「(創業からの)最初の30年は序章に過ぎなかった。2007年へようこそ」。
このミステリアスなメッセージが掲げられた8日後、スティーブ・ジョブズが最初のiPhoneを発表した。これは我々の暮らしぶりや働き方を根本から変える大きな転換点となった。
それから15年が経ち、ジョブズはこの世を去り、アップル社の体制も大きく変わった。しかし、同社がスマートフォンを中心としたデジタルライフスタイルの牽引者であることに変わりはない。
iPhoneの立ち上げに関わった後、一時はGoogle社に転職、その後、再びアップルにワールドワイドマーケティング担当の副社長として返り咲いたボブ・ボーチャーズ氏(Bob Borchers)が本誌の独占インタビューに答え、アップルと他社を隔つ一線について語った。
前編(アップル重役が語る、創業45年目でも変わらない製品哲学)に続き、内容をお届けする。
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すべての課題は利用者の体験と、統合型の開発に帰結する
ユーザーを第1に考えていると言うアップルではあるが、最近は同社のような成功するIT企業に対する圧力も強くなってきている。例えばEU(欧州連合)ではスマートフォンの充電端子をUSB-Cで統一する(アップルはLightningという端子を採用)といった法案、さらにはバッテリーを交換式にするべきといった法案が検討されている(*1)。
こうした圧力をアップルはどう捉えているのか。
「現在、そうした規制に関する議論が非常に増えてきています。なので、一般論で話をしますが、そもそもイノベーションというのは、大きな課題に対してまったく異なるアプローチで臨むことによって誕生する部分があると思います。現在、各国の政府や規制当局が、活発に議論を始めています。我々も世の中には、人々が一丸となって解決すべき大きな課題があるということには同意します。例えば環境問題は我々も真剣に取り組んでいる課題です。我々はそうした課題を解決するイノベーションというものは、何が目標かを共有し、その上で実現方法については制約を設けないことが大事だと思います。そうすることで、もっともイノベーティブな方法で解決することができるのです。何を成し遂げるべきかの目標については合意しましょう。でも、それをどう実現するかについてはあまり規定するのはやめましょう、というのが我々の考えです。」
アップルの環境に対する取り組みは多様で、製品開発においてリサイクルしたアルミやレアメタルの利用率を高めたり、使用後の製品の回収をしていることに始まり、製品色を出すためのインキの調合、さらには製品の消費電力に至るまで含んでいる。
M1と呼ばれるアップルがつくったパソコン用のプロセッサは、ノート型Macでは長時間バッテリー動作という価値に還元されるが、それだけではなくデスクトップ製品への搭載にも大きな意義があるとボーチャーズ氏は言う。新たに発表されたMac Studioは、はるかに巨大で高価なワークステーションと呼ばれるクラスのコンピューターに近い性能を発揮しつつも「消費電力が小さく、熱を発生しないので机の上に置いておける小さなサイズに収まっている。インテル社の高性能プロセッサよりも90%高いパフォーマンスを100Wも少ない電力で発揮する」のだという。
信じて任せてくれれば「顧客にとっての最良の体験を目指す」というアップル。実際、他の多くのIT企業が無料で提供される情報と引き換えに、プライバシー情報を盗み見して巨額の情報売買をしていた問題を真っ先に指摘し「プライバシー保護」の重要性を声高に謳ったのもアップルだった。
「アップルは我々の製品を利用する人々が得る体験のすべて、製品との関係性というジャーニーのすべてを良くしようということに情熱的な会社です。そのジャーニーは製品購入以前のどうつくられるかから始まっていて、その後、どう製品と出会い購入してもらうかも、購入した製品パッケージをどのように開けるか、そしてどのように製品とつきあっていくか、さらには製品を使わなくなった後にも、それをどう回収してリサイクルするかまでが含まれています。これは最初にした話にもつながってきます。つまり、そうした全体を通しての体験の良さを目指すのであれば、すべてをきれいに統合して製品をつくりあげることこそが最良の方法なのです。我々はこうしたアプローチで、どこにいるどんな使い方をしている人たちにとっても最良の体験を提供できることを目指しています。」
多岐にわたる質問をしたが、最後は必ず顧客体験の話に戻る。この辺りからも、アップルのその姿勢に嘘がなく、芯が通ったものだということが伝わってきた。