「自分が好きなアメリカのクラフトビールが日本で飲みたい!」から生まれた、WEST COAST BREWINGとは?

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    Photo by West Coast Brewing

    ビールがずっとおいしいと思えないまま20代を過ごしました。それがガラリと変わったのは、コーヒーの味がする黒いビール「スタウト」に出会ったことから。ビールがずっと苦くて黄色くて気が抜けたおいしくない飲み物だと思っていたわたしにとって、まさにビール革命でした。コーヒーだけではなく、お酢っぽい味、ワインの味、チョコレート味、フルーツジュースっぽい味、シャーベットの味……ありとあらゆるビールがあることを知ってこんな楽しい世界があったの?とビールの沼にハマっていき、2020年の4月に『エンジョイ!クラフトビール』という本を書きました。

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    執筆中の2019年のこと。日本のクラフトビール界に新星の如く現れたのが、West Coast Brewing(WCB)。初めて飲んだWCBのHAZY IPAでわたしのビール革命No.2が起こりました(笑)ちなみにHAZY IPAは、元々アメリカ東海岸で生まれたビールで、その名の通りにごりがあって、ジューシーで甘い。IPAは苦味たっぷりのスタイルですが、HAZY IPAは飲みやすいことからアメリカで一気に人気になったスタイルです。

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    photo: West Coast Brewing

    West Coast BrewingのCEOは、ビール業界にいた人ではなくてなんと現役建築家。まだWest Coast Brewingが始動したばかりの時、噂で「アメリカのシアトルから静岡に来て、建築で大成功したリッチな中年のおじさんが、日本で好きなビールがないから建築で成した富で、一流の醸造者を連れてきて最高においしい好きなビールを造ってる」と聞きました。「うまいビールのためなら金に糸目はつけん!」なーんて言って造ってるのかなぁと当時は思っていましたが、そのリッチな中年おじさんと噂に聞いていたCEOのデレック・バストンさん。この方です。

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    photo: West Coast Brewing

    全然、中年のおじさんじゃない!正真正銘の好青年!

    実はWest Coast Brewingのビールをリリースされるたびに東京で飲み始めて、こんなおいしいビール、どんな人たちが造っているんだろうと醸造所のある静岡県の用宗のブルワリーまで行ってみました。その翌年、共通の友人がいたことでデレックさんと知り合い、今は一緒に飲みに行く友人に。

    「リッチな中年のおじさんが、好きなビールをつくってる」噂の真相と、建築家がなぜブルワリーを、そしてどうやって数年で日本を代表するブルワリーになったのか、本人に聞いてみました。


    Q. 建築家でブルワリーもやっているってことは、マニアックなビール好きだと思いますが、クラフトビールとの出会いは?

    大学生の頃からすでにクラフトビールを飲んでいました。シアトルの学生ってすごくて、よくあるバドワイザーとか安くて水っぽいビールじゃなくて、ちゃんとクラフトビールを飲んでるんです。だから最初からおいしいビールしか飲んだことなくて……(笑)

    Q. 確かにシアトルはブルワリーも多いし、いいビールに恵まれてますもんね。クラフトビール育ちで、アメリカでおいしいクラフトビールを飲んでた大学生がどうして日本で建築家になったんですか?

    大学では日本語を専攻していて、大学卒業後にシアトルで日本の企業に就職しました。そこで、今は離婚しちゃったんですけど日本人の奥さんに出会って、一緒に日本に帰国して義理のお父さんが静岡でやっていた建築事務所で働き始めたのが建築の道に入ったきっかけです。でもその時は建築の見習いだし、まだ若かったけど子どもも生まれて、お金もなくて、普通のビールさえも飲めなかったな……。生きていくのに精一杯でした。

    Q. 日本に来て、日々の生活で精一杯だったんですね。そこからまたビールにつながったのは?

    その後、独立して建築事務所を立ち上げてだいぶ楽になってきました。アメリカに里帰りした時に久しぶりにシアトルのおいしいクラフトビールを飲んで「めちゃくちゃうまいな!」と思いました。大学の時飲んでたビールを思い出していろいろ飲むようになりました。日本に帰って海外から輸入されたビールを飲むようになったんですけど、やっぱり新鮮じゃないこともあって、アメリカでバーとかブルワリーで飲むビールとは違うなって感じていました。

    Q. ブルワリーを立ち上げるようになった流れは?

    ブルワリーを立ち上げるきっかけになったのは、建築の仕事でウィスキー工場を作ったこと!

