【東京クルマ日記〜いっそこのままクルマれたい〜】 第154回“ヒップでクールにふるまう革命的なスタイル、「冷戦下のマスターピース」はどんな音を鳴らすのか?”

  • 写真&文:青木雄介
Share:
1973年に発売。オイルショックもあり、わずか1672台しか生産されなかった。

BMWの名車といえば“マル二”の愛称で知られる2002(02)シリーズですよ。1950年代までは大排気量エンジンが主流だったBMWが、M10と呼ばれる直列4気筒エンジンを開発。そのエンジンを搭載し、ノイエクラッセと呼ばれる小型車を発表。その2ドアモデルが02シリーズなんだ。

2-2002.jpg
最高速は210km/h。エアロパーツの標準装備は当時としては画期的だった。

この02シリーズは、当時のドイツ赤軍(バーダー・マインホフ・グルッペ)が好んで使用する逃走用のクルマとして知られることになる。映画『バーダー・マインホフ 理想の果てに』でも2002tiiが逃走シーンに使用され、警察とのカーチェイスを演じている。小型ボディに強力なエンジンをもった02シリーズがカーチェイスに向いているのは間違いないけど、広く知られた大きな理由はあだ名が流行してしまったこと。

そのあだ名とは「バーダー・マインホフ・ワーゲン」で、頭文字をとればそのままBMWになる(笑)。当時このクルマのオーナーは事件があると必ず検問で止められてしまったそうで“バーダー・マインホフには所属していません”というステッカーを貼ったオーナーもいたそう。このイメージが当時のドイツの若者の心をつかみ一躍、人気を博した。「ヒップでクールで革命的」ってことでね。

実際02シリーズはクールで革命的だった。外観もインテリアもドイツの機能主義的なデザインが貫かれていて冷戦下のデザインとして白眉。なかでもこの「2002ターボ」はマスターピース。欧州で最初にターボチャージャーが搭載された量産車ですよ。ボディはワイドに拡幅され、ビス留めのオーバーフェンダーを装着した姿は「スパルタンなターボ車」。その始祖と言いたいね(笑)。

乗ってみるとイメージ通り、小型ボディに4輪の腰のすわった接地感がたまらない。アクセルを踏めばスムーズな吹け上がりにターボのタービン音が相乗して、「これぞミュンヘン印」と膝を打ちたくなる。なるほど。現代のクルマの流れにあっても明らかに速い。

3-IMG_20220316_152827.jpg
バケットシートに革巻き3本スポークのステアリング。そしてターボのブースト計がアイコニック。

エンジンは、低速から力があってアクセルのレスポンスもよい。ターボが効くのは4000回転からでラグもほとんど気にならないし、ハンドリングも正確で扱いやすい。なによりエンジン音が静かで、意外なほどエレガントな乗り心地に驚かされるわけ。こんなにエアロで武装された外観ながら「品がある」って「どんなモテ仕草?」って思っちゃう(笑)。

---fadeinPager---

4-IMG_20220316_153448.jpg
クーゲルフィッシャー製機械式インジェクションに独KKK製のターボユニットの組み合わせ。

乗り味はジャズに通じると思った。プレイヤビリティにあいまいなところがなくて、小型ながらも最小セットで厚みのあるドライビングを実現する。メロウにクルーズしてよし、スウィンギーに車体を振り回してもよし。セッションが熱くなれば、ターボはまるでハードバップな熱い魂を注入するように牙をむく。

02シリーズの時代はフリージャズの全盛期だけど、このクルマの魂はもっと実直で融通の利かないスタイルだと思う。だからこそトランペット奏者、ディジー・ガレスピーのようにヒップに乗りこなしたいマスターピースって感じ。前車のバックミラーにアピールするフロントスポイラーの反転した「TURBO」文字。このクルマの本領は、遊び心にも込められているんだね。

---fadeinPager---

5-IMG_20220316_153213.jpg
オーバーフェンダーはビス留め。フロントブレーキはベンチレーテッドディスク。

1974年式 BMW2002ターボ

サイズ(全長×全幅×全高):4220×1630×1410㎜
排気量:1990cc
エンジン:直列4気筒SOHCターボ
最高出力:170hp/5800rpm
最大トルク:240Nm/4000rpm
駆動方式:FR(フロントエンジン後輪駆動)
車両価格:応相談
問い合わせ先/ヴィンテージ湘南
TEL:045-300-3750
www.vintage-shonan.co.jp

関連記事

※この記事はPen 2022年8月号より再編集した記事です。