【今月の映画3選】「ダメ恋愛」の名手の新作は小津映画を感じさせる傑作。『窓辺にて』ほか

  • 文:森 直人(映画評論家)
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今月のおすすめ映画①『窓辺にて』
「ダメ恋愛」の名手の新作は、小津映画を感じさせる傑作

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稲垣吾郎演じる市川茂巳は、かつて将来を嘱望される新進作家だったが、デビュー作のあと小説を全く書かなくなった男という設定。今泉監督によると、本作の主題のひとつは「手放す」こと。それをネガティブではなく、ポジティブな行為や精神として描くことを試みたという。© 2022「窓辺にて」製作委員会

今泉力哉監督のオリジナル脚本による新作は、かねてから彼の映画のファンだという稲垣吾郎を主演に迎えた。「うちの妻が浮気してるんです」――なんてことを本作の主人公であり、元小説家、現フリーライターの市川茂巳(稲垣)がふと呟く。

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その問題の妻とは、文芸誌の編集者として働く紗衣(中村ゆり)。彼女は現在担当している若手作家の荒川円(佐々木詩音)と秘密の関係を重ねている。さらに市川の友人であるプロスポーツ選手のマサ(若葉竜也)は、妻ゆきの(志田未来)と小さな娘に隠れて、タレントのなつ(穂志もえか)と浮気中――。

確かに『サッドティー』『愛がなんだ』『街の上で』といった代表作をはじめ、今泉力哉は自分の映画のメインテーマを「ダメ恋愛」だと自己規定し、ロマンティック・ラヴ・イデオロギー(運命の相手と一対一で結ばれ、結婚という制度で安定を育むことを理想とする考え)を撹乱する不安定な恋愛模様ばかり描いてきた。浮気や二股といったモチーフを通して、“友だちの知り合い”みたいな近い場所に暮らす面々が皮肉な形でつながっていく。その中で彼らは自己決定がゆらぎ、浮遊した関係性を生きる。まるで終わらない輪舞(ロンド)を踊り続けるように。

高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)から大人たちまで、幅広い世代のこじれた恋愛が描かれる『窓辺にて』は、今泉初期の『こっぴどい猫』を思わせる。通常のドラマはそこから回復や再生、あるいは成長を目指すのだろうが、しかし本作の登場人物たちは、自分に起きた事実を不器用に受
け止めるだけだ。映画の最初と最後、カフェの窓辺に佇む市川は一見ループしたかのように変わっていない。ただし時は流れているのだ。諸行無常の響きあり。この感覚、今泉映画に初めて小津安二郎を感じた。傑作。

『窓辺にて』

監督/今泉力哉
出演/稲垣吾郎、中村ゆりほか
2022年 日本映画 2時間23分 11月4日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画②『犯罪都市 THE ROUNDUP』
マ・ドンソクがプロデュース兼任、大ヒットアクション映画の続編

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©ABO Entertainment Co. , Ltd. & BIGPUNCH PICTURES & HONG FILM & B. A .ENTERTAINMENT CORPORATION

大人気スターの“マブリー”ことマ・ドンソク主演最新作。2017年の『犯罪都市』の続編で、今回はマブリー自らプロデュースも兼任。おもな舞台はベトナムのホーチミン。主人公の刑事マ・ソクトは国外逃亡した容疑者を追う中で、より凶悪な犯罪の捜査に乗り出す。残忍極まりない最狂の悪役を、Netflixドラマ『私の解放日誌』で話題のソン・ソックが怪演。都市型リアルアクションの醍醐味満載で、さらにパワーアップした圧巻の面白さだ。

『犯罪都市 THE ROUNDUP』

監督/イ・サンヨン
出演/マ・ドンソク、ソン・ソックほか
2022年 韓国映画 1時間46分 11月3日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画③『恋人はアンバー』
セクシュアリティを隠すため、カップルとなった高校生の青春

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© Atomic 80 Productions Limited/ Wrong Men Nor th 2020, All rights reserved.

アイルランドから届いた青春映画の新たな名作。1995年の田舎町、同性愛への差別が根強い地元で、高校生のエディとアンバーは自分たちのセクシュアリティを隠すため恋人関係を偽装する。「オアシスよりも断然ビキニ・キルよ」と吠える進歩的なアンバーに対し、保守的な価値観から逃れられぬエディ。性格も趣味も違うふたりからいかなる絆が生まれるのか。監督は「これは私自身の物語だ」と語る新鋭デイヴィッド・フレイン。ラストは涙腺崩壊!

『恋人はアンバー』

監督/デイヴィッド・フレイン
出演/フィン・オシェイ、ローラ・ペティクルーほか 
2020年 アイルランド映画 1時間32分 11月3日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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※この記事はPen 2022年12月号より再編集した記事です。