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【Mr.Children特集】SKY-HIがミスチルから学んだ、表現を研ぎ澄ませることの大切さ

  • 写真:興村憲彦
  • 編集&文:倉持佑次
  • スタイリング:安本侑史
  • ヘア&メイク:椎津恵

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アーティストやプロデューサーとして活躍するSKY-HI(スカイハイ)さん。決して音楽性が近いとはいえないが、ミスター・チルドレンからはいまも多大な影響を受けているという。

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SKY-HIさんがミスター・チルドレンを意識し始めたきっかけは、8歳で耳にした「everybody goes〜秩序のない現代にドロップキック」だった。デビュー後、初のダブル・ミリオンを記録した前作「Tomorrow never knows」からわずか1カ月でリリースされた同曲は、現代社会の歪みや矛盾、人のエゴの醜さを歌った歌詞が特徴だ。

「熱狂的なミスチルファンだった姉が買ってきたCDを聴いて、その歌詞に衝撃を受けました。ヒットチャート常連の自分たちで“退屈なヒットチャートにドロップキック”と歌っていたり、すべてがセンセーショナルだった。食い入るように歌詞カードを見ながら聴いたことを覚えています」

自身がアーティストになったいま、歌詞を書く時にはミスター・チルドレンに影響を受けた強い信念が反映される。

「実はポップは表現を研ぎ澄ませた狂気の最たるものであるべきで、売れるために表現を噛み砕くことは間違っていると思うんです。なぜ自分がそう考えるようになったかというと、やっぱりミスチルの影響が大きい。彼らがやっているのは、かねてからそういうことだと思うから。ラブソングでもすごくストレートな歌詞を使うけど、『君が好き』って、一周回って狂気じみていませんか? “君が好き 僕が生きるうえでこれ以上の意味はなくたっていい”ですよ? 言葉や作品を世の中に出すということに関しては、自分の想像以上にミスチルの影響を受けていると思います。それがなければ、よくも悪くももっとまっとうなラッパーになっていたはず。そのおかげでいまの自分があるので、ありがたいですけど(笑)」

ミスター・チルドレンの楽曲のほとんどを作詞作曲している桜井和寿は、楽曲以外のかたちで社会に対するメッセージを発信することは少ない。桜井の歌詞に惚れ込むSKY-HIさんは、そんな姿勢にも魅力を感じているそうだ。

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日本国内では、ジョン・レノン以上に影響を与えているスター

「ミスチルのような国民的ポップスターは他にいない。日本国内でいったら、ジョン・レノン以上に影響を与えているはず。その分、多くの誤解も受けていると思う。桜井さんが書く歌詞には、世の中から受ける自分の感情の発露が見える。『マシンガンをぶっ放せ』の“僕は昇りまた落ちてゆく 愛に似た金を握って”の部分などは、自嘲的なところも臆面もなく出していて、世間から受けている誤解に対してのアンサーなんだろうなと思います。しかも、詩的センスが高いから曲として美しく感じる。あえて遠巻きに言うことが美しいとされた時代の曲も素敵だと思いますが、桜井さんはもう少しストレートに言いながら、その中に日本の歌謡曲黎明期の言葉の美しさとかがナチュラルに入っているから、みんな普通に聴いてしまう。自分の感情の発露を大衆に届けるために、メロディーと合わせて出していくというスタンスは、表現者として本当に素晴らしい」

桜井が言葉を印象的に残すためにしている工夫は、SKY-HIさんの活動にも影響を与えている。プロデュースを務める7人組ボーイズグループBE:FIRSTのプレデビュー曲「Shining One」では、あえて“背中押す 泥まみれのナンバーワン”と、葛藤や不安を滲ませるような歌詞を綴った。

「バンドの難しいところは、音楽を志した時に言おうと思っていたことが、3〜4枚目のアルバムを出す頃には言い切ってしまうこと。その最中に自分たちに求められているものもわかるはず。でもミスチルはブレていない。『足音 〜Be Strong』を聴いた時、びっくりしました。みんなが望んでいるミスチルだけど、いままでにないものにアップデートされていた。それまでなら情景描写や詩的な表現を使っていたと思いますが、すごくストレートな歌詞を選び、自分たちの世界のまま、現代の表現方法に適応しているのが心強かった。世の中の空気と自分たちとの接点を考えた上で、曲を研ぎ澄ませている感じといえばいいでしょうか。その時できるベストを出していこうとする姿勢は、ミュージシャンとしてとてもかっこいいと思います」

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SKY-HIが選ぶBest 10 Songs

「マシンガンをぶっ放せ」
「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」
「雨のち晴れ」
「ニシエヒガシエ」
「フェイク」
「youthful days」
「掌」
「足音 〜Be Strong」
「Worlds end」
「Any」

「日本の歌詞世界は、ヒップホップの浸透後、比喩で逃げないことが大事になった」と語るSKY-HIさんは、2014年に発売された「足音 〜Be Strong」で感じた変化を指摘。言い回しのうまさを感じさせることが美徳ではなくなった時代に合わせて、それ以前の作品より確実に直接的な表現が増えたと分析する。

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「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」

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TFDC28080_L.jpg「ニシエヒガシエ」

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「足音 〜Be Strong」

SKY-HI

アーティスト/音楽プロデューサー。1986年、千葉県生まれ。2005年に音楽グループAAAのメンバーとしてデビュー。日高光啓名義で活動する一方、06年よりラッパー“SKY-HI”として始動。20年には1億円以上を投資し、ボーイズグループ発掘オーディションを開催。「BE:FIRST」を誕生させる。

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※この記事はPen 2022年7月号「Mr.Children、永遠に響く歌」特集より再編集した記事です。