熟練の技術に裏打ちされた、ブレゲ「クラシック」の美学

  • 写真:岩崎 寛
  • 文:並木浩一

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時計界が誇る偉人、ブレゲ創業者が遺した「クラシック」の意匠

ブレゲ創業者は偉大であった。そう断言しても、時計界で反論は出てこないだろう。ブレゲ針、ブレゲひげゼンマイ、ブレゲ数字といった、ブランドを超えていまも使われる時計用語はその証しだ。高級機械式腕時計の代名詞であるトゥールビヨン機構を、彼がフランスで特許を得たのは1801年のこと。ブレゲの遺した業績なしに、腕時計の現在のありようは存在し得ない。「時計の進化を2世紀早めた」と20世紀に既に称された男の才能と先見性は、21世紀になってさらに評価を高めている。

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アブラアン-ルイ・ブレゲ

1747年、スイス生まれ。75年にパリでブレゲを創業。時計史上最も偉大な天才であり「時計界のレオナルド・ダ・ヴィンチ」とも評される。王妃マリー・アントワネットやナポレオンら歴史上の主人公たちを顧客とした。

アブラアン-ルイ・ブレゲは1747年、スイス時計の郷・ヌーシャテルに生まれた。この若き天才はフランスに移った後に頭角を現す。パリで独立し、創業したのは75年。28歳の時だった。工房を構えた場所はケ・ド・ロルロージュ(現在のシテ島ロルロージュ河岸)。14世紀につくられた大時計にちなむ通りで、39番地のブレゲ工房には多くの人々が来訪するようになった。ブレゲの凄腕を聞きつけた貴族やその使い、外国からの来訪者が、自分たちにふさわしい価値をもつ時計を熱望した。

実際、ブレゲが手がけた時計は、後に証明されるように確実に2世紀先の腕時計の時代を先取りしていた。トゥールビヨンの発明をはじめ、あらゆる複雑機構に通じ、一方でデザインの才能、ギヨシェやエナメル文字盤に対する美意識も特筆すべき冴えを見せた。ブレゲはパリでの創業から半世紀、18世紀後半から19世紀にかけての激動するフランスで、絶対王政から革命を経て共和政へ、ナポレオン帝政から復古王政、百日天下からまた王政までを目まぐるしく経験することになる。時代の波に翻弄されながらも、当時の時計界の最高の栄誉であるフランス王国海軍時計師の地位にまで上り詰め、栄光の生涯を送った。

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創業者ブレゲの製作した懐中時計は、高度な複雑機構と独創的な表示形式、壮麗な仕上げで顧客を魅了した。

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18世紀末の版画に描かれたブレゲの工房。マリー・アントワネットの寵臣ポリニャック公爵夫人が所有した建物である。

時代の主人公たちは、みなブレゲの時計を求めた。革命前夜のヴェルサイユ宮殿で「ロココの女王」と称されたマリー・アントワネット王妃の心を捉え、国王ルイ16世も顧客に。その評判は海を渡り、イギリス国王ジョージ3世もブレゲの顧客名簿に名を連ねた。1 789年に勃発したフランス革命は上流階級の層を一新したが、その後に皇帝位に就いたナポレオン・ボナパルトと皇后ジョゼフィーヌもまたブレゲの虜となった。さらには、ナポレオンの戴冠式に立ち会ったローマ法王も、王政復古で王位に就いたルイ18世も、みなブレゲを選んだ。思想や敵味方に関係なく時の権力者にブレゲが選ばれたのは、世界史の必然であったのだろう。それはアブラアン-ルイ・ブレゲの没後も変わらない。ブレゲの魔術は18世紀には完成され、21世紀の現在も息づく。

ブレゲを愛用した偉大なるレジェンドたち

1.ナポレオン・ボナパルト

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将軍時代のナポレオンは、エジプト遠征を数週間後に控えた1798年4月に2個の懐中時計と1個の旅行用携帯クロックを購入した。妹のナポリ王妃カロリーヌ・ミュラも熱狂的なブレゲコレクターであり、ボナパルト一族は合計100個以上の時計を購入したことが記録されている。 photo: © Alamy/amanaimages

