藤本壮介、真鍋大度ら5人の審査員が「圧倒的な注目度」と評したアートチームとは?【Penクリエイター・アワード2021発表】

  • 写真:齋藤誠一
  • 文:岩崎香央理

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アート、映像、デザイン、ビジネス、建築とテクノロジーまで、多彩な分野から「Penクリエイター・アワード2021」の最終候補にノミネートされたのは36組。最終審査会では、日本を代表するクリエイターやディレクターら錚々たる審査員5名を迎え、編集部と忌憚のない意見を交換。数時間におよぶ審査の末、受賞者7組と審査員賞5組、編集部賞1組が決定した。

※受賞者一覧はこちら

Penクリエイター・アワード2021概要

2017年、Penはその年に最も活躍した表現者をたたえる賞「Penクリエイター・アワード」を創設、さまざまなクリエイターを表彰し、彼らの活動を紹介してきた。5回目となる今年度は「よりよい未来のために」をテーマに、新しい才能の発掘を目指し、審査方法も一新。プロ・アマを問わず一般公募を実施し、さらに編集部のリサーチと審査員からの推薦を加えて選考を行った。選考には完成された作品に限らず卒業制作などのアイデアまで幅広いクリエイションを対象とした。


審査のポイント

以下のうちひとつないし複数において、際立って高く評価されること。
● 革新的なクリエイティビティ
● 社会の問題解決に寄与する
● 世の中にイノベーションを起こす
● 感性を刺激する表現
● 新しい価値観をつくり出す
● SDGs達成に導く
● 日々を楽しくする


応募資格

個人またはグループ、国籍不問(作品のプレゼンテーションは日本語で提出)
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審査員 左から 藤本壮介●建築家。2000年に事務所を設立。国際設計競技で最優秀賞など受賞多数。25年の日本国際博覧会会場デザインプロデューサーに就任。近作に「マルホンまきあーとテラス」など。 川上典李子●ジャーナリスト/21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクター。デザイン誌『AXIS』を経て1994年よりジャーナリストとして活動。2007年より21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクター。国外でのキュレーションにも携わる。 真鍋大度●ライゾマティクス・ファウンダー/アーティスト。2006年、ライゾマティクス設立。身近な現象を捉え直し組み合わせる作品を制作。身体、プログラミング、アナログとデジタルなどの関係性に着目し多彩な領域で活動。 林 千晶●ロフトワーク共同創業者 取締役会長。2000年にロフトワークを起業。ビジネス、コミュニティ分野で年間200件のプロジェクトを手がける。グッドデザイン賞審査委員、経済産業省の委員などを務める。 原野守弘●クリエイティブディレクター。電通、ドリル、PARTYを経て、2012年に株式会社もりを設立。カンヌ国際広告祭金賞ほか受賞多数。21年、『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』を上梓。

「今年輝いた人はもちろん、これからの活躍を期待させるクリエイションをたたえたい。新しい才能を求める人々と受賞者たちとがつながり、共感し合ってものづくりが実現するようなクリエイティビティのハブとしての存在に、このアワードを育てていきたい」

編集長が思いを伝えて幕を開けた審査会。各審査員が建築、広告、メディア・アート、ビジネス、コミュニケーションといった専門的視点を持ち寄り、36組の作品を審議するなか、全員が「圧倒的な注目度。彼らをおいて今年は語れない」と評価したのが、「マメ クロゴウチ」の黒河内真衣子と、現代アートチームの目[mé]だ。

「ここぞという場面で着たのがマメのドレスだったという人は、今年かなりいたはず。それほどに女性を美しく見せてくれる服」と、林千晶がコメント。また、社会現象となるほど物議を醸した作品を発表した目[mé]については、真鍋大度が「やはり今年は彼らが選ばれるべき」と頷いた。「僕は目[mé]の荒神明香さんが学生の時から知っているけど、ついに世の中にも大きく知られる大ヒット作を出したなあと感慨深い」

誰もが知る2021年の顔がこの2組だとしたら、クリエイティブにおける縁の下の力持ちとして、知られざる活躍にスポットライトが当たった立役者もいる。anno labは、エンジニアやデザイナーのチームとして、国内外のプロジェクトに多く関わってきた。真鍋いわく、「いろいろな作品の裏側を支えているけど、なかなか名前が出ない存在。エンジニアとしても優秀ですが、作家活動が今後ますます評価されていくと思います」

知る人ぞ知る存在がもうひとり、東京2020オリンピック・パラリンピックの聖火台の機構設計者として携わった武井祥平だ。12年に東京都現代美術館の公募展でグランプリをとった頃から彼に注目していたと語るのは、ジャーナリストの川上典李子。「nendoがデザインした聖火台は、彼のようなエンジニアが携わってこそ実現できた。アーティストの考えをかたちにすべく力を発揮する技術者を、こうした機会にぜひ推したい」と力を込める。

