映画『ラストナイト・イン・ソーホー』は、エドガー・ライトのセンス全開なタイムリープ・ホラー!

  • 文:上村真徹

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洋画・邦画ともに注目作品の多い12月。鬼才エドガー・ライト監督の最新作『ラストナイト・イン・ソーホー』の見どころやあらすじを紹介する。

【あらすじ】現代と1960年代──女性2人の夢と恐怖がシンクロする

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引っ込み思案なエロイーズは、夢で出会った60年代の魅惑的な女性サンディとシンクロし、影響を受けていく。© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホットファズ 俺たちスーパーポリスメン!』『ベイビー・ドライバー』など、ありとあらゆるジャンルの作品にありったけの映画愛とサブカル愛を注ぎ、見る者を惹きつけてやまないイギリス出身の映画監督エドガー・ライト。そんな彼が“タイムリープ”をモチーフに描くサイコホラー『ラストナイト・イン・ソーホー』が、12月10日から劇場公開される。

ファッション・デザイナーになる夢を叶えるため、ロンドンのソーホーに引っ越してデザイン専門学校に入学したエロイーズ。ある能力のせいで周囲に馴染めずにいた彼女は学生寮を飛び出し、古い屋敷の一室を借りて一人暮らしを始めることに。そしてその夜、憧れである1960年代のロンドンの夢を見たエロイーズは、歌手志望のサンディと出会い、自信と才能に満ちあふれた彼女に魅了される。そしていつの間にか肉体も感覚もサンディとシンクロし、その体験が現実の生活に好影響を及ぼしていく。しかし、タイムリープを繰り返していたある日、エロイーズはサンディの身に降りかかる悲劇を目撃してしまう。さらに、現実世界では謎の亡霊が現れるようになり、エロイーズの精神を蝕んでいく。

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【キャスト】人気・実力共に世代屈指の若手女優が注目の競演

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エロイーズ役のトーマシン・マッケンジー(右)とサンディ役のアニャ・テイラー=ジョイ(左)。© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

現代と60年代──2つの時代のロンドンでそれぞれ夢を追う女性たちを主人公とする本作で、ライトが最もにこだわったのは主役2人のキャスティングだ。ファッション・デザイナーを夢見る引っ込み思案な現代女性エロイーズ役に抜擢されたのは、『ジョジョ・ラビット』で壁の中に隠れるユダヤ人少女を演じて一躍注目されたトーマシン・マッケンジー。マッケンジーはエロイーズと同じく18歳でロンドンに出てきた経歴を持ち、ライトは「エロイーズの体験を綴る映画で、彼女と同じ体験をしたというリアリティには説得力がある。トーマシンの演技のおかげで、まるで実体験のような実感が出た」とキャスティングの妙を語っている。

一方、60年代ソーホーのクラブで成功を追い求めるサンディを演じるのは、『スプリット』『クイーンズ・ギャンビット』など作品ごとに存在感を増している旬の若手女優アニャ・テイラー=ジョイ。2015年にサンダンス映画祭の審査員を務めた時に『ウィッチ』で彼女を見たというライトは、「彼女こそエロイーズだ」と確信したが、その後の彼女の出演作を見るうちに「彼女はもうエロイーズを演じきってしまったのではないか? サンディの方がふさわしいのではないか?」と感じるようになった。ライトの直感通り、脚本を読んだアニャもサンディ役を熱望したそうだ。

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【見どころ】華やかな60年代ロンドンの光と影

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サンディはソーホー界隈に顔が効くジャックに取り入って夢に近づくが、やがて厳しい現実に直面していく。© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

“エドガー・ライトらしさ”という観点から本作を語るなら、やはり「60年代ロンドン」はキーワードとして外せない。ロンドンと60年代を愛するライトは、ペトゥラ・クラークの「恋のダウンタウン」やピーター&ゴードンの「愛なき世界」を筆頭に、ザ・フーなど60年代の名曲を全編に使用。ヒロインたちのファッションも色鮮やかでポップ&スタイリッシュに彩り、スウィンギング・ロンドン全盛の60年代ポップカルチャーを存分にオマージュ。また、自身も仕事や社交の場として長年過ごしてきた思い入れの強いソーホー地区も、現存する歴史的な場所を用いながら60年代の雰囲気をリアルに再現。見ているだけで、まるで同じ時代を生きているような感覚へと誘われる。

しかしその一方、ライトはロンドンに対して「残酷にも美しくもなる街だ」と複雑な感情を抱いている。「活気あふれる60年代にタイムトラベルできたら最高かもしれない。しかしそこには『でも本当に最高かな?』という頭から離れない疑問がある。特に女性の視点で見るとね。この映画の主題は『バラ色の光景の裏に何があるか』。そしてそれがいつ現れるかなんだ」。そうしたライトの想いが、活気に満ちたソーホーの奥に待ち受けている陰鬱な何かを浮き彫りとし、夢と恐怖がシンクロする魅惑的なサイコホラーの色合いを深めている。その演出として、ジャッロ(イタリア製ミステリー)映画やネオン・ホラー、またダリオ・アルジェントやブライアン・デ・パルマといった、往年のミステリーやホラー映画へのオマージュを散りばめるライトのセンスもさすがだ。

60年代スウィンギング・ロンドンが醸し出すポップなムードとは裏腹に、フィルモグラフィ史上、最もダークでシリアス──。エドガー・ライトの新境地と言うべき“夢”の世界へ足を踏み入れたい。

『ラストナイト・イン・ソーホー』

監督/エドガー・ライト
出演/トーマシン・マッケンジー、アニャ・テイラー=ジョイほか 2021年 イギリス映画
1時間58分 12月10日(金)TOHOシネマズ日比谷ほかにて公開

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