寒さが深まり、心が温まる映画が見たくなる2月。2月公開予定の映画のなかで、Pen編集部のおすすめを紹介する。
ゴヤの名画『ウェリントン公爵』が盗まれた!
1960年代、ロンドン・ナショナル・ギャラリーから、ゴヤの名画『ウェリントン公爵』が盗まれた。犯人は元特殊部隊員か、それともギャング集団かと予想されるが、盗んだのはなんと妻と息子と年金暮らしをしている初老の男、ケンプトン。警察に届いた脅迫状に記されていたのは「年金受給者の公共放送受信料を無料にせよ!」という交渉条件だった。
この驚くべき実話をもとにした映画が『ゴヤの名画と優しい泥棒』だ。監督は『ノッティングヒルの恋人』などで知られ、昨年この世を去ったロジャー・ミッシェル。温かいジョークを交えながら、小気味よく物語を進めていく作風は本作にも息づいている。社会的弱者のために声を上げ続けた主人公に惹かれた理由について監督は、「世間から非難を浴びているにもかかわらず、彼は永遠の楽観主義者でした。私たちは権威に噛みつき、納得しろと言われたことに疑問を投げかける人々を必要としているのです」と語っている。
自分はレンガのひとつかもしれないけれど、積み重ねていけば家も建てられると信じる活動家の夫。その演説で食べ物が買える? と夫に賛同できない現実的な妻のドロシー。ふたりは、娘を事故で失った悲しい過去をもつ。
「娘のお墓参りにも行けないほど深く傷ついているドロシーは、感情を押し殺しながら娘を失った悲しみを乗り越えていきます。この映画では彼女が冬眠から目覚めるまでの過程も描いているのです」
監督の言葉通り、この映画は名画を借りて社会をよりよくしようとした男の物語であり、娘の死から時計の針が止まったままの妻の心模様を見つめた物語でもある。
ケンプトンは訴える。「私はあなたで、あなたは私」であると。盗難事件に隠された“優しい嘘”が明かされた時、困窮する人々の幸せのために生きた名もなき英雄の願いが、時を超えて響く。
『ゴヤの名画と優しい泥棒』
監督/ロジャー・ミッシェル
出演/ジム・ブロードベント、ヘレン・ミレンほか
2020年 イギリス映画 1時間35分
2月25日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
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中国残留孤児の物語を通して描く、ボーダーを超えていく家族の愛
連絡が途絶えた残留孤児の養女を探すため、中国から日本へとやって来た陳。いまは奈良に暮らす孫娘のような存在のシャオザーと、偶然出会った元警察官の一雄とともに養女探しの旅を始めるが──。河瀨直美とジャ・ジャンクーがエグゼクティブプロデューサーに名を連ね、中国の若き才能が監督を務めた日中合作映画。旅を通して浮き彫りになるのは国境や言葉、血のつながりを超えた揺るぎない“家族”の愛。オフビートな笑いと涙とともに描かれる過去と現在が手を結ぶ物語が、静かに心にしみる。
『再会の奈良』
監督/ポンフェイ
出演/國村隼、ウー・イエンシューほか
2020年 中国・日本合作映画 1時間39分
2月4日よりシネスイッチ銀座ほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
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美学と遊び心を詰め込んだ、ウェス・アンダーソンの世界を堪能
才能あふれる編集者たちが集い、多彩な記事で人気を集めている『フレンチ・ディスパッチ』誌。名物編集長が急逝し、遺言によって廃刊が決定。追悼号として最後の一冊を発行することになる。20世紀、フランスの架空の街を舞台にしたウェス・アンダーソンの最新作。スクープを振り返る形で、ジャンルの違ういくつもの物語が描かれていく。陰影が美しいモノクロの映像、完璧につくり込まれたセットやアニメーションなど、細部にまで監督のこだわりと美学と遊び心が贅沢に詰め込まれている。
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『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』
監督/ウェス・アンダーソン
出演/ベニチオ・デル・トロ、フランシス・マクドーマンドほか
2021年 アメリカ映画 1時間47分
TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
※この記事はPen 2022年3月号「メトロポリタン美術館のすべて」特集より再編集した記事です。