コロナ禍で世のプロジェクトの多くが停滞を余儀なくされたこの2年、クリエイティブとはなにかを改めて考えさせられる中で、新しい視点や多様性が先を照らしてくれたのも確かだ。東京工業大学でリベラルアーツ教育を実践する伊藤亜紗、アウトサイダー・アートの既成概念を軽々と超えていくヘラルボニー、リサーチ・プロジェクトを通して課題解決を提案するwe+。審査会で彼らの活動を俯瞰することにより、「時代が立体的に浮かび上がってきた。多様性や環境への意識を含めて、深く幅広い議論ができた」と、藤本壮介は総括する。

「よりよい未来のために」というアワードのテーマが自らのデザイン・コンセプトと一致したため、一般公募枠からエントリーしたと、のちに語ってくれたwe+。彼らの受賞は、今回のアワードに応募してくれたクリエイター志望の学生たちにとっても、指針となるのではないか。

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審査の様子。一般応募からは卒業制作の作品などを含め65作品が集まった。

5名の審査員と編集部の総意をもって決定した受賞者7組。さらに、惜しくも受賞とはならなかったが活動の意義やクオリティに一定の評価が集まった作品を対象に、審査員と編集部がそれぞれの観点から個人賞を授与することになった。

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5名の審査員それぞれが、目を留めたクリエイター

デザインの最前線に立ち続ける川上が選んだのは、一見、デザインとは異なるベクトルでものづくりを追求する、エンジニアの寺嶋瑞仁。現状をしっかり受けとめながら突破口を狙う情熱とビジョンに、デザインが担うべき世の中への問いかけを感じると川上は言う。「地に足をつけ、開発を継続している。農業の未来を真剣に考える若者たちを応援したいですね」

東日本大震災後に被災地で子どもたちと絵を描き、10年目の今年、彼らとの約束を果たす活動が注目された、画家の蟹江杏。自身も被災地での復興プロジェクトを手がけ、21年に石巻に竣工した複合施設の設計を手がけた藤本は、「10年という長い期間、創作によって被災地に寄り添う姿勢に共感する」と、蟹江を評価した。

ビジネス・デザインを専門とする林は、千葉県の薬草園跡地を再生し、地元の植物を使って酒づくりをする江口宏志を推した。「これからの人間社会に必要な、広い意味でのデザインを体現している。お金をかけずに資源を循環させて素敵なものをつくる、その仕組みがジェネレーションZ的だなと思います」

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林は「全体的に女性の候補が少ない」と、候補作への目配りの課題も指摘。

映像とデジタルの最前線から若手をプッシュするのは真鍋だ。「YOSHIROTTENは、王道よりもストリートカルチャー寄り。アカデミックでは評価されにくいけど、地道に活動し続けている。コレクティブではなく、作家として個人の名前で出ている姿勢も応援したい」

広告業界でクリエイティブに携わる原野守弘は、「目立ってなんぼのアワードで、今年は音楽や芸能界からの受賞がなかったのは少し寂しい」と語る。その上で、「広告業界において、真摯に企画をつくり込んでいる」と、雑誌『広告』の編集長・小野直紀を個人賞に挙げた。「サラリーマンだけど変わったことをやっていい、そんな人が表彰される世の中でありたいという気持ちも込めて」

また、編集部は一般公募枠から陶芸家の奈良祐希を選出した。茶陶の名家に生まれ、陶芸家でありながら建築分野でも活躍するというユニークな存在の奈良。今年は京都の佳水園での展示や、ニコライ・バーグマンとのコラボレーションを行うなど、各界から注目されているひとりである。

今回のクリエイター・アワードで、改めてスポットライトが当たることとなった受賞者たち。彼らのこれからの活躍を楽しみにしつつ、今後もこのアワードで知られざる才能の持ち主と出合えることを期待したい。

【受賞者】
黒河内真衣子(ファッションデザイナー)
目 [mé](現代アーティスト)
武井祥平(エンジニア)
anno lab(クリエイティブ・ラボ)
伊藤亜紗(美学者)
ヘラルボニー(福祉実験ユニット)
we+(デザイナー)


【審査員特別賞】
江口宏志(蒸留家)
小野直紀(クリエイティブディレクター)
ヨシロットン(グラフィックデザイナー)
奈良祐希(陶芸家 建築家)
蟹江 杏(アーティスト)
寺嶋瑞仁(エンジニア)

※詳細はこちら

※この記事はPen 2022年1月号「CREATOR AWARDS 2021」特集より再編集した記事です。