韓国がアメリカを席巻、躍進の源は移民のパワー? それでも期待したい日本の活躍

  • 文・写真:菅 礼子

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2022年を振り返ると、ニューヨークにいる筆者にとって、アジア系の中でも韓国系勢(韓国人やアメリカで生まれた韓国人)の存在感は大きかった。その理由はやはり、「エンタメ王国韓国」ということもあり、テレビや音楽で韓国アーティストに触れる機会が多く、分かりやすく接点が多いというのが挙げられる。

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世界を席巻するK-POPスター

今年6月に活動を休止したBTSだが、その存在感は未だ健在。(BTSのInstagramより)

アメリカでも知名度抜群の韓国ボーイズ音楽グループ・BTSは今年6月に活動を休止。世界中が衝撃を受けたわけだが、各メンバーの存在感も大きく、先日行われた「2022 FIFAワールドカップ」カタール大会の開会式ではBTSメインボーカルのジョングクがパフォーマンスを行うなど、ワールドワイドでの活躍が目覚ましい。

BTSだけではない。アメリカでは韓国ガールズ音楽グループ・BLACKPINKも全米ツアーを行うなど、世界的な活躍が目覚ましい。ソロメンバーはそれぞれ「ブルガリ」「シャネル」「ティファニー」「クリスチャン ディオール」などの世界的なラグジュアリーブランドのアンバサダーを務めるなど、ファッションアイコンとしての影響力を持つ。

最近ではマンハッタンはSOHOの巨大なビルボードに「カルバン クライン」の下着を身につけたジェニーの広告が出現するなど、世界最大都市とも言われるニューヨークでも存在感を見せつけている。

自身がモデルを務める巨大ビルボードをバックにしたBLACKPINKジェニー(ジェニーのInstagramより)

2021年にNETFLIXで爆発的な人気を記録した「イカゲーム」も韓国のストーリーであり、今年になってシーズン2のリリースも発表されるなど、テレビドラマでも韓国ドラマの勢いが増している。

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米国での影響力は「移民の数」に比例する?

アメリカに暮らすアジア勢の中でも、とりわけ中国系や韓国系の存在感が日系人よりも大きい理由は、移民の数の問題でもあると考えられる。アメリカは世界一の大国とも言われ、日本にいてもアメリカのニュースを目にしない日はないほど、世界の中心的な国と言える。日本はアメリカの判断に国政が左右されることも多く、日本人としてはアメリカの存在感を感じざるを得ない環境にある。

1980年代に多くのアジア系移民がアメリカへと成功を求めて海を渡り、2020年にアメリカでアジア系と認められた人(アメリカ国籍を持つアジア系)の推定は2,400万人に上ると言われ、その数はアメリカ合衆国人口の6.2%にあたる。(出典/ CENSUS

2020年のデータによるアジア系アメリカ人の人口比率を見ると、中でも中国系が一番多く約415万人、次いで約414万人と僅差でインド系、続いてフィリピン系が約288万人、ベトナム系が約185万人という順番。韓国や日本は…? というと、アジア系としては5番目に韓国系、6番目に日系が続く。

Pew Reserchによると、中国系に関しては巨大な中華街のあるフラッシングや、マンハッタンのチャイナタウンがあるニューヨークにその人口が集中し、全米最大のチャイナタウンがあるサンフランシスコやロサンゼルスといった都市部にも根をおろしている。韓国系に関しても同じことが言え、ロサンゼルスに人口が集中しており、次いでニューヨーク。両都市ともに繁華街として賑わうコリアンタウンの大きさからも納得ができる。日系はホノルルが最多で、ベトナム系などはテキサスのヒューストンなどに人口が多いため、ニューヨークやロサンゼルスではその影響を感じにくい。

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ニューヨークのコリアンタウン

貧困を逃れて海を渡ったアジア系は今では2世や3世が成人になり、彼らは教育レベルも高く、高年収を獲得する人々が多い。人種差別のあるアメリカでは、いい職業に就くことがアジア人差別を逃れる一つの手段ということもあり、ハングリー精神から医師や弁護士など、いわゆる高級取りな職業に就く人々も多い。

また、中国系や韓国系は人口的に巨大なコミュニティが確率されているため、コミュニティ内で助け合い、仕事を分け合い、回すというビジネスの循環システムができている。かつては「アジアの雄」とも言われ、裕福だと思われていた日本も、中国系や韓国系の移民の子孫たちが影響力を持ち始めているアメリカでは、その存在感は薄いと言っていい。

ここ40〜50年、日本は「裕福な国」で、母国を逃れるようにしてアメリカへ移民として渡った日本人は他の国の移民と比べて少ないのではないだろうか。また、「生きるか死ぬか」のような危機感を持ってアメリカに渡った日本人はありがたいことに少なく、結果としてそれがハングリー精神にも比例し、今になって差となって現れているのかもしれない。さらには今年に入ってからの円安で日本は「貧しい国になってしまったのでは」という懸念すら聞かれるようになった。

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ニューヨークのチャイナタウン

さまざまな産業や文化、人種が集まるニューヨークでは、国土の小さい韓国でも韓国系移民は多いため、本国のエンタメ業界がヒットすれば、アメリカでもそれを応援するシステムが出来上がっていることを体感しやすい場所でもある。

いくらアメリカで生まれても、移民たちは祖国の文化を守りながら生きる人々が多い。アメリカに移民が多ければ多いほど、その国でヒットしたものがアメリカで広まりやすくなる。アジア系でみると、中国系はすでにその基盤を固めており、最近では韓国のエンタメが席巻しているという印象だ。ロサンゼルスやワシントン、シアトルなど、都市圏に多くの韓国系移民が暮らすため、全米の韓国系が本国でヒットしたものをアメリカでも受け入れる器を持っているのだ。

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日本もまだまだ捨てたものではない!

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ニューヨークで開催された「Anime NYC」の様子

少なからず、アメリカで暮らす日本人は「頑張れ、ニッポン!」という気持ちを持っていると思う。筆者もその一人で、頑張らねばという気持ちだ。それでも、11月にニューヨークで行われたアニメニューヨークは日本の企業ブースが大半を占め、日本のアニメキャラクターのコスプレを楽しむ人々で溢れかえっているのを見て安堵した。「まだまだ日本も存在感がある!」。

テック企業が多く存在をするカリフォルニアのシリコンバレーやワシントン州では「インド人街」が出来上がっているという。テック分野に強いインド系や中国系の移動が顕著なようだ。巨大なアメリカでは産業によっても人口の分布の特徴は違うが、アジア系が存在感を増してきていることには間違いなさそうだ。

文・写真:菅 礼子