コロナ禍でも大規模プロジェクトを続々と手掛けた永山祐子の「コンセプトと体験」

  • 文:林信行

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このコロナ禍、ドバイ万博日本館や東急歌舞伎町タワー、東京駅前のTorch Towerと永山祐子さんのこれまでの作品の中でも、もっとも大規模な部類に入るプロジェクトを同時に手掛けることになったが、彼女はそれと並行して女性建築家ならではの繊細さ、きめ細やかさを感じさせるプロジェクト、さらにはちょっと夢のあるアート作品まで形にしている。

物事の新しい見方を与えるのが自分の役割

なるほど、永山さんがデザインしているのは建物ではなくて、もっとステキな暮らし方や働き方、過ごし方だったんだ。そう考えると、すべてに納得がいった。

例えば玉川髙島屋S.C本館1階グランパティオ。ただの広い吹き抜けスペースだった場所が永山祐子さんの手により、居心地が良く、ついふらっと寄っては長居をしてしまう「Grand Partio Library & Art」というステキな空間に生まれ変わった。ここも「こういう状況だったら私も気持ちいい」という永山さんの提案で生まれ変わり、照明デザイン賞最優秀賞まで受賞する注目の場所となった。

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©︎Daici Ano

もともとは「天井が高すぎてどこか拠り所がない感じ」だったと振り返る永山さん。そこに、この空間のために開発した700個の照明を吊るしてつくった「光のドームをつくることでヒューマンスケールにつなげた」という。

例えばベーカリーカフェを併設した、アイウェアブランドJINSによる、群馬県前橋市にあるJINS PARK 前橋。ここでの提案では、自らの「ママ目線」を重ねていたという。

ショッピングモールではなく郊外のロードサイドの店舗という立地は、メガネの仕上がりを待つ間にお客さまが時間を潰せる場所がない。JINSの「地域共生を目指したい」という希望から、日常使いができる場所になるようにと考えた。コンセプトづくりから関わった永山さんには「もともとは地域のお母さんに喜ばれるものを」という考えがあったという。「お母さんの雰囲気が家の雰囲気をつくりだすとすれば、地域全体の雰囲気もお母さんや若い夫婦が楽しそうにいられるかが関わってくると」と考えたそうだ。

自分の子供が小さい頃、道路に飛び出したり、迷子になったりする心配がなく、多少目を離していても安心だったからとデパートの屋上によく連れて行っていた経験から、JINS PARK 前橋では店内から子供を安心して見れるような囲った屋上広場をつくったという。

「こういう人がこんなふうに楽しいんじゃないかと、色々シミュレーションをすることが多いけれど、まずは自分というのがありますよね。自分が体験した時に本当にワクワクできるのかが大事。」

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©︎阿野太一 + 楠瀬友将

永山さんの建築プロジェクトは、いずれもコンセプトがしっかりしていて、そこから生まれてくるストーリーも魅力的なことが多いが、そうした概念だけでなく、実際に空間に入った時の体験としても心が高揚することが多い。

「本能的に、本質的に、その空間に入った時にどう感じるかはリアルな身体感覚。子供は正直でわかりやすく。「ワー」っと叫んで喜ぶか、「帰ろうよ」と言われるかのどちらか。」

だから「コンセプトとかストーリーもしっかり話しつつ、説明抜きでワクワクできる空間にすること。これをすごく大事にしている。」という。

「森の中で眠る」を形にした透明なテント

ワクワクできる空間を生み出し続ける永山さんに、思いのままに好きなものをつくってもらったらどんなものができあがるのか。


実はそんなワクワクするアートプロジェクトが、昨年末、山梨県の北杜市で開催された。Hokuto Art Program Ed.1だ。永山さんの他にもデヴィッド・ダグラス・ ダンカンさんや長谷川愛さんといったアーティストや、映画監督の河瀨直美さん、イラストレーターの長場雄さんらと共に永山祐子さん、谷尻誠さん、重松象平さん、島田陽さん、長谷川豪さん、藤村龍至さんといった6人の建築家が、アート作品としてのテントを出品していた(谷尻さんのテントについてはこちらを参照:https://www.pen-online.jp/article/009367.html)。

果たして永山さんがつくったのは、どんなテントだったのか。

「木の下で寝てみたいな。朝、目覚めたら頭上で木がカサカサと音を立てながら揺れている木々を眺めたりして」。

永山さんがHokuto Art Programのためにつくったテントは、まさにこれを形にしている。「テントの中に入ってしまうと、どうしても森にいることを感じにくい。」

そこで中に人が入れる透明風船のテントを3つつくって、それを白樺林の中に設置した。

「テントって、中に入ると割と狭いので、少し広がりがある感じにしたかった」ということで、丸みを帯びながらも頂点を持つ水の滴(しずく)のような形をしたテントは、一番大きいもので11mほどの高さを持たせた。

