豊かな海の表情を湛える、ブレゲ「マリーン」の世界

  • 写真:宇田川淳
  • 文: 並木浩一
  • スタイリング:石川英治(T.R.S)
  • イラスト:竹田嘉文

Share:

マリーン クロノグラフ 5527/自動巻き、チタンケース&ブレスレット、ケース径42.3㎜、パワーリザーブ約48時間、シースルーバック、100m防水。¥2,871,000

受け継いだ伝統に芸術性を重ね、海の魅力を表現する唯一無二の腕時計

ブレゲの「マリーン」は、海にまつわる機能性を有しながらも、伝統に紐づく美しき意匠や魅力を重ねた、稀有な腕時計だ。その歴史は、フランス海軍の命運を支えた創業者に遡る。

TKS-02_P2-3sub_ブレゲ肖像画(1.35MB).jpg
アブラアン-ルイ・ブレゲ●ブレゲ創始者。1747年、スイス生まれ。フランス革命前後のパリで活躍し、国王、王妃、皇帝ナポレオンらも顧客に。トゥールビヨンなど数々の発明を生んだ、時計史の偉人。

「マリーン」は、ブレゲが紡いできた伝統を受け継ぎながらも、現代性を有する個性的なコレクションだ。その名の通り海の時計であり、象徴的な波のギヨシェ模様が文字盤に彫り込まれたゴールドモデルから、防水性能にもこだわったスポーティなクロノグラフ、アラームウォッチや複雑時計までも揃う。秒針カウンターの図形は海洋上で使われる国際信号旗の中で、ブレゲの頭文字でもあるB旗をかたどったもの。海藻を模して宝石をセットしたジュエリーウォッチすら存在するほどで、マリーンと海との関係性は深い。

文字盤のカラーには深いブルーや、波頭のようなシルバー、夜の海を想起させるスレートグレーなどが用いられ、多彩な視点で海の奥深さを表現している。魅力あふれるそれら腕時計のルーツにあるのが、創業者であるアブラアン–ルイ・ブレゲの存在だ。この天才時計師は、海の時計を司る最高地位に就いた偉人でもあった。

TKS-03_20210909_Pen18258-4.jpg
右:マリーン クロノグラフ 5527/自動巻き、18KRGケース、ケース径42.3mm、パワーリザーブ約48時間、シースルーバック、レザーストラップ、100m防水。¥4,026,000 左:マリーン 5517/自動巻き、チタンケース、ケース径40mm、パワーリザーブ約55時間、シースルーバック、ラバーストラップ、100m防水。¥2,068,000

創業者のブレゲがフランス国王ルイ16世妃、マリー・アントワネットに初めて謁見したのは、まだ気鋭の時計師であった1782年のことだ。王も王妃もブレゲに発注した懐中時計を気に入り、終生の顧客となった。その後に勃発した革命によりフランスは激動するが、ブレゲは新たに権力の座に就いた皇帝ナポレオンとその親族、王政復古後の最高権力者たちからも実力を認められた。そのブレゲが熱望し、1815年に国王ルイ18世から任命された至高の地位が「王国海軍時計師」である。

航海術の要であり、あらゆる時計に優越して正確さを求められるマリン・クロノメーター製造の責任を一身に負うその職は、同時代における唯一にして最高の時計師を意味していた。現代のマリーンは、ブレゲの手がけた誇り高きマリン・クロノメーターが、腕時計に化身した末裔ともいえる。1990年にスタートしたコレクションは、2004年にマイナーチェンジ、18年に傑作との評判が高い“3代目”の現行シリーズに移行した。ケース素材はローズゴールド、ホワイトゴールドに加え、軽量かつ頑強なチタンも選択が可能になっている。

腕時計として進化しただけではなく、マリーンは海の表現者としての意義を再構築する。目指したのは、当時の航海計器としては技術的な頂点を極めた創業者の偉業に、美学的、芸術的な魅力を重ねること。次のページからは、さまざまな芸術家たちが文学や絵画、映像作品で見せた海の表現と比較しながら、マリーンはどう海を描いてきたのか、その芸術性を見ていこう。

---fadeinPager---

~Literature 文学~

宗左近が詩に留めた、繰り返す「永遠の波」

P2_TKS-04_20210917_Pen19667.jpg

詩人・宗左近の旺盛な執筆活動の中でも、海や波をモチーフとした詩篇は特に名高い。「波うたぬ波に波うたせ」「波うたぬ波の波のなか」といった魅力的な詩句のリズム。ほたる波、指輪波、なみだ波、うろこ波、ちぢれ波、あられ波、はがれ波といった独創的な語用は、非凡な詩人の感性が眺めた海の日々をうかがわせる。

宗の代表的な作品といえば「海」だろう。「波 波 波 波/ ヅヅアァル ヅワァル/ 送りながら 送られながら」で始まる、独特の擬態語を交えた詩をもとに、作曲家・三善晃は合唱組曲を書き上げた。総演奏時間10分におよぶ「混声合唱と2台のピアノのための『交聲詩 海』」は、日本の合唱作品100選に選ばれた名曲だ。

