治験中のがん新療法、18人全員の腫瘍が6ヶ月で消失 専門医「前代未聞」

  • 文:青葉やまと

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がん細胞が消えた...... 写真は、ヒト結腸がん細胞 NCI Center for Cancer Research/Urbain Weyemi, Christophe E. Redon, William M. Bonner

<手術の必要もなく、薬の服用だけですべての患者が寛解に至った>

アメリカで行われた小規模な臨床試験において、参加者全員のがんが消失する結果が確認された。研究に直接参加していないがん専門医も、「前代未聞」の効果だと述べ驚きをあらわにしている。

この臨床試験は、特定のタイプの直腸がんの患者を対象としたものだ。より多くの患者に適用するため現在も治験が続けられており、現在のところ18名に対して実施が完了している。治療薬のドスタリマブを従来よりも早い段階で投与したところ、これら18名において、投薬開始から6ヶ月後までに100%のケースで腫瘍が消失していることが確認された。

患者たちにとっても思いがけない吉報となったようだ。患者たちは当初、服薬のみならず、放射線療法や手術など複合的な手法で治療を進めると説明されていた。一般に、侵襲的な放射線治療や手術では、腫瘍の縮小を期待できる一方、身体機能の一部を喪失するリスクが伴う。投薬のみでの寛解を知った患者らは完治に驚き、正常な身体機能が今後も維持できると喜んでいるという。

臨床試験はニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリング・がんセンター(MSTがんセンター)が主導し、製薬会社のグラクソ・スミスクラインが資金を支援している。うち12人の患者についての試験結果をまとめた論文が6月5日、医学ジャーナル『ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』に掲載された。

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複数の検査で消失を確認 2年経っても再発せず

18人全員の腫瘍がなくなる展開は、治験を担当した医師たちの予想を超えるものだった。直腸がんを患うこれらの患者たちは、ドスタリマブを3週間隔で6ヶ月間投与されたのみだ。治験終了時に、診察、内視鏡、精密検査のPET、MRIスキャンを実施したが、いずれの手法でも腫瘍の存在が確認されなかったため完治と判断された。

治験は2019年から順次行われ、現在までに18名の患者が実施期間を完了している。投薬終了から最長で2年が経過しているが、どの患者にも腫瘍の再発は確認されていない。論文著者であるMSTがんセンターのルイス・A・ディアス Jr.博士は、ニューヨーク・タイムズ紙に対し、「がんの歴史上、はじめての出来事だと考えています」と説明している。博士の認識する限り、すべての患者のがんを完全に消滅させた研究はこれまでにないという。

研究に直接関与していない第三者も、治験の成果に驚きの表情を浮かべる。カリフォルニア大学サンフランシスコ校で大腸がんを専門に研究しているアラン・P・ヴェノーク博士は、患者全員で完治が確認されたのは「前代未聞」だとコメントしている。

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今回は特定の直腸がんで確認 応用に期待

治験の対象となったのは、ミスマッチ修復欠損型(MMRd)とよばれる種類の直腸がんだ。細胞分裂時などにDNAの鎖のうえに不正な塩基対が発生することがあるが、このエラーを除去する機能が働かないことで遺伝子が不安定になり、腫瘍が発生しやすくなる。

このタイプのがんはこれまで、投薬での治療が効きづらいとされてきた。ただし既存の研究により、治療薬の一種であるペムブロリズマブを転移前の早い段階で投与した場合、腫瘍が安定化や縮小、一部のケースでは消滅することが確認されている。

そこで研究者たちは今回、類似の作用をもつドスタリマブを用い、がんが転移する前の早い段階で投与した場合の効果を確認した。すると、腫瘍の安定化などが確認されたペムブロリズマブを上回り、すべての患者で腫瘍の消失に至った。

欧州のニュース専門チャンネル『ユーロニュース』はドスタリマブおよびペムブロリズマブについて、米国立がん研究所による解説をもとに、免疫機能の「ブレーキを解除」する薬だと説明している。免疫細胞の制限を解除することで、がん細胞を認識・攻撃する能力を高める。

今回の治験は小規模なものであり、効果を確定するにはさらに大規模な試験を実施する必要がある。研究者たちは治験への参加者を引き続き募っており、継続して効果を測定する方針だ。また、同様の手法をほかのがんにも適用できないか検討しており、胃がんや前立腺がん、膵臓がんなどの患者での治験を視野に入れている。

すべてのがんに適用できるわけではないものの、今回の研究により将来的に助かる命が増えるかもしれない。諦めていた身体機能も維持できるとして、喜びも広がりそうだ。

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※この記事はNewsweek 日本版からの転載です。

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