レンジローバーは豊かな生活を演出する魔力が備わっている。イギリスで農場を営みながら、5台のランドローバーを所有するオーナーにその魅力を訊いた。
太陽がさんさんと降り注ぐイングランド・ケント州の小麦畑で農作業用のコンバインを操縦するのは、アラン・オリー・ジュニアだ。見渡す限り地平線まで広がる彼の広大な農場には、レンジローバー・クラシックが4台も存在する。
「レンジローバーのオイルを飲んで育った」と冗談を飛ばす彼の想い出は、11歳の時に父が購入した最初期のレンジローバーに遡る。農作業時も家族旅行でも自由自在にどこでも走り、高級なイメージを損なわない乗り心地よさが、少年時代の記憶としていまも鮮明に残っている。
「ひと目惚れしたからレンジローバー以外のクルマに乗ることは考えられなかった」と言う。成人してからは、農場経営のかたわらレンジローバーの蒐集も始まった。ただし、単に集めるだけでは満足せず、自らレストアまで手がけ、入手不可能なパーツはつくり出すほどの偏愛ぶりだ。
そんなジュニアの農場で日々活躍するのは、1983年製の2ドアモデル。急斜面の畑でも雨でぬかるんだ農地でもオフロード性能をフルに発揮し、農作業をサポートしてくれる。働きものらしく車体は泥だらけでキズも多いが「いまでも70年デビュー当時のレンジローバー魂を感じる」とジュニアは力説。その理由は、「最低限の装備で最大限のパワーを出しながら、そのシルエットは誰が見ても優しいところ」だと言う。親子二代にわたりレンジローバー・クラシックを愛し続ける理由の中心にあるのは、性能とデザインのギャップなのかもしれない。
英国の農場経営者は、基本的に年間を通じて働き詰めで、休みはほとんどない。そんな生活のなかでジュニアは時間をやりくりし、農場の一角にある倉庫に向かう。一歩入ると自動車整備工場さながらの光景が広がっていた。
「レストアのための整備場が必要だから、自分で建てた」とさらりと語るジュニア。徹底したカーマニアの彼は、蒐集したレンジローバーを早く元の勇姿に戻したいと意気込む。最後に「100歳までしっかり生きて完成させないとね」と笑った。
---fadeinPager---
1956年式 ランドローバー・シリーズⅠ
1977年式 レンジローバー 空港消防レスキュー車 マーク2
1992年式 レンジローバー・クラシック
1993年式 レンジローバー・ヴォーグ
※この記事はPen 2022年9月号「レンジローバーで走れ!」特集より再編集した記事です。