デニムジャケットではなくトラッカージャケット? そのルーツと呼び方の変遷を振り返る

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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モデル名は「MADE IN THE USA トラッカージャケット 3rd」。品番は「19790-001」。素材は「505」のRinse、Medium Authenticと同じCONE製のデニムを使い、アメリカで縫製されたモデル。¥33,000/リーバイス®︎

「大人の名品図鑑」デニム編 #5

スポーティなファッションの流行であまりスポットライトが当たらなかった「デニム」が最近、復活の兆しを見せている。考えてみれば「デニム」は永遠の輝きをもつもので、流行やブームとは異なるポジションにあるものだ。今回はそんな「デニム」の名品の魅力を追う。

「ジーパン」「Gパン」と同じく、「Gジャン」も和製英語、つまり日本でつくられた言葉だ。英語では「デニムジャケット」、あるいは「ジーンジャケット」と呼ばれることが多い。ファッション評論家出石尚三が書いた『完本 ブルー・ジーンズ』(新潮社)によれば、ジーンズと共地のジャケットは「ウエスタン・ジャケット」とも呼ばれていたと書かれている。さらに「着丈の短い、ジャンパー形式のジャケット。原則としてシャツ襟、前開きボタン、両胸にパッチ&フラップのポケット、背中にヨークが付く。今日のウエスタン・ジャケットは、一九〇五年にリーヴァイ・ストラウス社が登場させた、九オンス・デニムの“ブラウス”が原型となっている。—中略—リーヴァイスが“ブラウス”に代えて“ジャケット”の名を採用するのは一九三八年以降のことである」(ブランド表記等は原文ママ)と、このジャケットの詳細を解説する。

出石氏が書くようにデニムジャケットは、ジーンズと同じくリーバイス®︎が1936年に発売した「TYPE Ⅰ」と呼ばれるジャケットがオリジナル。当初は薄手のデニムが使われていたことからか、ブラウスと呼ばれていたらしい。その後1953年には「TYPE Ⅱ」、1967年には「TYPE Ⅲ」と進化を遂げていくが、いずれもリーバイス®︎を代表するアイコン的なデニムジャケットになっている。

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よりスタイリッシュな「TYPE Ⅲ」

実は最近、デニムジャケットを創造したリーバイス®︎ではこのジャケットを「トラッカージャケット」と呼んでいて、ほかのブランドでも同じようなデザインのジャケットをそう呼んでいるのを聞いたことがある。諸説あるが、もともとは「TYPE Ⅲ」をリーバイスが発売したときに用いた呼称らしいのだが、名前が変わるとまた違ったイメージを醸し出すもので、特に日本人には新鮮に聞こえる。

今回紹介するのは、「MADE IN THE USA トラッカージャケット 3rd」と呼ばれるモデル。リーバイス®︎の「TYPE Ⅲ」らしく、胸部分から裾にかけて、見頃に入ったV字状の切り替えによって独特の立体感を生み出す。両胸にはフラップ付きのポケットを備え、ステッチが利いたデザインが大きな特徴。今日まで多くのブランド、メーカーがお手本にするデニムジャケットの完成形と言ってもいいデザインだ。

それまでのデニムジャケットはワークウエアの印象が色濃く残っていたが、「TYPE Ⅲ」はリーバイス®️がファッションアイテムとして打ち出したモデル。しかも前2型に比べて着やすく、スタイリッシュだ。短めの着丈が軽快さを着こなしに与えてくれる。上下デニムの着こなしにも使えるし、カジュアルパンツ、ときにはドレスパンツに合わせることもできる。シャツ代わりに使って、レイヤード=重ね着のスタイルも楽しめる。しかもこれはアメリカで生産されたモデルで、素材もCONE製のデニムを採用。洗いがかかったデニム生地で着た瞬間から快適な着心地が楽しめる。デニムジャケットのルーツを存分に味わうことができる一着で、一枚持っていればとても便利なアイテムになることは確実だ。

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「TYPE Ⅲ」が登場する名作映画

最後に、リーバイスの「TYPE Ⅲ」と思われるデニムジャケットが登場する名画を紹介しておこう。

一本目が2012年公開の『ドライヴ』。天才的なドライビングテクニックをもち、強盗の逃し屋という裏の顔をもつ主人公を演じたのが、ライアン・ゴズリング。裏の仕事を行うときには光沢のあるサテンのジャケットを着用しているが、クルマを降りたときに濃いデニムの「TYPE Ⅲ」と思われるデニムジャケットを着ていた。両手にはめたドライビンググローブがデニムジャケットに妙に似合い、精悍なイメージをもたらしている。

もう一本が1985年に公開された青春映画の金字塔とも言われる名作『ブレックファスト・クラブ』。監督はジョン・ヒューズで、エミリオ・エステベス、モリー・リングウォルド、アリー・シーディなど、のちにハリウッド映画で活躍する俳優を多数輩出した作品だ。彼らを中心に、当時の青春映画で活躍していた若手俳優たちをまとめて「ブラットパック」と呼んだ。

本作の主人公のひとり、不良生徒のジョン・ベンダーを演じたジャド・ネルソンが着用していたのが、洗いをかけた「TYPE Ⅲ」と思われるデニムジャケット。赤黒のチェックシャツと白Tシャツの重ね着はアメカジの王道的スタイルで、長髪でバッドボーイの彼の役柄によく似合っていた。

ちなみにこの作品の舞台は1984年。この年、ブルース・スプリングスティーンが『ボーン・イン・ザ・USA』をリリースし、3000万枚のヒットを記録している。スプリングスティーンのアルバム写真にも、星条旗をバックにリーバイス®︎のジーンズが登場する。やはりデニムはアメリカの象徴だ。

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襟裏には「ツーホース」マークが刻印されたレザーパッチが付き、その隣にアメリカ製を象徴する星条旗のタグが縫い付けられている。

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背中に入った縫い目とステッチが微妙にカーブしている。この曲線によって立体的なシルエットが生み出される。

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背面の裾に入ったサイドアジャスター。内側でボタンを留めるとフィット感が増す。デザイン的なポイントにもなっている。

問い合わせ先/リーバイス・ストラウス ジャパン TEL:0120-099-501

https://www.levi.jp/

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