京都の平安神宮のすぐそばにある静かな通りに佇む「cenci」は、シェフ坂本健さんが率いる人気イタリアンレストラン。つながりのある生産者から仕入れた食材の魅力をていねいに引き出し、イタリア料理の枠にとらわれない自由な発想で生み出した料理で、ファンを増やし続けている。日本各地のみならず、ときには海外まで訪れて、土地や生産者、素材と向き合う坂本さんが、レストランで使っている食材や調味料などを取り扱うショップ「manina」をオープンした。
場所は、鴨川にほど近い二条通沿い。地元で人気の居酒屋や焼き鳥屋などが点在するエリアで、cenciからは歩いて15分ほどだ。外観は、不揃いのレンガを積んでラフに仕上げた壁やカーブした窓、木の扉など、温かみと親しみやすさを感じさせるもの。店内は、木くずを混ぜた漆喰や無垢の木をベースとした開放的な吹き抜け空間で、棚にはパスタや調味料、お茶などが並んでいる。
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「いい生産者のものや発信したいもの、伝えたいものも、レストランだと限られた期間しか使わないのがもったいない気がして、物足りなさを感じていました。こういった気軽に買いに来られる場所があれば、自分たちがおいしいと思うものをもっと伝えられると思ったんです」と坂本さん。
農家の後継者問題、環境変化による水産資源の減少、フードロス、孤食の広がり……。食にまつわる問題はさまざまあるが、坂本さんは料理や食材を通して、その先にある背景に関心をもってもらうことが大切だと考える。
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「食べてみておいしくて、その中でつくり手の生き方が見えたり、地球に対して優しい栽培方法をしている人がいるんだとか、なんで無農薬がいいのかとか、土を耕すってどういうことなのかとか、食べることからメッセージを受けるほうが、僕らが広報のように言うより、もっと伝わるのかなと思って。ここで手に取ったものから自然な感じで伝わってマインドが変わることが、僕としてはいちばんいい。一緒に大きなうねりをつくるぞ、SDGsだぞ、みたいに言っても、結局伝わらなかったりすることが多いし、自分自身で気づくきっかけづくりの場になったらいいですね」
過剰包装を避け、エコバッグを推進するなど、環境への取り組みも大切にしている。オリジナルエコバッグは、イタリア料理やワインの監修もしている、デザイナー・イラストレーターのハヤシコウさんに依頼したものだ。
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女性が働きやすい環境づくり
店名の「manina」はイタリア語で小さな手という意味。生産者の顔が見えるような手仕事の品を集めたショップという以外に、もうひとつ大切な意味が込められている。それは“女性の手”。ここは女性が働きやすい環境づくりへの取り組みの場でもあるという。
「環境の変化などさまざまな理由で、もとの仕事ができなくなっている女性は多いですよね。女性の社会復帰という大義があっても、受け入れ体制がないかぎり実現は難しいし、結婚や出産、体力的な問題などが出てきた時に辞めるという選択肢しかないのは寂しい。やりたいことを先に決めてしまうと、それに合わせた働き方しかできなくなってしまうけれど、繋がりのある人がいて、やりたいことがあって、じゃあこうしよう、みたいなわがままが言える働き方ができるお店になればいいなと思っています。一緒に働いてくれる人たちにはずっと笑っていてほしいというのがあるし、それを維持するためにはなにをするべきかというのは常に考えています」
修業時代からいまに至るまで、スタッフの個性ややりたいことを尊重して個々の成長につなげ、チーム力を引き上げてきた坂本さんらしい発想だ。
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5月のオープン時には、2日間のオープニングイベントで、3品のデザートコースと、それに合わせたドリンクがふるまわれた。cenciのパティシエに新たに就任した中塚隆雄さんの創意を凝らしたデザートに、選りすぐったお酒やお茶のペアリング。ぜひまた同じようなイベントを開催してほしいところだが、今後の予定は?
「いまのところは、cenciのパスタソースやグラノーラ、セレクトした食材の販売のみで、オープンも火曜と水曜だけ。営業日数はこれから増やしていければと思うし、もっと先にはイートインも考えています。うちを辞めてワインの勉強をしに行ったニュージーランドでヨガにはまって、また戻って来たスタッフがいるんですが、ヨガをした後に発酵食を食べるというイベントも行う予定です。余裕が出たら、自分でもイベントをしたいですね。タコスとかハンバーガーとかのファストフードを、レストランでは使えないような歪んだ野菜なども自由に使って提供するとか。ここのお店のテーマは“ゆっくり”なので、みんながやりたいことをやりながら、ゆるく動かしていけたらと思っています」
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生産者とのつながりを大切に、食の未来を考える
テイクアウトできるデザートとして、今後はカカオ餅を販売する。練った蓮粉に、アマゾンカカオの殻で煮出したカカオティー、喜界島の粗糖、ブランデーをくわえた一品で、もっちりした食感にアマゾンカカオの芳醇な香りや苦味、酸味が幾層にも重なるようなおいしさ。手土産の新定番になりそうだ。
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「喜界島の『旬の黒砂糖』はすごいていねいなつくりかたをしていて、フレッシュでキビの香りがするんです」「北海道の大沼ガロハーブガーデンはオーガニックのハーブ農家で、そこでミツバチを飼ってつくっているはちみつがすごく香りがよくて」「宮城のお米クリエイター、佐藤裕貴くんは有機栽培や自然農法などに取り組んで、古代米やリゾット米などレストランでも使っていて、ここでも置けたら……」。
ひとつひとつに坂本さんや生産者の思いが詰まったアイテムの数々。実際にこちらで求めたオリーブオイルやバルサミコ酢などを使ってみると、料理の腕が上がったのかと錯覚するほど、普段の食卓が豊かになった。営業日時のハードルはあるものの、京都を訪れるおいしいものを愛する人、地球に優しい生活をしたい人にぜひ足を運んでほしい一軒だ。
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manina マニーナ
京都府京都市左京区難波町211-5
TEL:なし
営業時間:11時〜16時
営業日:火曜、水曜、第2・4土曜
www.instagram.com/stories/manina_cenci/
※営業予定日はInstagramで要確認
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【全写真】京都の人気イタリアン「cenci」が手がけた、“おいしい食材店”「manina」とは?
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