これからのラグジュアリーカーはこうなるとキャデラックが自信をのぞかせる、「リリック」の魅力

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Cadillac/General Motors
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EVのおもしろさは、電気による走行感覚の新しさに加え、冒険的なスタイリングかも。とくに、キャデラックが2022年5月に発売したキャデラック・リリック Cadillac Lyriqは好例だ。なににも似ていないスタイリングのクロスオーバービークルである。

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開口部がなくランプが埋め込まれているメイングリルなど斬新なデザインを採用

「ブランドの将来を照らす」とキャデラックがプレスリリースで謳うリリック。「EVでラグジュアリートランスポテーションの将来を定義していくキャデラックにとって、リリックはその”頭出し”になるモデル」という。

「私がデザインチームに依頼したのは、ショーモデルでつくりあげた細部を量産車で実現すること。リリックに乗るひとは、自分が未来の世界でドライブしているような感覚になるでしょう」

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リアも縦長のポジションランプ(バンパー)採用で、上にはL字型のランプで個性を強調

キャデラックデザインのディレクターを務めるアンドリュー・スミス氏の言葉も、上記リリースのなかで引用されている。ボタンを押してシステムを目覚めさせると、内外各所の照明が劇的な演出で点灯する。それもまたオーナーには喜びになりそう。

ファストバックスタイルもスタイリッシュで、キャデラックにとって初の量産EVという内容を、うまく表現していると私には感じられた。

2020年にショーモデルがお披露目されたとき”実現しないデザインなんか見せられても……”と私も思わないでもなかった。ところが、21年に上海で開催された自動車ショーで実車が公開されて、さきのスミス氏の言葉どおりの出来ばえに驚かされた。

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新世代のキャデラックを象徴するようなフロントマスク

フロントマスクは、ヘッドランプがどこにあるかわからない個性的なもの。キャデラック車の特徴ともいえる縦長のLEDポジションランプは継続。加えて、非常に幅の狭い車体幅いっぱいのポジションランプ、ライティングされたグリルのパネルなど、光を効果的に使っている。

リアを見ても同様に、いわゆる”キャラ”が立っている。なにより印象的なのは、リリックはファストバックスタイルであることだ。独立したトランクルームはなく、ルーフラインはすっとリアエンドに向かって弧を描いている。

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テールゲート橫のL字型のポジションランプが新世代のデザインの特徴

こちらにも、縦長のポジションランプが採用されているとともに、グラスハッチのとなりには、赤いLEDがL字型で、独特のキャラクターをつくり上げているのだ。

「とにかく新しいキャデラックをつくろう、というのがデザイナーの合い言葉でした」

そう語るのは、キル・ボビン氏。キャデラックデザインのリードクリエイティブデザイナーとしてリリックのエクステリアデザインを手がけた、30代前半とおぼしき韓国人だ。ついでいうなら、同車のインテリアも韓国人女性デザイナーによるもの。

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リリックのエクステリアデザインを手がけたキル・ボビン氏(リリックのショーモデルとともに)

デザイナーとして意識したのは、斬新であること。同時にキャデラックらしさも重要なテーマだった。意外に思えるほど、過去のキャデラックの細部への言及が多い。ひょっとした前記L字型の後尾灯だって、テールフィンの時代へのオマージュか。そう言ったら、キル氏に笑われたが。違うのか。

「コンセプトモデルのときからリリックを手がけていました。最初はセレスティックをつくり、そのイメージを使ったんです。一部の人は”リリックとセレスティックはよく似ている”と言いますが、並べてみると、まったく違うデザインです」

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もし発売されたらかなりの高額の少量生産になると噂されているセレスティック

セレスティック Celestiq は、新世代キャデラックの高級路線の未来を示唆するクルマとして開発されたショーモデル。まだ画像でしか公開されていない。22年夏に米国西海岸ペブルビーチで開催される「コンコース・デレガンス Concours d'Elegance」で実車がお披露目されると言われている。

詳細は教えてもらえないのだが、全長は5メートルを超えていそうだ。「これからキャデラックが手がけるニューモデルの、さまざまな要素が詰め込まれている」とプレスリリースには書いてある。

たとえば、アルティウム Ultiumというパウチ型の薄くて大容量のバッテリーを敷き詰めたピュアEVのプラットフォームを使う設定。リリックと同様だ。

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1967年のキャデラック・ドゥビル de Villeからインスピレーションを得たというセレスティックのダッシュボード

セレスティックは内装も大胆だ。キャデラックデザインのカラー&トリム部門に籍を置くレティシア・ロペス氏によるもの。「ファッションやアートやオペラ劇場からもインスピレーションをもらいました」と、私も参加したデザインプレゼンテーションで話してくれた。

