50のテーマで探究した、“店ガイドなし”のラーメン本【書評】

  • 文:今泉愛子

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【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】

『教養としてのラーメン ジャンル、お店の系譜、進化、ビジネス 50の麺論』

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青木 健 著 光文社 ¥1,705
青木健●1969年、埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ラーメン業界を専門に、デザイナー、イラストレーター、漫画家、エッセイストなどとして活躍中。有名ラーメン店のロゴデザインを、これまでに50店舗以上手がける。

マニアとまではいかないが、よく食べる。そんなラーメン好きにうってつけの本が出た。著者の青木健は、これまで50以上のラーメン店のロゴデザインを手がけてきたデザイナー。しかし本書の原点は、ラーメン好きの青木が20年以上食べ歩きながら考察を重ねてきたことにある。ラーメンの歴史やジャンルなどの基礎知識からつくり方、ご当地ネタ、トレンド、ビジネス的側面まで計50ものテーマを独自に分析した力作だ。

青木が何十年も悩み、ようやく解が出せたというテーマ「人がラーメンの麺を噛み切って器に戻す理由」の分析や、素材や調理法でひとくくりにするのが難しい「ラーメンの定義」にも挑戦している。

本書で目指すのは、究極の一杯を見つけるよりも、どの店でも楽しめる自分になること。「スープを飲むのはレンゲがいいのか、それとも器からがいいのか」や「麺を器のどこから抜くかで味が変わる」といった食べ方にも言及し、味に点数を付けることには疑問を呈する。

どんなラーメン店でも楽しめるようになるにはどうすればいいのかを青木に訊いた。

「評論をしないことです。味覚は人、経験、状況によって変わる相対的なもので、どちらが上とする行為がそもそも不毛です。どこかの店に行った自慢をされても、し返さないこと。食事は勝ち負けではないのです」

青木は、店主をロックスターに例えている。調理はライブで、カウンターはアリーナ席だ。店主の“音楽”はその場限りのもの。最大限に楽しむためには、他店と比べていてはじっくり味わえないことがわかる。

ラーメン愛が詰まったこの本を読めば、次に食べる一杯の味わいが確実に変わるだろう。著者が月1回、10年以上観続けているというラーメン映画の金字塔『タンポポ』も観たくなる。

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※この記事はPen 2022年4月号より再編集した記事です。