ウイスキージャーナリストが注目する“オクシズ”の蒸溜所より、初のブレンデッドウイスキーがリリース

  • 文:西田嘉孝
  • 編集:穂上 愛
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奥静岡を略して“オクシズ”と呼ばれる静岡県の玉川地区で、2016年に創業したガイアフロー静岡蒸溜所。ウイスキーづくりをスタートして今年(2022年)で6年目。地元の間伐材を使った薪直火焚き蒸留や、地元産の杉材を使った発酵槽での発酵など、世界でも類を見ない挑戦を続けウイスキーファンの注目を集めてきた。

蒸留開始から4年目の2020年12月には、ファーストリリースとなる「プローグK」を発売。そして翌年6月にはプロローグKと対をなす「プロローグW」を、さらに同年11月には「K」と「W」の邂逅となる「コンタクトS」と、3種類のシングルモルトをリリース。

「K」とは、同蒸溜所が閉鎖された軽井沢蒸留所から受け継いだポットスチルで蒸留されたモルト原酒のことで、華やかでフルーティな香りと軽やかな飲み口が特長。対する「W」は、薪直火焚きのポットスチルで蒸留されたモルト原酒のことで、香りは穏やかながら重厚なボディ感を持つ。

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外観もスタイリッシュな蒸留所内にあるテイスティングルーム。ガラス張りの窓からはスチルルームが一望できる。右奥に見えるのはフォーサイス社製の初留釜と再留釜で、手前が薪直火焚蒸留器だ。

特徴的な2つのポットスチルが生み出す個性をウイスキーファンに存分に楽しんでもらおうと、まずは「プロローグK」と「プロローグW」をお披露目。そのうえで両者の個性が調和したフラッグシップとも呼べる「コンタクトS」をリリースするというアイデアは、ウイスキーファンからウイスキーメーカーへと転身を果たした同蒸溜所の創業者・中村大航さんらしい発想だ。

「プロローグK」と「プロローグW」、そして「コンタクトS」という3種のシングルモルトは、レギュラーアイテムとして今後も定期的なリリースが予定される。製品名にもプロローグ(序章)とある通り、ここまではガイアフロー静岡蒸溜所にとっての「序章」であり、中村さんによれば「ここからが本章のはじまり」だ。

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より多くの飲み手に静岡蒸溜所らしさを伝えるために

そんな、ガイアフロー静岡蒸溜所の「本章」の幕開けを飾るのが、今年の2月下旬に発売された「ブレンデッドM」だ。
こちらは静岡蒸溜所産のモルトウイスキーに加え、海外産のモルトとグレーンウイスキーを使ったブレンデッドウイスキー。日本唯一の蒸留酒の品評会であるTWSC(東京ウイスキー&スピリッツ コンペティション)のカテゴリ分けではジャパンメイドウイスキーとなり、他社製品ではベンチャーウイスキーの「イチローズモルト&グレーン ホワイトラベル」やキリンウイスキーの「富士山麓」、長濱蒸溜所の「AMAHAGAN」や若鶴酒造の「十年明」などが同じカテゴリとなる。

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「ガイアフローウイスキー ブレンデッドM」 700ml アルコール度数48% 3960円(税込)/ガイアフロー http://www.gaiaflow.co.jp

価格的にもシングルモルトに比べて手に取りやすく、親しみやすい味わいのブレンデッドウイスキー。その構想自体は蒸留所の創業当初から中村さんが抱いていたものだ。ブレンドに当たってこだわったのは、「海外原酒を使いながらも静岡蒸溜所らしさが感じられること。KとWの双方の原酒を使用することも最初から決めていました」と中村さんは話す。

とはいえ静岡蒸溜所では、英国産のノンピート麦芽とピーテッド麦芽、地元産をはじめとする国産大麦やビール用麦芽といったタイプの異なる麦芽や酵母、そしてKとWという異なる初留釜を使い分けることで、年間で10種類以上の原酒をつくり分けている。単純に「K」と「W」のモルト原酒といっても複数の種類があるが、今回の「ブレンデッドM」に使われているのはそのうちノンピートの国産大麦麦芽を使用した双方の原酒だ。

「最初から国産大麦の原酒を使おうと考えていたわけではなく、英国産麦芽を使ったものも含めていくつものプロトタイプをつくりました。そのうえで静岡蒸溜所らしさを追求していった結果、行き着いたのがKとWの双方ともに国産大麦の原酒を使ったブレンドだったのです」

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ガイアフローが紡ぐ物語、本章の開幕を飾る「ブレンデッドM」

中村氏がそう開発秘話を明かしてくれた「ブレンデッドM」。

まず感じるのは、爽やかな和の柑橘と、熟したネーブルオレンジがせめぎ合うような華やかなアロマ。さらには独特のエステリーさや、黄色い花を思わせるフローラルな香りが軽やかに立ち上がり、期待感を煽ってくれる。飲めばバニラやチョコレートのようにスイートで、若干の塩気やほのかなピートのアクセントも。ブレンデッドらしくスムースでありながら、味わいに厚みがあり飲み応えも十分。48度という高めの度数や原酒そのものの味わいを重視したノンチルフィルタード製法を含め、随所に静岡蒸溜所らしさを感じさせつつ、どこか和のテイストも薫るブレンデッドだ。

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原料や設備などによって個性的なニューメイクをつくり分けるため、熟成はシンプルにバーボン樽をメインとする。2つの貯蔵庫はすでに一杯となり、現在は第3熟成庫の建設計画も進行中だ。

ちなみに中村さんのおすすめの飲み方は氷なしの水割り。「ストレートから少しずつ水を足していって、自分の好みの味わいになる度数を見つけるのも楽しいですよ」と教えてくれた。

「ブレンデッドM」の初回出荷は5555本。シングルモルトに比べて手に取りやすいとはいうもののその人気は凄まじく、現状ではなかなか入手するのが難しいかもしれない。中村さんによると「今後は夏にかけて出荷本数を増やしていく予定」とのこと。酒販店などで入手できる機会があればもちろん、バーなどで出会うことができたならぜひ気軽に試してもらいたい。

もともと精密部品メーカーを経営するウイスキーファンだった中村さんが自らの蒸留所をつくることを決め、まず起こした行動がウイスキーを輸入販売するインポーターである「ガイアフロー」を立ち上げることだった。そんな夢への第一歩から数えてちょうど10年目にリリースされる、「Meet(出会い)」の意味を持つブレンデッドウイスキー。気になりつつもガイアフロー静岡蒸溜所のウイスキーをまだ飲んだことがないという人はぜひ「ブレンデッドM」を入り口に、ガイアフローが紡ぐ物語を楽しんで欲しい。

連載記事

西田嘉孝

ウイスキージャーナリスト

ウイスキー専門誌『Whisky Galore』 やPenをはじめとするライフスタイル誌、ウェブメディアなどで執筆。2019年からスタートしたTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)では審査員も務める。

西田嘉孝

ウイスキージャーナリスト

ウイスキー専門誌『Whisky Galore』 やPenをはじめとするライフスタイル誌、ウェブメディアなどで執筆。2019年からスタートしたTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)では審査員も務める。