生活を豊かにする北欧の老舗、イッタラのタイムレスなデザインとは。

  • 写真:斎藤誠一 文:久保寺潤子

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赤い丸に「i」の文字でおなじみのロゴは、イッタラの専属デザイナーとして長らく活躍したティモ・サルパネヴァによるデザイン。

現在、渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催されている「イッタラ展」。東京での開催に合わせ、来日したフィスカースグループ イッタラ&北欧ブランド 統括本部長のカロリーナ・バーデに話を聞いた。

──昨年創立140周年を迎えたイッタラですが、長きにわたってフィンランドはもとより、世界中で愛される理由はどんな点にあるとお考えですか?

バーデ イッタラには創立当初から変わらないブランド哲学があります。美しさと機能性を兼ね備えたタイムレスなデザインを毎日の生活に使って欲しい、そんなコンセプトが世代を超えて広く受け入れられているのだと思います。

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フィスカース、イッタラ、アラビア、ロイヤルコペンハーゲン、ウェッジウッド、ウォーターフォードなど名だたるライフスタイルブランドを傘下にもつフィスカースグループで、北欧ブランドの統括本部長を務める副社長のカロリーナ・バーデ。

──デザイナーを積極的に採用したのは1930年代からと聞きました。

バーデ 1881年の創業当初、フィンランドではデザイン性のある製品は限られたハイクラスの人たちのものでした。イッタラはより多くの人々にデザイン性を提供したいとの思いから、1930年代初頭にアイノ・アアルトやアルヴァ・アアルト、カイ・フランクといったデザイナーと協業を行いながらデザインを強化していきました。50年代に入るとデザイナーをクリエイティブ・ディレクターとして迎え、ともにブランドの方向性を考えるようになります。ティモ・サルパネヴァもそのひとりで、彼は現在ブランドのロゴマークになっている「i」のデザインを考案しました。

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1964年、オイバ・トイッカがデザインしたグラス「カステヘルミ」。雫が連なるようなデコレーションは、もともと製造過程で残る接合部分を隠すためのアイデアだったが、トイッカはこれを気に入り、全体にあしらわれることになった。
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ラップランドの氷が溶ける様子にインスピレーションを得た「ウルティマ ツーレ」はタピオ・ヴィルカラによるデザイン。表面の独創的な質感を生み出す技法を完成させるため、長い時間が費やされた。

──多くのデザイナーとの協業により、名品が誕生しました。デザイナーとガラス職人は、どのような工程を経て製作に取り組むのでしょうか。

バーデ 「バード」コレクションで有名なオイバ・トイッカは、50年以上もの長い期間、イッタラとともに仕事をしました。彼は足繁くガラス工場に通ったデザイナーとして特筆すべき人物です。朝、工場にやってくると決まって「今日のマスターブローワー(吹きガラス職人のリーダー)は誰だい?」と尋ねたそうです。工場では毎日ガラス職人が入れ替わり立ち替わり作業をしており、職人によって得意分野が異なります。そこでトイッカは職人の得意分野とその日使用できるガラスの色に合わせてデザインのビジョンを決めたのです。宙吹きガラスは一つとして同じ形には仕上がりません。「失敗から新しいものが生まれる」とは彼の口癖でした。ある日、職人が白く色づけたガラス素材を工場の床に落としてしまったとき、トイッカはこう言いました。「それは捨てないで。素材が加わることで新しい美しさが生まれる。これで鳥をつくろう」と。ガラス制作は蓋を開けてみないと分からないもの。だからこそデザイナーと職人のコミュニケーションが大切なのです。

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フィンランドを代表する近代建築・デザインの巨匠、アルヴァ・アアルトによって1936年に発表された「アルヴァ・アアルト コレクション ベース」。流れるような有機的なフォルムはフィンランドデザインの象徴といわれる。
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隈研吾が内装を手がけたイッタラ表参道ショップ&カフェ。木の幹をイメージした壁面など、インテリアはフィンランドの森からインスピレーションを得ている。

──イッタラのガラス製品の特徴はどんな点にありますか?

バーデ イッタラはカラーバリエーションの豊富さでも知られています。色こそがイッタラを他社と差別化しているといってもいいでしょう。多くのガラスメーカーは透明なガラスの表面に色をつけていますが、イッタラではガラスの素材そのものを着色します。これが出来上がりの質感や色みに大きな影響を与えるのです。工場ではケミストと呼ばれる色の研究者がいて、色のトレンドや素材をつねに追求しています。色の調合は非常に難しく、ガラス制作の最終段階まで仕上がりの色を判別できないため、非常に忍耐力を要します。

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展覧会ではイッタラ140年の歴史、哲学、デザイナー、日本との関わりなど4つのセクションにおいて、ガラスや陶器、磁器、映像やインスタレーションを交えた約450点が展示されている。撮影:山本倫子

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創立当初の実用的なガラス製品から、デザイナーとの協業によってデザイン性や芸術性の高いものに変遷していく様子が分かりやすく展示されている。撮影:山本倫子
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「職人と型」を紹介するコーナーでは、アアルトベースの木型を展示。映像ではオイバ・トイッカのバードシリーズの制作風景が紹介されている。撮影:山本倫子

──展覧会の見どころを教えてください。

バーデ 本展覧会ではイッタラというブランドを多角的に紹介していますが、個人的におすすめなのが「クラフトマンシップ」のコーナーです。職人にフォーカスしたこのセクションでは、ガラスを吹く際に使う道具や製作工程を記録した動画を公開しています。フィンランドの工場では実際に職人の制作工程を見学できる場所があり、アアルトベースやトイッカのバードがつくられているのを目にすることができます。ガラス吹きの工程というのは立ち尽くして見入ってしまうほど魅力的なのですが、その一部をみなさんにも感じていただければと思います。


展覧会の最後には「イッタラと日本のつながり」と題されたセクションがあり、日本のデザイナーとイッタラの関係も紹介されている。森と湖に囲まれたフィンランドは、自然に寄り添ったモノづくりを得意としてきた日本と共通する部分も多い。自然へのリスペクトから生まれる変幻自在なガラスの魅力を、この展覧会で改めて発見してみたい。

『イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき』

2022年9月17日(土)~11月10日(木)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム(渋谷)
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時〜18時まで(入館は閉館30分前まで)※金・土は21時まで
休館日:9月27日(火)
料金:¥1,700(一般)
https://iittala.exhibit.jp/

イッタラ表参道ショップ&カフェ

東京都渋谷区神宮前5-46-7 GEMS青山クロス1階
TEL:03-5774-0051
営業時間:11時〜20時
無休
https://www.iittala.jp/shop/fragship_cafe.php