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©︎Daici Ano

3つのテントのそれぞれが寝る場所だったり、本を読む場所だったりと用途で分かれている。寝袋や防寒の準備は必要だが、泊まることもできるという。「外が見える分、外からも丸見えですけれどね(笑)」

「建築家にとってお題は降ってくるもの。普段は既に色々な条件が決まっている中で、その与えられたガチガチの要件を紐解くことが多いけれど、アートはもっと自由。前提条件の部分から自分で用意しないといけません。まるで自分で出題して自分で答える感じです。そこが結構、難しくもあるけれど、いつもはやっていないので面白い部分でもある」という。

清春芸術村と言えば赤い屋根の建造物、ラ・リューシュを中心に大きな芝生の広場が広がっており、他の多くのテント作品はここに展示されているが、永山さんの作品は、その横の一段高くなった丘の上の白樺の林の中だ。

「最初は芝生広場におくことも考えたのですが、そうすると(しずくの頂点の)向きの根拠がないなと思いました。そしたら白樺の林を見つけて…林の中につくるのは確かに難しそうだけれど、その分、やりがいがあるなと思って」。

こうして永山さんは、あえて自らに制約を課すためで白樺の木々が密集しているエリアを選ぶ。テントを立てる際に邪魔になる木々の間隔は、レーザー測量に基づくMatter-Port(ARCHI HATCH協力)という技術を使って正確に3Dスキャンをし、木々にぶつかりそうでぶつからないギリギリを狙った。

こうして、この白樺林のこの場所だけで成立する3つのテントができあがった。

永山さんが「おきあがりこぼし」のようと表現するテントは丸みを帯びつつも頂点を持つ形で、3つの頂点がそれぞれ別の方向を向いている。

これは「頂点の向く位置が違うと、周りの見え方も変わる」という効果を狙ってのもの。確かに実際にテントの中に入ってみると、例えそれが視界の外にあっても、どこかでテントの頂点の向きを意識してしまう。テントの中から、外の景色を見ると少しだけボヤけたり、光のかさ(ハロー)がかかったりして、日常風景がどこか神秘的に見える。会期終了後も会場には3つのうち2つのテントが残る。そんな永山さんによるテントを含んだHOKUTO ART PROGRAMの動画が公開されている。

実は永山さんがバルーンで作品をつくるのは今回が初めてではない。永山さんがアーティストの藤元さんとコラボレーションして出展した「DESIGNART TOKYO 2018」では、Avex本社ビルの大階段に鏡面のバルーン作品を出品した。

「場所を与えられた時に、この空間でありえないくらいの体積を埋めるぞ、と私も燃えて」とつくったというバルーンは奥行きが17mと巨大で、左右の隅からギリギリ人が階段を通れる大きさ。「建築をやっているだけに空間が身体性に及ぼす影響はわかっているので、アートをやるとなると、そこを意識した作品になることが多い」という。

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©︎Nobutada Omote

ちなみにこのバルーン、建物にひっかけたり吊るしたりすることができないので、構造計算をしてバルーンの下に入れた重りで自立するようにしたというから驚きだ。

清春芸術村の3つのテントも、この時に見つけた中国のバルーンメーカーと組んでつくったという。

今回、インタビューで紹介したプロジェクトは、現在、永山さんが手掛けている数々のプロジェクトの氷山の一角に過ぎない。コロナ禍が収まり、人々が再び自由に世界を往来するようになる頃、人々は東京に新しくステキに生まれ変わった場所がたくさんできていて、その多くが永山さんの手によるものだということを知ってビックリすることになるのかも知れない。

関連記事:ドバイ万博でもナンバーワン。コロナ後の世界をステキに変える永山祐子の建築

永山祐子

1975年東京生まれ。1998年昭和女子大学生活美学科卒業。1998−2002年 青木淳建築計画事務所勤務。2002年永山祐子建築設計設立。2020年~武蔵野美術大学客員教授。主な仕事、「LOUIS VUITTON 京都大丸店」、「丘のある家」、「カヤバ珈琲」、「木屋旅館」、「豊島横尾館(美術館)」、「渋谷西武AB館5F」、「女神の森セントラルガーデン(小淵沢のホール・複合施設)」「ドバイ国際博覧会日本館」、「玉川髙島屋S・C 本館グランパティオ」、「JINS PARK 前橋」など。現在、東急歌舞伎町タワー(2023)、東京駅前常盤橋プロジェクト「TOKYO TORCH」などの計画が進行中。
http://www.yukonagayama.co.jp/

コロナ禍でも大規模プロジェクトを続々と手掛けた永山祐子の「コンセプトと体験」

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