2.ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネ

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1796年にナポレオンと結婚し、1804年に夫の戴冠によって皇后となったジョゼフィーヌ。1797年、翌98年、1800年にもブレゲから時計を購入した記録が残る。愛用品の可憐なブルーのエナメルで装飾されたタクトウォッチは、現在パリのブレゲ・ミュージアムに展示されている。 photo: © Alamy/amanaimages

3.マリー・アントワネット

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1793年に処刑された王妃マリー・アントワネットは、ブレゲを愛用した最初の貴婦人。82年の最初の謁見以来、11年間で4度ブレゲに高価な時計を注文し、生涯ブレゲの顧客となった。生前に発注し、王妃とブレゲ本人の死後に完成した超複雑時計「No.160」の物語も名高い。 photo: © Alamy/amanaimages

4.シャルル・モーリス・ド・タレーラン

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18世紀から19世紀のフランスで活躍した政治家タレーラン。外務大臣を務めた外交通であり、「会議は踊る」で知られるウィーン会議でフランスの国益を守った魔術的手腕で後世に名を残す。1787年からブレゲの顧客となって親交を深め、多くの知人にブレゲを紹介したとされる。 photo: © Alamy/amanaimages

創業者ブレゲの時計はいま、ルーヴル美術館でも目にすることができる。著名実業家の未亡人から1960年代に遺贈されたコレクションも収蔵され、2009年には「ブレゲ・オ・ルーヴル」という伝説的な展示会も開催された。ブレゲの時計は、もはや文化資産でもある。メゾンとしてその遺志を継ぐブレゲは、1980年以降、創業者が遺した懐中時計のマスターピースを次々と腕時計として現代に蘇らせてきた。ブランドを象徴する技術を集結させた「クラシック」コレクションは、まさに人類史上の傑作に新たな生命を吹き込む。

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新作「クラシック 7337」18K ホワイトゴールド

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「クラシック 7337」18K ホワイトゴールド
「クラシック」コレクションの特徴と魅力を凝縮した新作。ケースはホワイトゴールド。18K ゴールドの贅沢な文字盤の上に手彫りで施されたギヨシェは、クル・ド・パリ模様とバーリーコーンの2種類で彫り分けている。日付と曜日の表示を2時位置と10時位置で対称になるよう配置し、大きな窓で見やすく設計された。立体的に表現したムーンフェイズを天側に掲げた端正なレイアウトは、初代ブレゲの懐中時計の傑作を思い起こさせる。自動巻き、18KWGケース、ケース径39㎜、パワーリザーブ約45時間、シースルーバック、アリゲーターストラップ、3気圧防水。¥5,918,000

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MOON PHASE(ムーンフェイズ)

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従来は月を擬人化したデザインだったが、こちらは月面をハンマーで叩き表面に凹凸を与えた。「クラシック 7137」18KRGケース、ブラウンアリゲーターストラップ(その他は18KWGケースのモデルと同様)。¥5,489,000

ブレゲのムーンフェイズは、いつの時代も絶品だ。いまでは腕時計の代表的なヒストリカル・アイコンとして多くのブランドで取り扱われているが、ブレゲに限っては18世紀の時点で既に採用していた。それを現代の腕時計で再現したという経緯がある。歴史的にも正統な「クラシック」の証拠と言ってもいいだろう。

青い夜空に浮かぶ月が日々かたちを変えていくムーンフェイズは、文字盤の上で視線を惹きつける。いまではそのデザイン性に注目されているが、ブレゲ創業時には、切実な実用上の要請もあった。現代人の生活からはもはや想像が及びづらいが、かつては月明かりが夜の照明手段だったからだ。満月の明夜と新月の闇では、人の行動も変わる。さらに重要なのは、月のかたちが表している意味である。月の位相(フェイズ)は月、太陽、地球の並びで見え方が変わるもので、それが地球上の潮汐と深く関連している。満潮、干潮は月の引力によって起きているが、太陽、月、地球が一直線に並んだ時には潮汐力が最大になり、逆に月、地球、太陽の角度が90度だと最小になる。つまり、新月と満月は大潮であり、半月の時が小潮なのである。いまも昔も海の男たちの命に関わる貴重な情報は、約29・5日でひとつのサイクル(一朔望月)を描いている。テンポの異なる太陰暦ベースの異質な表示を、王国海軍時計師であった初代ブレゲはグラフィカルなムーンフェイズで表現した。