    Q. ウィスキー!?どうやってウィスキーとビールとつながったんですか?

    ウィスキー工場を建築するのに、ウィスキーの蒸留工程を一通り勉強しました。ウィスキーとビールって実は造り方の工程はほぼ一緒なんです。前からいつか自分でビールつくれたら楽しいだろうなっていうぼんやりとした夢みたいなのはあったんだけど、ウィスキー工場を作ったことで、ビール工場もできるんじゃないかなって考えるようになりました。そのウィスキー会社の社長さんが、工場をつくる前にいきなり自分のウィスキーを造るんじゃなくて、バーをやるとか輸入をやるとかでまず業界に足を一歩踏み入れてマーケティングとコネクション作りをしてから、工場をつくったんです。しかも社長さんは自分でもだいたいのプロセスはわかっているけど、ウィスキー造り自体はプロに全部お任せしていておいしいウィスキーを造り始めたのを見て……。

    Q. まさか、その成功例をモデルにWest Coast Brewingも一流のブルワーを連れてきて最高のビールをつくってもらうっていう流れですか!?(笑)

    そう!(笑)だから僕がビールをやるなら、まずはバーをやってシアトルのクラフトビールをメインで置いて、ここに行けばアメリカのおいしいクラフトビールが飲めるっていう場所を作ろうって思った。とはいえ、自分がおいしいビールを飲みたかったってのが1番大きかったです。2017年に「12」っていうバーをオープンさせました。(2020年に店舗を隣のビルへ移し拡張リニューアル)

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    photo: West Coast Brewing/2017年当時の12(Twelve)
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    photo: West Coast Brewing/2020年リニューアル後の12

    Q. そこからブルワリーを立ち上げていくわけですが、それだけビール好きだったら自分で醸造したいとは思わなかったんですか?

    思わなかったです。ブルワリーを作るって決めた時に中途半端にやってもしょうがない、うまいもの造りたかったからしっかりとプロを呼んでやろうって決めてました。もちろんビールのことはたくさん勉強したし、今でもしているし、よくわかっているつもりだけど、造ることはその道のプロに任せた方が絶対にうまくいくでしょ?

    Q. たしかに、わたしはコーヒーがないと生きていけないほど好きだけど、自分で焙煎せずに、プロが焙煎したおいしいコーヒーを飲むのと同じことですね。それで話は最初の噂に戻るんですが「建築で得た富でおいしいビールを造る」っていう?

    その噂どこから来たの?(笑)堅実に小さなバーを始めておいしいビールを提供していたらお客さんもたくさん来てくれるようになりました。ブルワリーを作る時に銀行に話に行くんですけど、「ほらこんなにIPA飲む人がいるんだよ」っていうバーの実績を見せられたから融資をもらえました。バーを最初にやったことがやっぱりコネクションを広げてくれて、ブルワリーを作ることになった時に、運とタイミングがよくて最高のブルワーさん2人に来てもらえてスタートできました。体に入れるものだからおいしいことは大前提で、それでいておもしろくて、かっこいいビールを造りたいっていう夢が叶いました

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    photo: West Coast Brewing

    Q. ブルワリーで1番最初に造ったビールは?

    「Starwatcher」っていうWest Coast IPAが1番最初に造ったビール。アメリカ西海岸スタイルのヘイジーIPAを造っているのが僕たちWCBの特徴です。キレがあってドライなフィニッシュ、だから食べ物に合わせやすいし何杯でも飲めちゃうビールです。正直言うと、あのビールを飲みたくてブルワリーを立ち上げた(笑)!リョウコさんが最初に飲んだHazy IPAは好きな人が多くて、クラフトビールの入口・入門としては最高なのでよく作っていますが、個人的にはクリアで度数低めのビールをグビグビ飲むのが好きです。

