新型コロナによるパンデミックは多くの人を苦しめたが、困難から希望を生み出せるのが人類の強さなのかもしれない。コロナワクチンの開発で得られた知見をもとに、がん治療に役立つ新たなワクチンが生まれようとしている。
新型コロナ用ワクチン開発でファイザーと提携した独バイオンテック社の創業者らが、英BBCの番組に出演し、がん治療用のワクチンを10年以内に実現できるとの見通しを示した。
コロナ用の開発プロジェクトを経て、中核技術となるmRNA技術の知見が蓄積し、人体の免疫系の反応について見識が深まったという。
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すでに臨床試験が始まっている
番組を通じてがんワクチンへの自信を示したのは、バイオンテックのウール・シャヒンCEOと共同設立者のオズレム・トゥレシ氏だ。二人は共に科学者であり、夫婦でもある。
両氏によると今後、メラノーマ(悪性黒色腫)や直腸がんをはじめ、複数の種類の腫瘍にワクチンで対応できる可能性があるという。
同社は現在複数の臨床試験を進めており、被験者がもともと持っている免疫系を利用し、腫瘍を攻撃するよう仕向ける試験などを実施している。
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ウイルスの一部をまねて、抗体の産生を仕向ける
現在広く使用されている新型コロナ用mRNAワクチンの場合、接種を受けることで細胞内に設計図が伝わり、ウイルスの表面にあるトゲ状のスパイクタンパク質の部分が体内で作られるようになる。
このスパイクは無害だが、身体は敵の侵入だと認識し、同じ特徴を持った新型コロナウイルスを攻撃できる抗体を産生する。これが新型コロナ用mRNAワクチンのしくみだ。
がん用ワクチンの場合、スパイクタンパク質の代わりに、腫瘍細胞の表面に存在するマーカーを利用して同じ効果を再現するという。
英ガーディアン紙によるとシャヒンCEOは、がん向けワクチンが「2030年までには」完成するだろうとの見込みを語っている。
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コロナ向けの成功で研究者が自信
バイオンテック社ではパンデミック以前から、がん向けmRNAワクチンの臨床試験を行ってきた。そこへコロナ向けのmRNA技術が成功を収めたことで、開発は加速したようだ。
BBCは、「コロナ以前は、mRNAの力を利用したワクチンの製造が可能だとは証明されていなかった。しかし、パンデミック中にmRNAワクチンが成功したことで、がん向けの技術を研究する科学者たちが自信を持てるようになった」と述べている。
ただしBBCは、過去に有望と思われてきたがん療法の臨床試験の多くは、残念ながら望ましい成果を残していないとも指摘している。本ワクチンについても、成否が出るには数年の時間を要するようだ。
過剰な期待は禁物だが、大病に効果のあるワクチンが完成すれば、多くの人々にとって嬉しい報せとなるだろう。患者にとって救いとなるだけでなく、健康な人々にとっても将来に備えた安心材料となりそうだ。
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