閉幕間近!イームズの孫・デミトリオスが手がけたイームズ展を見逃すな

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    第二次世界大戦を前後する1940年代から、数々の名作家具や映像作品、展示構成を手がけたデザイナー夫妻、チャールズ&レイ・イームズ。二人の足跡はアメリカやデザインの現代史に留まらず、いまを生きる人々の生活に大きな影響を与え続けている。現在、伊勢丹新宿店本館2階の「イセタン ザ・スペース」で開催されている特別展『Eames Office: 80 Years of Design』は、二人が設立したイームズ・オフィスの設立80周年を記念したもので、会期は2022年1月5日まで。閉幕が近づいている。

    展示の企画を手がけたのは二人の孫であり、現在のイームズ・オフィス代表のイームズ・デミトリオス。会場には、戦時中に開発された初期の名作「レッグ・スプリント」のオリジナルや展覧会のオリジナルポスターなどが並ぶ。そのなかで一際目を引くのが、プライウッドスカルプチャーの存在だ。これは「これまでに販売したことのない、私たちがずっと実現したかったもの」だとデミトリオスは説明する。「レッグ・スプリント」をデザインした1940年代初期にデザインされたもので、量産されることなく試作品に終わった彫刻作品。ニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されており、展示で目にしたことがある人もいることだろう。今回は新たな挑戦として再現に取り組み、スペシャルエディションとして12点のみを販売。既に売り切れとなっている可能性があるが、間近で見ることができる。

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    これまで販売されたことのない、プライウッドスカルプチャーのオブジェ。

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    「再現には非常に苦労しました(笑)。これが、チャールズとレイにとって大きな友情で結ばれた日本で初めて公開されることを嬉しく思います。私はプライウッドスカルプチャーを、チャールズとレイのキャリアにおける重要なターニングポイントを示す作品だと考えています。彼らはメーカーが開発した技術に頼るのではなく、自らが技術を開発するというビジョンをもっていました。そしてこのスカルプチャーは、それが実現した瞬間を示すものです。彼らはデザイナーとして、素材に魔法をかけたいのなら自分たちの手でそれを実現しなければならないと考えていました。きれいな絵を描いて、デザインを形にしてほしいと言っているだけではダメだと理解していたのです。チャールズとレイがプライウッドの限界を超え、その創造すべてに責任を負う姿勢をもったことは後進のデザイナーにも大きな影響を与えました」

    デミトリオスはそれが、デザインにおいて非常に重要な視点をもたらしたと熱く語る。
    「チャールズとレイは、デザインという行為によって自らが貢献できる問題に焦点を当て、物事をより良くし、世界をより良くできることを証明しました。このプライウッドスカルプチャーには、その要素すべてが詰まっています。これを生活のなかに取り込むことで二人が築いた歴史の瞬間と交わることになるといっていいでしょう。それが私たちが達成したかったことなのです」

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    実現しなかったプロジェクトの1つである、イームズモジュラーハウス(1951年)のオブジェ。

    また会場には2つの住宅模型『イームズハウス』『モジュラーハウス』に加え、かつて『イームズハウス』の庭にあったユーカリから制作された「グローブ」とのスケートボード、イームズのロゴが入った「リーボック」のスニーカー、パズルゲームで知られるドイツのメーカー「ラベンスバーガー」から発売されたばかりのイームズを題材としたパズルなども並ぶ。

    「スケートボードに使われるのは、私たち家族が祖父母の家へ遊びに行くたびに見ていたユーカリから作られています。イームズハウスを長期保全するための改修工事で伐採せねばならなくなりましたが、木という素材は少しも無駄になりません。今回はみなさんにスケートボードを通じ、木の素晴らしさを感じていただけるのではないでしょうか。またチャールズとレイのことを知らなかった人々に興味をもってもらう新しい方法でもあります。なにより二人には遊び心があったことを知ってほしいのです。チャールズとレイはパフォーマンスが大好きで、サーカスが大好きでした。パフォーマーが観客を楽しませるという感覚を大切にしていました」

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    ドイツの玩具メーカー、ラベンスバーガーとのコラボレーションアイテム。

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    タイムレスな魅力をもつイームズ夫妻のデザイン。パンデミックの影響でライフスタイルや価値観が大きく変化しても、その魅力が人々の心に響き続けるのはなぜだろうか。
    「それはチャールズとレイがゲスト・ホスト・リレーションシップを信じていたからでしょう。彼らはデザイナーの役割を、ゲストのニーズを予測する良いホストだと言っていました。つまりデザインの中心に人間を置くということです。当時もいまも、私たちが必要とするのは、人に焦点を当てたデザインです。私たちはみな大きく異なった存在ですが、それでも他の動物よりも人間としての共通点をたくさん持っています。少しユーモラスに聞こえるでしょうが、彼らが本当に目指したのは普遍的でユニバーサルな存在です。このパンデミックによって、みなさんは自分に合ったもの、自分の生活を快適にしてくれるものをより欲したことでしょう。興味深いことに、世界中のあらゆる文化においてホストが責任をもってゲストをもてなすという共通項があります。なかでも日本はそれが色濃い国ですね。この考えをデザインの中心に据えれば、私たちは多くの人々や文化への共通点を見出すことができるのです。私たちはそれを信じているのです」

    人間を見つめ、愛したチャールズとレイ・イームズ。彼らが手がけた家具の多くが半世紀を超えて愛されるのは、そこに普遍性が宿るからだ。その普遍性を生み出した視点を、いまもう一度知ることのできる展示をぜひ見逃さないでほしい。

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