    Q. StarwatcherはもうWCBの代表作になりましたよね。いきなり歴史を作りましたね。今ではリリースの頻度も増えて「次は何が来るんだろう?」って毎週わくわくしてますよ〜。

    Starwatcherができあがった時、「これが飲みたかったんだ!」って思った。それからもずっと、好きで飲みたいビールをイメージしてブルワーと話し合って造り続けてます

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    photo: West Coast Brewing

    Q. 自分が飲みたいビールが日本になかったから作りたいって思ったのがきっかけだったわけですけど、デレックさんが日本でおいしいビールとブルワリーを通して日本人に伝えたいことってありますか?

    実は建築をやっているのも同じ理由なんですけど、街づくりがしたい。ビールは人を集められるし、日本人にとって衣食住って必要なものじゃないですか?ビールがあると「飲みニケーション」って呼ばれているくらい心を開いて話せるし。ビールはその地域を盛り上げられる力があると思うんです。政治みたいな直接的な方法ではないけれど、うちのビールをどこかで飲んだ日本中の人が、ビールが理由でこの静岡の用宗にあるWest Coast Brewingに足を運んでくれるようになると、静岡に来てくれて、知ってくれるきっかけにもなるし、そうやって街ができていくのを楽しみにしてるんです

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    photo: West Coast Brewing


    まさにデレックさんの願った通り、まんまとわたしはWest Coast Brewingのビールを飲んで、静岡の用宗に足を運んで、ビールを飲んでサウナに入って、おいしいごはんを食べて帰りました。というのも同じ建物内に用宗みなと温泉が併設されていてわたしにとってはまさに天国!

    そしてこの夏、醸造所の横に「ブルワリーに泊まれる」をコンセプトにしたホテルもオープン予定富士山の見える温泉に入って、サウナに入って、とびきりおいしいビールを飲んで、ホテルでバタン!と寝る。考えただけで最高です。

    最後に。クラフトビールってこういうことなんだ!って教えてくれるのが、彼らのビールだと思います。ぜひ一度飲んでみて、用宗にも足を運んでほしいと思います。

    『West Coast Brewing』

    住所:静岡県静岡市駿河区用宗2丁目18-1(用宗みなと温泉隣)WCB用宗TAPROOM
    TEL:054-204-1747
    営業時間: 12時~20時(火~金) ※土日祝は11時〜
    定休日:月曜
    ※平日はテラスorテイクアウトのみ、土日祝のみ店内利用可能
    www.westcoastbrewing.jp/location

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    岩田リョウコ

    文筆家、イラストレーター

    コロラド大学大学院東アジア言語文明学科卒。2009年から外務省専門調査員として在シアトル総領事館勤務。在米中に出版した『COFFEE GIVES ME SUPERPOWERS』がベストセラーとなり世界5ヵ国で翻訳出版されている。サウナ愛好家でもあり、フィンランド政府観光局サウナアンバサダーに任命されている。著書に『週末フィンランド』、『エンジョイ!クラフトビール』、『コーヒーがないと生きていけない!』、『HAVE A GOOD SAUNA!』がある。
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    岩田リョウコ

    文筆家、イラストレーター

    コロラド大学大学院東アジア言語文明学科卒。2009年から外務省専門調査員として在シアトル総領事館勤務。在米中に出版した『COFFEE GIVES ME SUPERPOWERS』がベストセラーとなり世界5ヵ国で翻訳出版されている。サウナ愛好家でもあり、フィンランド政府観光局サウナアンバサダーに任命されている。著書に『週末フィンランド』、『エンジョイ!クラフトビール』、『コーヒーがないと生きていけない!』、『HAVE A GOOD SAUNA!』がある。
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