【東京クルマ日記〜いっそこのままクルマれたい〜】 第156回“受け継がれる女王のための帝王学、優雅な身のこなしで「ため息つかせて」”

  • 写真&文:青木雄介

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ボディパネルの隙間を極端になくした「シャットライン」が美しい。実車を目の当たりにするとその美しさに思わず見とれる。

第5世代になった新型レンジローバーに乗った。結論から言うと「王国は揺るがない」ということに尽きる。いちばんの理由は、走り始めた瞬間に「レンジローバー」とわかるファーストインパクトの強さにある。

女王と呼びうるシンガーのホイットニー・ヒューストンや、エリカ・バドゥの歌い始めと一緒で、その瞬間から魔法にかけられたようにレンジローバーの世界に連れていかれてしまう。

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特徴的なボートテイルに組み込まれた前衛的なデザインのリアライト。

濃厚で弾力のあるホイップのような、繊細でなめらかな足回り。特にその柔らかな乗り味は、高速道路で真骨頂を発揮する。張りのあるマット圧だけで乗員の身体を受けとめ、ふわりと波を乗り越えるボートのように軽やかに段差を越えていく。巨体の優雅な身のこなしが、たおやかで悠々としていて湖畔の避暑の記憶のように鮮明なんだ。

この身のこなしはバレリーナの鍛錬の賜物みたいなもの。開発終了後のキャリブレーションテストの圧倒的な時間に加えて、新シャシーのねじり剛性が50%高められたことでクルマとの一体感がさらに増した。そして心臓になる4.4ℓV型8気筒ツインターボのマナーが素晴らしく、シャウトすることはなしに、かいがいしく寄り添ってくる。これってまるで出自を隠した謎の執事のようですよ(笑)。本来のV8エンジンのどう猛さをおくびにも出すことなくスマートにふるまうんだ。

パドルシフトを使用した走りも楽しい。峠を走れば、後輪操舵と新世代のアンチロールシステムがレンジローバーの新しいマナーを教えてくれる。帝王学風に言えば「王国民を惹きつける鷹揚さは必要十分な自己規定から生まれる」ってところ。新型はロール角度が明確で、先代で感じた不意のロールに驚かされることもなくなった。

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インフォテインメントパネルをセンターのタッチ式モニターに集中させ、スイッチ類を廃した洗練のインテリア。

レンジローバーは、いよいよ過当競争になってきている高級SUV市場で王国を守る保守の立場にいるクルマ。英国の荘園主や世界のセレブリティに愛され「レンジローバーはこうあるべき」という50年以上続いてきた不文律があるわけで、乗り味にしろデザインにしろ、簡単に変えてはいけないお約束がある。

今回もプロフェッサー、ジェリー・マクガバンOBEは、その辺りの歴史や立ち位置を汲んだ素晴らしい仕事をしているのね。「リダクショニズム(還元主義)」の名のもとにブランドのエッセンスをより強調した上で、不要なラインや造形をそぎ落とした最新のデザイン言語で磨き上げた。

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リアのエグゼクティブクラスシート。後部座席は3座もしくはセンターコンソールで分けたセパレート型2座として使用できる。

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クライマックスは、リアエンドに配された点灯するまでわからないテールライトですよ。完全にライトがデザインに溶け込んでいて作動したときに思わず目を奪われる。指摘されるまで気づかないさりげないアイデアが、新型レンジローバーにはあふれていて控えめだけど揺るぎのない自信につながっているのがわかる。

駐車場で他社の高級SUVに横づけされたら「君はいつからそのスタイルなの?」と静かに尋ねる貫禄すら感じる(笑)。これが嫌味に聞こえないのは、女王ゆえの余裕だし、ホイットニー・ヒューストンの出演作じゃないけど、その優雅さで『ため息つかせて』欲しいものなのだ。

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オプションの23インチホイール。

レンジローバー ファーストエディション P530 SWB

サイズ(全長×全幅×全高):5065×2005×1870㎜
排気量:4394㏄
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
最高出力:530PS/5500-6000rpm
最大トルク:750Nm/1850-4600rpm
駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
車両価格:¥23,070,000
問い合わせ先/ランドローバーコール
TEL:0120-18-5568
www.landrover.co.jp

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※この記事はPen 2022年9月号より再編集した記事です。