ミロコマチコとは何者なのか? 市原湖畔美術館で個展が開催中

  • 文・写真:はろるど

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『ミロコマチコ いきものたちはわたしのかがみ』展示作品より。会場内は撮影もOK。(フラッシュ撮影、動画不可。)

デビュー絵本『オオカミがとぶひ』(2012年、イースト・プレス)にて、いきなり第18回日本絵本賞大賞を受賞するなど、彗星のごとく出版業界に登場したミロコマチコ。その後も国内外の絵本賞や文芸賞をたて続けに受賞し、絵本作家として活躍する一方、画面いっぱいにいきものや植物をのびのびと描く絵画でも知られ、画家としても人気を集めている。また本やCDジャケット、ポスターといった装画や、音楽家とコラボしながらペインティングを手がけるなど、活動の幅を広げているアーティストだ。

現在、市原湖畔美術館で開催中の『ミロコマチコ いきものたちはわたしのかがみ』では、「ミロコマチコとは何者なのか」をテーマに、近作、新作を中心とした絵本原画や絵画をはじめ、書籍の装画や立体作品、アートディレクションなど200点以上もの作品を展示。あわせて日々の暮らしぶりや制作風景も紹介しながら、ミロコマチコの底知れぬ魅力に迫っている。幻獣のような何者ともとらえ難い動物たちの描かれた作品が、吹き抜けの空間へ壁一面に並ぶ光景を目にすると、誰も足を踏み入れたことのない森の奥へと誘われているような気持ちにさせられる。まるでいきものの魂が乗り移っているような、鮮やかな色彩や躍動感のあるタッチも大きな魅力と言える。

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『けもののにおいがしてきたぞ』(2016年、岩崎書店)原画展示風景。手前には絵本も置かれていて、手にとって読むことができる。

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装画やアートディレクションの展示より。第71回カンヌ国際映画祭にてパルムドールを獲得したことで話題となった『万引き家族』(是枝裕和監督)の映画ポスターやノベライズ版の装画も担っている。

1年に約1冊のペースで絵本を発表してきたミロコマチコは、2014年頃から色彩がより豊かに、においや手触りといった五感を刺激するような表現へと変わっていく。そして展示でも第26回ブラティスラヴァ世界絵本原画展において金牌を受賞した『けもののにおいがしてきたぞ』(2016年、岩崎書店)をはじめ、『まっくらやみのまっくろ』(2017年、小学館)と『ドクルジン』(2019年、亜紀書房)の3冊の原画を紹介し、会場に置かれた絵本とあわせて楽しむことができる。また作品に登場する「ぶらららららーん」や「ゴゾドゴゴゾドゴ」といった、思わず声にしてしまうような擬声語も楽しい。絵と音とが渾然一体となって絵本の物語が紡がれている。

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山形ビエンナーレにて発表された『あっちの耳、 こっちの目(カモシカのおはなし)』(2016年)。人間と野生動物それぞれの視点からつづられた「おはなし」でできた山車型の立体絵本だ。

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『ミロコマチコ いきものたちはわたしのかがみ』展示風景より。吹き抜けのスペースを用いて新作などが公開されている。ダイナミックなタッチでいきものの本質を捉えるような作品で知られるミロコマチコだが、2016年頃から身体の中を複数の生き物が埋め尽くす作品を描くなど、モチーフを変化させている。

豊かな自然と向き合いつつ、見えないものの存在を感じながら絵を描きたいと考えたミロコマチコは、2019年6月に九州南部と沖縄本島の間に浮かぶ奄美大島へと拠点を移す。そして多くのいきものがうごめく環境に身を置くと、その時に心に見えてきたものなどを描き続け、霊性を帯びた未知なる存在をモチーフとしてに取り込むようになる。それらは脚のある動物のようであり、また鳥や蝶のようでありながらも、決まったかたちを持たず、イメージは見る側の自由な想像に委ねられている。昨年秋の神戸ゆかりの美術館を皮切りに、高知県立美術館や宇都宮美術館などを巡回してきた展覧会も、市原湖畔美術館での会期は残すところあと約一カ月。奄美大島の自然がもたらす生命力が漲るような、ミロコマチコの描く絵画と絵本の世界を見逃さないようにしたい。

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『ミロコマチコ いきものたちはわたしのかがみ』
開催期間:2022年7月16日(土)~9月25日(日)
開催場所:市原湖畔美術館
千葉県市原市不入75-1
TEL:0436-98-1525
開館時間:10時~17時(月~金)、9時30分~19時(土曜・祝前日)、9時30分~18時(日曜・祝日) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月 ※祝日の場合は翌平日
入場料:一般¥1,000(税込)
https://lsm-ichihara.jp