【東京クルマ日記〜いっそこのままクルマれたい〜】 第155回“世界に待望される和モダンSUVは、脳がバグる!? 弁慶の八艘跳びのような韋駄天走り”

  • 写真&文:青木雄介

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フロントのスピンドルグリルは7組のフローティングバーを組み合わせた。

納車4年待ちの大人気車、レクサスのフラッグシップSUV、LX600に乗った。昔ながらのラダーフレーム構造で、旗艦モデルの名にふさわしい堂々としたヴィジュアル。乗ってみると自重で路面入力を踏みならして走る“フルサイズ”モンスターですよ。ハンドルやアクセル、ブレーキにしっかりした操作感があって重厚感があるのね。

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堅牢一徹をイメージさせるホイールベースは伝統の2850mm。

そんなLX600を初夏の軽井沢に連れ出した。軽井沢の別荘地帯をつなぐ連絡道みたいな山道は場所によって、ホント道が悪い。アスファルトもひびだらけで、中にはところどころ陥没しているような道もある。はからずもそんな悪路に入りこみLX600の真価を知ることになったんだ。

ドライブモードをスポーツプラスに入れてみると、「待ってました」とばかりに巨体がいきいきと輝きだす。車体を路面に平行に保ちつつ、足まわりだけで路面の凹凸を処理。街中では手に余る印象だった22インチの大径タイヤも、悪路ではまったく気にならない。スポーツSUVでも手こずりそうな路面の起伏を、ポポーンと軽快に飛び越えていく。義経ならぬ巨漢・武蔵坊弁慶の八艘跳びって感じですよ(笑)。「あり得ない」と脳が少しだけバグったね。

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オンロードからオフロードまで多様な環境での直感的な操作を想定して、吟味され配置されたインテリアのスイッチ類。 レクサスでは「タズナコンセプト」と呼んでいる。

ハンドリングはアンダーを出さないように踏ん張りつつ、切り増せばリズミカルに巨体がコントロールされる。ひかえめだけどV6サウンドもちゃんと鳴っていて「普通、フルサイズSUVでこんな走りする?」ってなかば、あきれれつつも感心するんだ。オフローダーとしての才能があって、そのスタイルを変えずに進化し続けるハードコアな横顔が見えてくる訳。

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ボタンひとつで41度のシート角度のリクライニングポジションへ移行する。

その求道者的なスタイルは変わらないからこその色気があって、音楽でいえば実力派ミュージシャンのブルーノ・マーズとアンダーソン・パークの共同プロジェクトであるシルクソニックっぽくもある。彼らの甘くて優しくてソウルフルな音楽性は、レクサスになぞらえれば“ウルシ(漆)”ソニックって感じかな(笑)。

シルクソニックはシカゴソウルに代表されるような、洗練されたコーラスグループの懐メロスタイルを現代風にアレンジしたプロジェクトなんだけど、レクサスも寄木細工によるオーナメントやまるで漆塗りのような深みのあるピアノブラックとかアレンジの仕方に大人の色気がある。でもレクサスの和モダンな包容力はインテリアだけじゃないんだ。

たとえば試乗車の“エグゼグティブ”は2列目がオットマン付きシートのモデルで、走りながらにして空中浮遊しているような姿勢でくつろげるのね。運転者にドライブモードをコンフォートにしてもらって、マッサージされながら巨体のパワーを感じていると即寝しちゃうんだ(笑)。なんだこれ。クジラの上に寝転んで昼寝するような、それでいてどこか日本の湯治場的な癒しがある。嗚呼、うるわしの“ウルシ”ソニック。世界はこういうジャパネスクな優しさを求めているんですよ。

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厳しいこと言うと、もうひとつ上の高級化を目指すなら車体はモノコック構造にすべきだし、フルサイズなら後輪操舵もつけたい。やはりV8エンジンも欲しかった……いろいろ思うところはあったものの「スポーツプラス」と「コンフォート」という極端に違うドライブモードをもつフルサイズSUVなんてLX600以外には見当たらないよね。

世界はまだまだ悪路だらけ。北米や欧州だけじゃなくて、レクサスが辺境に拡大する世界の高級車市場を狙っていく姿勢はシンプルにカッコいい。その意味でこのクルマが最も待望されている国のひとつであるロシアが戦争をやめて、また彼の地で販売される世の中が来ることを祈りたい。

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寄木細工のオーナメントパネル「鷹羽(たかのは)」が映えるフロアコンソール。

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ルーフからバックウインドゥまで絞り込んだクォーターピラーが塊感と洗練さをイメージさせる。

レクサス LX600 エグゼグティブ

サイズ(全長×全幅×全高):5100×1990×1895㎜
排気量:3444cc
エンジン:V型6気筒インタークーラー付ツインターボ
最高出力:415PS/5200rpm
最大トルク:650Nm/2000-3600rpm
駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
車両価格:¥18,000,000(税込)
問い合わせ先/レクサスインフォメーションデスク
TEL:0800-500-5577
https://lexus.jp

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