新しくて、どこか懐かしい。ドアのほうまで回り込んで乗員を囲むようなダッシュボードは最新のデザインテーマであるものの、イメージソースは「67年のドゥビルなどの再解釈」と、インテリア担当のデザインマネジャー、トリスタン・マーフィ氏は説明してくれた。

対するリリックの内装は、最新のキャデラック車に通じるデザインテーマを使いながら、さらに新しい方向へと進めたもの。

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巨大な1枚の液晶パネルを使うリリックのダッシュボード

異なる素材をレイヤーで重ねて使う手法は、これまでのCT(セダン)モデルやXT(SUV)モデルでおなじみだが、つなぎ目のない33インチの有機液晶ディスプレイをはじめ、凝っているし、質感も高い。

シート素材は複雑な織り方の合成繊維が使われており、見た目とともに感触もなかなかのもの。前席ではヘッドレストレイント(ヘッドレスト)にスピーカーが埋めこまれているのもユニークだ。

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リリックのフロントシートのヘッドレストレイントにはスピーカーが埋め込まれている

室内各所のマイクで拾った、外部からの雑音と逆位相の波形の音を、このスピーカーから出す。それによって、静粛性を高めるノイズキャンセリング機構が採用されている。じっさい、かなりの悪路といえる道を走ってみても、耳ざわりなノイズは聞こえてこない。

後席も広い。なにしろホイールベースは3094ミリ。SUVのメリットとして、バッテリーは床下に、モーターやインバーターなどはエンジンよりコンパクトにまとめられる、いわゆるパッケージのよさがあげられる。

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ホイールベースが長く足元も頭上も広々としているリリックの後席は居心地がよい

床はフラット。全長4996ミリの、リムジンのようなSUVに仕立てられている。頭上にはグラスルーフごしに空が眺められる。22インチのタイヤを履いて、凹凸の多い路面を走ってみても、後席の快適性はまったく犠牲になっていないとわかった。

私が乗ったのは、リアにモーターを搭載した後輪駆動仕様。前輪もモーターで駆動する全輪駆動も23年に発売される計画だ。バッテリー容量は100キロワット時もあり、モーターは最高出力255kW(340馬力)、最大トルク440Nmもある。全輪駆動版だと最高出力が500馬力に上がるとか。すごい。

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軽快に走る後輪駆動仕様のリリック

アクセルペダルを軽く踏み込んだだけで、後輪がぐっと路面をとらえ、大きな力で2.5トンの車体を前方に押しだす感覚を味わえる。大きくて、しかもそれなりに重いのだが、テストコースでは前を走るシボレー・コーベットにあっというまに追いついてしまう加速性とコーナリング能力のよさに、私は感心。

モニター画面で、回生ブレーキの強さが選べる。アクセルペダルを離したときに、発電のためのブレーキを自動でかける仕組みで、強めの設定を選ぶと、アクセルペダルだけでほぼ停止まで出来る。

同時にステアリングホイール脇には、回生ブレーキ用のパドルが設けられている。コーナリング時などは、アクセルペダルに足を置いたまま、ブレーキペダルを踏むかわりに、パドルを引くことで回生ブレーキが働き、車両はぐぐっと減速する。

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プロファイルで見ると余裕あるサイズのSUV的なリリック

車重を考えると、回生ブレーキもたいへんだろうが、重さをほとんど感じさせない。太いトルクと、低い重心高による操縦性のよさと、重すぎず軽すぎないステアリングホイールなど、かずかずの設定が効を奏しているのだろう。

キャデラックと聞いて「恐竜」なんて言葉を思いうかべる人はもうあまりいないだろう(とはいえ、米国でも昔のフルサイズのキャデラックに格別の思い入れを抱くひとは少なくないようだ)。あらためて、キャデラックの新しさを、リリックは思い知らせてくれた。

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縦長のLEDランプと照明を埋め込んだメイングリルがかなり印象的なリリックのフロント

2040年までにカーボンニュートラル(CO2排出量ゼロ)を目指す親会社ゼネラルモーターズの方針に従い、アルティウム・プラットフォームを使ってつくられたリリック。

日本への導入時期は「2023年を考えています」と、キャデラックを扱うゼネラルモーターズジャパン。価格は未定。北米での価格は、RWDモデルが6万2990ドル、AWDモデルが6万4990ドルからだ。日本ではAWD(全輪駆動)モデルが販売の中心になるといううわさもある。

Specifications
Cadillac Lyriq RWD
全長×全幅×全高 4996x1977x1623mm
エンジン 電気モーター×1 後輪駆動
最高出力 255kW
最大トルク 440Nm
航続距離 482.8km

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