現在、その伝統を引き継ぐブレゲのムーンフェイズは、「クラシック」コレクションの中でもひと際映える意匠だ。月はハンマーを用いて叩いた手作業で、よりリアルなきめの細かさを見せる。「クラシック 7137」のローズゴールドケースのモデルでは、ギヨシェ彫りにシルバーのパウダー仕上げを施したホワイトゴールド製の文字盤と、ブルーの夜空に輝く銀色の月を組み合わせ、白銀と青とがリズムよく美しいコントラストを描く。ホワイトゴールドケースのモデルでは、ギヨシェ彫りの文字盤をブレゲ・ブルーの彩色でコーティング。パターンの凹凸による陰影と星をちりばめた夜空の青光色が、絶妙なコンビネーションを描いている。

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「クラシック 7137」18K ホワイトゴールド
「クラシック」コレクションに初めて加わった、ブルーにコーティングしたギヨシェ装飾の文字盤。直線のギヨシェ彫りで表現された市松模様のダミエパターンが取り入れられ、濃淡を感じる奥行きのある表情に仕上がった。懐中時計時代のデザインを腕時計で再構成する手腕が、絶妙な“ブレゲ・ブルー”を得て新時代の名品に。立体的に掘り込まれたムーンフェイズが、見る者を幻想的な世界にいざなう。自動巻き、18KWGケース、ケース径39㎜、パワーリザーブ約45時間、シースルーバック、アリゲーターストラップ、3気圧防水。¥5,489,000

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GUILLOCHE(ギヨシェ)

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ゴールドのベースを熟練の職人による手作業で彫り進めるのが、ブレゲ伝統のギヨシェの工程。型押しプレスでは絶対に表現できない複雑なパターンが、手回しの機械でコントロールされた微細な刃先から生み出されていく。

ギヨシェ仕上げされた文字盤は、現代の腕時計においてクラシカルな象徴とも言える。その発明者こそ、ブレゲの創業者アブラアン-ルイ・ブレゲなのである。この技法は1786年頃に発明されたと推定されている。ブレゲでは18世紀の正統を重んじ、いまも手作業でギヨシェを彫る。仕上がりはまさに芸術品であり、安易な模倣などはできようもない。

ブレゲの「クラシック」コレクションを象徴する文字盤の表面に施されるギヨシェ装飾は、文字盤をまずノミの手彫りで区分けし、手動で制御する古風な機械で幾何学的なパターンを彫り込んでいく。ゴールドの上に1/ 10 ㎜単位で彫り進められるのは、ひとつの模様とは限らない。多針多表示のモデルではセクションごとに異なった紋様を描く離れ業も、ブレゲのお家芸だ。しかしそれは、パターンごとに技術を切り替え、直線と曲線で機械を変えることもある、時間と技術、情熱の賜物だ。もしひと畝の彫り違いが生じたら、それまでの作業はすべて無に帰してしまうのである。

こうして彫り上げられたゴールド盤に、シルバーでコーティングを施す。銀のパウダーをかけてブラシで仕上げる繊細な手法により、凹凸の表面にサテンのような風合いをもつ、ブレゲのギヨシェが完成する。このギヨシェ文字盤には、先端を丸く穿った青いブレゲ針、それもすべて焼き止めすることで発色する本物のブルースチール針がよく似合う。

「クラシック クロノメトリー 7727」は、未来的な性能を備えた最先端のムーブメントを秘めながら、それを高級感あふれるギヨシェ文字盤で装ったモデルである。駆使されたパターンは6種類あり、中央部はレマン湖に寄せるさざ波が起源とされるコート・ド・ジュネーブ、スモールセコンドには最もポピュラーなクル・ド・パリ模様。1時位置にある1/10秒表示にはサンバースト、パワーリザーブ・インジケーターにはシェブロン(杉綾)模様。チャプターリングのまわりにはリズレ(縁飾り)、外周には大麦の粒を模したバーリーコーン(グレンドルジュ)。華麗なモチーフが響き合い、世紀を超えたギヨシェの交響楽を奏でている。

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「クラシック クロノメトリー 7727」18K ホワイトゴールド
端正でクラシカルな外観の一方、1秒あたり20振動という驚異の高速ムーブメントを搭載している。ダブルヘアスプリング、アンクル、ガンギ車などはすべて耐久性の高いシリコン素材。時計の天敵である磁気を利用したマグネティック・ピボットなど、特許取得した画期的な技術も満載のモデルだ。文字盤にはコート・ド・ジュネーブやクル・ド・パリなど、計6種類ものギヨシェを駆使している。手巻き、18KWGケース、ケース径41㎜、パワーリザーブ約60時間、シースルーバック、アリゲーターストラップ、3気圧防水。¥5,566,000

