超大質量ブラックホールが3年以内に大規模な衝突を起こすおそれ

  • 文:松岡由希子

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ブラックホール合体のシミュレーション NASA Goddard

<12億光年先の銀河の中心にある太陽の約2億倍の質量を持つ超大質量ブラックホール連星(SMBHB)が大規模な衝突へと向かっているかもしれない、という研究が報告された......>

地球からおよそ12億光年先の銀河「SDSS J1430+2303」の中心から放たれている光のゆらぎは、太陽の約2億倍の質量を持つ超大質量ブラックホール連星(SMBHB)が大規模な衝突へと向かっている兆候なのかもしれない。もしこれが事実であるとすれば、この超大質量ブラックホール連星が3年以内に合体する可能性があるという。

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活動銀河核の周期がどんどん短くなった

中国科学技術大学らの研究チームは、2022年1月に発表した研究論文で、「SDSS J1430+2303」の活動銀河核(AGN:ブラックホールの周りが明るく光っている天体)の周期が3年のうちにどんどん短くなり、1年から1カ月へと大幅に短縮されているという奇妙な現象を報告した。

研究チームはさらにその原因を解明するべく、「スイフト」、「XMM-ニュートン」、「チャンドラ」、「ニュースター」の4つのX線望遠鏡による2021年11月23日から2022年6月4日までの「SDSS J1430+2303」の観測データを分析し、衝突に向かう超大質量ブラックホール連星にみられる高エネルギーの特徴をつかもうと試みた。その研究成果は学術雑誌「アストロノミー・アンド・アストロフィジックス」で掲載される予定だ。

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ブラックホール連星と確認できているわけではないが

「arXiv」で公開された査読前論文によると、この銀河から放射されるX線で変動がみられ、その変動は最大で7倍にものぼった。また、ブラックホールに落ち込む鉄と関連する「Fe-Kα輝線」の放射が「XMM-ニュートン」と「チャンドラ」の観測で99.96%の信頼度で検出された。

このような放射は超大質量ブラックホール連星と関連している可能性があるものの、超大質量ブラックホール連星であることを裏付ける決定的な特徴をとらえるまでには至っていない。研究チームは2022年2月下旬から3月初旬にも超長基線電波干渉計で「SDSS J1430+2303」を観測しているが、決定的な成果は得られなかった。

超大質量ブラックホールがどのように巨大化するのかはよくわかっていないが、そのメカニズムの一つが連星の合体と考えられており、この爆発によって得られるデータは、超大質量ブラックホールがどのように巨大化するかについて多くを教えてくれる可能性がある。

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松岡由希子

1973年生まれ。米国MBA(経営学修士号)取得。起業支援や経営戦略の立案など、経営のプロフェッショナルとして約10年にわたる実務経験を積んだのち、2008年、ジャーナリストに転身。欧米、アジアでの現地取材のもと、持続可能な社会づくりに向けた技術イノベーションや次世代ビジネスの動向を、グローバルな視点から追う。

※この記事はニューズウィーク日本版からの転載記事です。

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