“もの派”とはそもそも何か。兵庫県立美術館『李禹煥』展の開催を記念した、李禹煥×浅田彰対談

  • 文&写真(ポートレート):韓光勲

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国際的にも注目を集めてきた「もの派」を代表する美術家、李禹煥(リ・ウファン)の大規模な回顧展が神戸で開かれている。

12月17日、李禹煥と批評家で京都芸術大学教授の浅田彰による対談が同美術館ミュージアムホールで行われた。満員の観客を前に、二人は何を語ったのだろうか。対談の様子をお伝えしたい。

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対談はリラックスした雰囲気でスタート。浅田は「李さんらしい展覧会を拝見できてよかった。間違いなく素晴らしいが、果たしてこんなに美しくていいのだろうか」と話した。

話は「もの派とはそもそも何か」という方向へ。李は「60年代後半から70年代初めのころは、『もの派』という言葉は蔑視の言葉として使われました。それがいつの間にか定着した。当時はアメリカでベトナム戦争反対、フランスで5月革命、日本で全共闘があった。それらが最高潮に達して崩れる時代。いま振り返ると、そういう時代の空気、気持ちをよく表していたのだと思います」と語った。

絵画作品についても語られた。浅田は「李さんは『別な絵画』があるはずだと始められたわけです。余白の芸術、余白自体を描くということ。絵画に関してはいかがですか」と問いかける。

李は「1970年代初め、『絵画は終わった』とよく言われた。でも、ニューヨークでバーネット・ニューマンの作品を見たとき、絵画はまだこんなに力があるのだと思い、自分も絵が描きたいと思った。そのとき、子どものころに線や点を描いていたのを思い出したのです」と応じた。

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音楽家、坂本龍一との交流も明かされた。坂本龍一の約6年ぶりとなるオリジナルアルバム『12』のジャケットに、李禹煥さんは新作ドローイングを提供する。アルバムは2023年1月17日にリリースされる予定だ。

さらに、浅田は「李さんはオリエンタル(東洋らしさ)ではない。惑星と生きていくうえでみんな本当は気付いたほうがいいということを主張されたのだと思う」と述べた。

李はこれに応じ、「オリエンタルと言ったらアウトなんです。そういうことじゃない。人間は自然の中で発達してきたもので、もとの要素を引き出せば似たものが出てくるという話なんです。アジア、日本、韓国、などと言ったところで何もならない」と力を込めた。

最後に、浅田は「李さんは植民地化され分断された韓国から日本に来て、いまも日本で本拠を置きながら活動されている。これは日本の誇りであるとあえて言いたい。このようなアーティストが日本にいることは本当に誇っていいことだ」と締めくくり、会場は拍手に包まれた。

特別展『兵庫県立美術館開館20周年記念 李禹煥』

開催期間:~2023年2月12日(日)
開催場所:兵庫県立美術館
兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1 (HAT神戸内)
TEL:078-262-1011
開館時間:10時~18時
休館日:月、年末年始(12月31日〜1月2日)
料金:一般 1,600円、大学生 1,200円、高校生以下 無料、70歳以上 800円
https://www.artm.pref.hyogo.jp/

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