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ENAMEL(エナメル)

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ていねいに高温で焼成を行うことから温度の管理が難しく、完成品の歩留まりも高くはない。それでも美しい風合いを見せるグラン・フー・エナメルは、スイス高級時計にふさわしい伝統技術として受け継がれてきた。

グラン・フー・エナメル文字盤は、ブレゲ「クラシック」コレクションの大きな見せ場のひとつである。時計界でも本物のエナメル文字盤は必ずしも多くなく、その質にも幅がある。「クラシック5177」のブルー文字盤は、誰もが見惚れる傑作だろう。エナメル文字盤は昨今の流行だが、その中で強調されるようになったのが「グラン・フー」。フランス語で「大火力、高温」を意味する仕上げの技法である。800度、ときにはもっと高温で焼成を繰り返すグラン・フー・エナメルの文字盤は、上首尾に完成すれば宝石並みの透明感ある発色を見せる。似て非なる、焼成を行わないエナメルペイントでは到底たどり着けないのが、本物のグラン・フー・エナメルだ。ブレゲは既に「クラシック 5177」のホワイトエナメル文字盤で定評を勝ち得ていたが、さらに追加されたブルー文字盤で他を圧倒した。“ブレゲ・ブルー”と呼ばれるその青の彩色は、深みを感じさせる。高温焼成エナメルの原理は、文字盤のベースに釉薬を載せて熱することで、溶けた釉薬によるガラス質の皮膜を得ることだ。中近東が発祥のこの技法を用いた宝物は、シルクロードを経て日本の正倉院御物でも見ることができる。一方、ヨーロッパの特にスイスのジュネーブ近郊では、高級装飾品の技法として伝播した。時計づくりで名を馳せる国の伝統工芸技術は、当然のように高級時計に活かされた。「クラシック 5177」のように、日付以上の付加機能をもたないきわめてシンプルな3針モデルでも、グラン・フー・エナメルは審美性だけで圧倒的な価値を与えるのである。なめらかな肌質と奥深い色みのニュアンスは、一つひとつを手作業によってつくるグラン・フー・エナメルでしか生まれ得ない。このブルーに映えるように、先端に月を思わせるモチーフをかたどったブレゲ針と秒針にはロジウム仕上げが選択された。躍動するようなブレゲ数字のアワーインデックス、1分ごとの星形と5分ごとの百合模様、15分ごとのダイヤ形を、それぞれシルバーパウダーで描いて配置。青と白銀が優美なコントラストを奏でる、唯一無二の逸品と言えるだろう。

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「クラシック 5177 グラン・フー ブルーエナメル」18K ホワイトゴールド
日付表示を備えた他はピュアに要素を切り詰めた3針時計。だからこそ、“ブレゲ・ブルー”のエナメル文字盤が醸し出す高貴な魅力がよりいっそう引きつ。シークレットサインもエナメルで描かれている。先行して発売されたホワイトエナメルダイヤルのモデルではブルースチール製だった針やインデックが、文字盤色に合わせて白銀に変更されている。ひげゼンマイ、アンクル、脱進機はシリコン素材を採用。自動巻き、18KWGケース、ケース径38㎜、パワーリザーブ約55時間、シースルーバック、アリゲーターストラップ、3気圧防水。¥3,256,000

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新作「クラシック 7337」18K ローズゴールド

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「クラシック 7337 18K ローズゴールド 」
無駄のないデザインを代表する「クラシック」コレクションのニューモデル「7337」のローズゴールド仕様。懐中時計の伝統を活かすようデザインを一新し、従来品よりヴィンテージ感が強まっている。ギヨシェはダミエ柄からクル・ド・パリに変更されて彫りも浅くなり、手叩き仕上げの月を戴くムーンフェイズや、中央寄りに変更したロゴ位置など、初代ブレゲの傑作を彷彿させるスタイルを採る。自動巻き、18KRGケース、ケース径39㎜、パワーリザーブ約45時間、シースルーバック、アリゲーターストラップ、3気圧防水。¥5,918,000

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