<車両型や衛星型の探査機に続き、泳ぐタイプのものが登場しそうだ>
次世代の宇宙探査は、携帯サイズの探査機が主役になるかもしれない。NASAのジェット推進研究所(JPL)のエンジニアが、水中を遊泳する小型ロボットを考案した。JPLが「遠い世界の生命を探す」ロボの有力なアイデアとして、コンセプト段階の同機を発表している。
このコンセプトでは、スマホほどのサイズの小型ロボットが多数連携しながら水中を泳ぎ、広い範囲を一挙に探索する。1台ごとのサイズを抑えてあるため、限りある母船のスペースに大量に搭載できる点が革新的だと評価されている。探査対象の星が生命の居住に適しているかのデータを収集し、原始的な生命体がいないか探索する。
木星の衛星であるエウロパなど、水のある衛星に数十台単位で投入することが想定されている。すでに数千万円規模の予算が割り当てられており、今後試作機の製作フェーズへ進む予定だ。
探査機は、JPLでロボット工学を研究するイーサン・シャーラー氏が考案した。NASAの革新的先端コンセプト・プログラム(NIAC)から60万ドル(約8300万円)のフェーズ2資金が与えられている。今後2年間を費やし、3Dプリントによるプロトタイプの作成とテストに当たる計画だ。すでにフェーズ1資金として昨年、12万5000ドル(約1700万円)が支給されていた。
コンセプトは「Sensing With Independent Micro-Swimmers(独立型マイクロ・スイマーによる探査)」と名付けられ、遊泳を意味するSWIM(スイム)の略称で呼ばれている。
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複数台の同時探査案、ついに試作段階へ
これまでのNASAの惑星探査プロジェクトは、中核的な探査機を1台または2台投入する形のものが主流だった。2021年には火星探査車のパーサヴィアランスが、小型ヘリコプターのインジェニュイティとともに火星に届けられた。
ただし以前から、複数の探査車を同時に投入した方が広範囲を同時に探査できるとの議論は存在した。2021年に火星に到達した探査車のキュリオシティも、同型機を2〜3機同時に打ち上げる案が議論されていた。
今回のシャーラー氏のアイデアは、この考え方を大胆に拡張し、数十台の規模にまで数を拡大するものだ。ロボットを群れで放つことでより広いエリアを探査できるだけでなく、データを重複して収集することで、測定値の正確性を向上する効果が期待されている。
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探査機で運び、専用のロボットで氷を溶かす
SWIMの投入プロセスとしては、まずは母船となる探査機が衛星の表面に軟着陸し、続いてクライオボットと呼ばれる筒状のロボットを真下に向けて放つ。クライオボットの外壁は原子力電池によって熱を帯び、氷を融解しながら堀り進むように設計されている。
クライオボットが水中に到達すると、いよいよ小型ロボットの放出フェーズだ。クライオボットに搭載された数十台のロボットが放たれ、水中で群れとして活動する。探査機とクライオボットはケーブルで結ばれているが、放たれる小型ロボットにケーブルはない。小型ロボットそれぞれがデータの収集にあたりつつ、遠方まで進んだほかの個体からのデータを無線で受け取り、クライオボットに送り返す中継機の役割を果たす。
SWIMが目下念頭に置いているのは、木星の衛星であるエウロパや、土星の衛星のエンケラドゥスなどの探査だ。これらの惑星は氷で覆われた表面の下が液体で満たされており、遊泳型ロボットの強みを存分に発揮できる。
科学ニュースサイトのZMEサイエンスは、「数十年前であれば天文学者たちがこれらの世界(衛星)を重視することはなかったが、みかけ以上に可能性があることが近年の研究によって示唆されている」と説明している。
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データの同時収集で、生命を探る「嗅覚」に
遊泳型のロボットにはさまざまな利点があるようだ。クライオボットは氷を溶かすために熱を放出するため、その周囲でデータを収集した場合、測定値が影響を受けるおそれがある。しかしSWIMの場合、小型ロボットたちが探査機から遠く離れた場所まで移動してから測定を行うため、人工的な熱の影響を受けることがない。
ロボットは群れとして自律的に行動し、データ収集に適した陣形に展開する設計だ。考案者のシャーラー氏によると、個々のロボットから寄せられたデータに勾配がみられた場合、エネルギー量や化学物質量の多い方に群れを進ませることで、原始的な生命を効率よく発見できるという。
宇宙の探査といえば、火星など惑星にスポットライトが当てられがちだ。だが、海をもつエウロパやエンケラドゥスなどの惑星は現在、太陽系内で原始的な生命が存在する可能性の最も高い場所だと考えられている。将来的にSWIMのロボットから、驚くようなデータが報告される日がくるのかもしれない。
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※この記事はNewsweek 日本版からの転載です。