映画『大怪獣のあとしまつ』のあらすじと見どころ。怪獣退治よりも困難な任務を描く空想特撮エンタテインメント

  • 文:上村真徹
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©2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会

奇才・三木聡監督のもとに、日本を代表する特撮のプロフェッショナルが集い製作された『大怪獣のあとしまつ』が2月4日より公開される。巨大怪獣が死んだその後の世界を描く、異色の空想特撮エンタテインメントである本作のあらすじと見どころを紹介する。

【あらすじ】突然死んだ巨大怪獣…死体は誰が後始末する?

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大怪獣の死体処理という前代未聞の難問を前に、政府は右往左往するばかり。©2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会

暴れ狂う大怪獣から逃げ惑う人々の前に、ヒーローが現れて世界を救う――。そんな特撮モノのお決まりの世界でなぜか描かれることがなく、しかし誰もが一度は思ったであろう「倒された怪獣の死体は、誰が、いつどこで、どうやって処理しているのか?」という素朴な疑問。その答えを、真剣かつユーモラスに描いた特撮コメディ『大怪獣のあとしまつ』が、2月4日から劇場公開されている。

日本に出現した全長380mもの大怪獣がある日突然死んだ。政府は科学や戦闘のエキスパートによる首相直属の組織・特務隊に大怪獣の死体を調査させる一方、巨大な死体をどう処理するか検討する。しかし、省庁の間で管轄をなすりつけ合って不毛な議論を繰り返すばかりで、具体的な対策を打ち出せない。とにかく諸外国や国民の不安を解消するために安全宣言を出すが、ある深刻な事態が判明する。河川に横たわる大怪獣の死体は腐敗による体温上昇で徐々に膨張が進み、ガス爆発の危機が迫っているというのだ。

もしも死体が爆発したら、腐敗ガスが漏れ出して周囲が汚染され、国民がパニックに陥ることは必至。そこで、数年前に突然姿を消した特務隊の隊員・帯刀アラタ(山田涼介)の指揮の元、腐敗ガスを処理するミッションが極秘で進められる。一方、アラタの元恋人で元特務隊員でもある雨音ユキノ(土屋太鳳)も、環境大臣の秘書官として死体処理の方法を探る。

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【キャスト&スタッフ】三木聡監督の奇想天外な世界を特撮のプロフェッショナルが映像化

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環境大臣の秘書官ユキノ(右)が元恋人の特務隊員アラタと協力し合う一方、ユキノの夫・正彦(左)も総理秘書官として官邸で事態の解決に奔走する。©2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会

本作のメガホンを握るのは、TVドラマ『時効警察』シリーズで熱狂的なファンを生み出し、『亀は意外と速く泳ぐ』『転々』『俺俺』など唯一無二の世界観の映画を手がけてきた三木聡監督。ゴジラやガメラなどの怪獣ブーム世代でもある三木監督は、かねてから「機会があれば特撮の撮影に挑戦したい」と思っていて、今回ついにその夢が実現した。

そんな三木監督が構想した「怪獣の死体の後片付け」という奇抜な世界を映像化するため、経験豊かな特撮映画のプロフェッショナルたちが集結。『仮面ライダー』シリーズの佛田洋が特撮監督を、『平成ゴジラ』シリーズや『ウルトラマン』シリーズの若狭新一が怪獣造形を担当。さらに『男たちの大和/YAMATO』など話題作のCGを数多く手掛ける野口光一がVFXプロデューサーを務めるという盤石の布陣で制作された。

そしてキャストも特撮スタッフに負けず劣らず豪華。怪獣の死体処理という難題に挑む特務隊員アラタを演じるのは、『燃えよ剣』などで俳優としての存在感を高めている山田涼介。彼を見守る環境大臣秘書官ユキノに土屋太鳳。ユキノの夫でもある総理秘書官に濱田岳。元特務隊員でもある爆破処理のプロにオダギリジョー。事態の対応に追われる内閣総理大臣に西田敏行。さらに脇を固めるのは、菊地凛子、二階堂ふみ、染谷将太、松重豊といった三木監督作に出演経験のある実力派俳優たち。荒唐無稽なシチュエーションにおける非常事態を、シリアスとコメディの絶妙なバランスでそれぞれが演じている。

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【見どころ】怪獣映画の裏側を探究する“大人の空想科学”

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爆破処理のプロ・ブルースは、かつての仲間であるアラタから怪獣の死体処理への協力を求められる。©2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会

怪獣が登場する特撮映画の見どころといえば、凶暴な怪獣との迫力満点なバトル。しかし本作はそうした映画向きな見せ場を一切描かず、これまで特撮映画でスポットを当てられなかった“怪獣が死んだ後の後片付け”をクローズアップ。この今までにない独創的な視点は、『時効警察』シリーズの三木監督の面目躍如と言えよう。また、怪獣の死体をめぐって不毛な議論に明け暮れる政府の迷走も、三木監督独自のユーモア感覚によって滑稽さが際立ち、風刺的なポリティカル・コメディとしても楽しめる。

さらに本作がユニークなのは、こうした変化球な着想だけではない。怪獣の死体は放置しておくと腐敗が進み、さらに腐敗によって体温が上昇すると共に体内にガスが溜まり、ガスによる膨張が進んで限界に達すると死体が爆発してガス汚染が発生する…と、一昔前にベストセラーになった「空想科学読本」さながら特撮の世界を真面目にシミュレート。現実には起きえない非常事態をリアル志向で掘り下げて描く、死体処理ミッションの行方は大きな見どころだ。

また、物語の肝である“物言わぬ主役”大怪獣の存在感も、三木監督ならではの発想があってこそ。「茨城県の牛久大仏から思いついた」という長さ100m以上もの脚が高く上がった状態で死んでいるポーズは馬鹿馬鹿しくもあり、人々の目を惹きつけるタワーやオブジェのよう。全高155m・全長380mという邦画史上最大級のサイズと相まって圧倒され、「こんな大きな死体をどうすれば処理できるのか?」と興味は高まるばかり。

いままでの怪獣映画にはないアプローチを取り入れ、そしていままでの怪獣映画にはなかった面白さが体験できる──。唯一無二の設定を、大の大人たちが具現化した異色の1本だ。

『大怪獣のあとしまつ』

監督/三木聡
出演/山田涼介、土屋太鳳ほか 2022年 日本映画
1時間55分 2月4日(金)より全国ロードショー

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