蓮沼のもの選びは、普遍的でありながら、どこか新しい。

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「クラシックなデザインのレザーシューズも好きですが、履き心地がしっくりこないことが多くて。この『ダービー』は、履き心地がすごくいいですね」と蓮沼。ダービーは、ソールのかかと部分に高性能なクッションシステムを採用し、衝撃吸収性を高めている。

蓮沼執太/音楽家●1983年、東京都生まれ。2010年に蓮沼執太フィルを組織。国内外での音楽公演をはじめ、映画、ドラマ、演劇、ダンスなど、ジャンルの枠を超えた音楽制作活動を行うほか、個展やインスタレーションなど、新たな表現方法の創出にも積極的な姿勢を見せる。

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モダンなルックスの「ダービー」を合わせ、シンプルなセットアップのスタイルをブラッシュアップ。靴¥41,800/ジ・オニツカ(オニツカタイガージャパン お客様相談室) ジャケット¥101,200、パンツ¥46,200/ともにユーゲン(イデアス/TEL:03-6869-4279) ニット¥97,900/マッキントッシュ クラフテッド バイバトナー(バトナー/TEL:03-6434-7007)

心地よさを求め、自分に最適な機能を選択する──小川 哲(作家)

「新定番と聞いてまず思い浮かべるのは、使いやすくて、心地よくて、とりあえずそれを身に着ければ、どこに出て行ってもさまになるもの」と語る、作家の小川哲。20代の頃はいろいろなジャンルのファッションに目移りしていたという小川だが、30代になってからは、自分に必要なものがはっきりしてきたそうだ。

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乾燥機付きの洗濯機を導入して以来、ポリエステルなど化繊素材のアイテムが小川の新定番となった。「普段は自宅で仕事しているので、外出するのは、取材などで人前に出るときがほとんどです。乾燥機に入れてもシワにならない化繊素材は、いまのライフスタイルに合っています」
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仕事をする上で欠かせない定番アイテムは、原稿を書くときに使うMacBook Proや、ゲラに赤入れするときに使うタブレットPCのSurfaceです」

最近、洗濯に費やす時間を短縮するために、乾燥機付きの洗濯機を購入したという小川は、「いまはシワになりにくくて、乾きやすい素材であることが、服選びでの一番の基準になっています(笑)。靴選びにしても、昔はかっこよさを優先して、少しくらい痛くても我慢して履き通しましたが、いまはお洒落のために無理すること自体がお洒落じゃないと思うようになったので、履き心地や利便性が、価値基準の上のほうに上がってきています」と続ける。そんなふうに自分の価値観が変化するタイミングにこそ、新しいスタンダードとの出合いがある。「若い頃は、いろんな種類のアイテムをたくさん所有することに意義を感じていましたが、いまは自分の感覚に合っているものであれば、毎日同じ格好でもいいと思っています。まったく同じアイテムを、繰り返し購入するようなことも増えました。

この『ダービー』はスニーカーのような軽くてやわらかいフィット感と、スタイリッシュなデザイン性が両立していて、とてもバランスのいい靴だと感じています」

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クラシックなジャケットスタイルに合わせても、どこかモダンな印象に見えるのは、ボリューム感のあるシャークソールと、赤いミッドソールのカラーリングによるもの。もちろんスウェットパーカなどのカジュアルなスタイリングにも合わせやすく、汎用性は高い。

小川 哲/作家●1986年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在学中の2015年に『ユートロニカのこちら側』(早川書房)でデビュー。17年『ゲームの王国』(早川書房)が第38回日本SF大賞と第31回山本周五郎賞受賞。最新著書に『地図と拳』(集英社)がある。

オニツカタイガージャパンお客様相談室 TEL:0120-504-630