P3_TKS-05_20210909_Pen18361-1-1.jpg
マリーン アラーム ミュージカル 5547/自動巻き、18KRGケース、ケース径40㎜、パワーリザーブ約45時間、シースルーバック、レザーストラップ、50m防水。¥4,752,000

一方で、「マリーン」に描かれた波はどうだろう? 文字盤上に手作業で彫られたギヨシェは、大小の波が互いに干渉し合う複雑な連続パターンからなる。ギヨシェの名手ブレゲのモデルの中でも出色の技といえるだろう。線のみで永遠に繰り返す波を表現し、海への慕情をかき立てるマリーン。それは芸術性と卓越した技術をもって海を再現した逸品であり、道具として求められる腕時計の役割をはるかに凌駕して、見る者を惹きつけるのだ。

差DMA-2_宗左近.jpg

宗 左近●1919年生まれ。詩人。1950年代から2006年に没するまで、40冊以上の詩集を刊行。1995年、詩集『藤の花』で第10回詩歌文学館賞受賞。仏文学者、翻訳家、作詞家、大学教授としても活躍。

---fadeinPager---

~Movie 映画~

フェリーニが脳裏に映した、海の人工美

P5_TKS-06_aflo_170691097.jpg
photo: Collection Christophel / Aflo

フェデリコ・フェリーニの監督作品には、何度となく海が登場する。しかしその海は、初期の作品と円熟期とではまったく異なっている。フェリーニはある時からロケをやめて、海のシーンをすべてお気に入りのチネチッタのセット内で撮影することにした。それも樹脂フィルムをフロアに広げてファンの風でそよがせ、海とすることに決めてしまったのである。

映画『カサノバ』の主人公がボートで漕ぎ出すのも、『そして船は行く』で沈没する船からサイ(上の写真)とともに逃げ出すのも、そういった人工的な海である。誰の目にも明らかなつくりものはフェリーニ映画の象徴的な装置だった。舞台上での演出と同様に、その人工物を海と見なすことで、観客はフェリーニの人工美=映像美の世界観に、居心地よく取り込まれることができたのである。

P7_TKS-07_20210909_Pen18392-3.jpg
マリーン クロノグラフ 5527/自動巻き、18KWGケース、ケース径42.3mm、パワーリザーブ約48時間、シースルーバック、ラバーストラップ、100m防水。¥4,026,000

「マリーン」にギヨシェで表現された海も、高度に抽象化・様式化された人工の美である。盛り上がっては角をつくって折り返す曲線の交錯でのみ描かれたそれは、間違いなく波であり、無限の海につながっている。

腕時計と映画という違いはあれど、ときに我々の脳裏に映るのは、眼に見えているそれとは異なる。海を形象化し閉じ込めたマリーンは、想像力という無限の可能性を解放する。

差DMA-1_フェデリコ・フェリーニ.jpg

フェデリコ・フェリーニ●1920年、イタリア生まれ。映画監督。『道』(54年)でヴェネツィア映画祭銀獅子賞・アカデミー外国語映画賞、『甘い生活』(60年)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールほか受賞多数。93年没。

---fadeinPager---

~Painting 絵画~

クールベが描いた、猛々しい現実の海

P7_TKS-08_68010.jpg
© National Galleries of Scotland / Bridgeman / amanaimages

ギュスターヴ・クールベはノルマンディ地方の海を描いた一連の作品で名高い、写実主義の画家。当時の主流のロマン主義に背を向け、ありのままの自然と対峙した“海の風景画”の評価は年々、高まっている。日本でも「クールベと海」展が国内3つの美術館を巡回し、海を舞台とした画業が広く知られた。ペインティングナイフで描かれた波濤の表現のダイナミックさは観る者を魅了する。

そのクールベは、意外にも海との縁が薄いフランス東部山岳地帯の出身。現在、クールベ美術館となっている生家のある町・オルナンはスイス国境に近く、アブラアン–ルイ・ブレゲの故郷ヌーシャテルとは直線距離で50km強しか離れていない。クールベが初めて海を見たのは22歳だといい、ジュラ山脈の麓にある湖畔地方に生まれたブレゲが望んだのは、フランス王立海軍の時計師の職だった。ともに海への強い憧憬が創作活動の源泉にあったのかもしれない。

P8_TKS-09_20210909_Pen18399-1.jpg
マリーン 5517/自動巻き、18KRGケース、ケース径40㎜、パワーリザーブ約55時間、シースルーバック、レザーストラップ、100m防水。¥3,410,000

普段は穏やかなさざ波の水面を見せるスイスの湖沼と大西洋だが、その違いは時に猛々しく上がる白波のダイナミズムだ。約200年前、王立海軍はブレゲのマリン・クロノメーターを信頼し、荒波を越えた。いまも海洋への畏敬をもって、「マリーン」はその波を描くのである。

差DMA-3_クルーべ.jpg

ギュスターヴ・クールベ●1819年、フランス生まれ。画家。写実主義の先駆者として知られる。リアルな裸体画や自画像、人物画を描く一方で、大西洋を題材とした風景画の評価も高い。77年、スイスで死去。

---fadeinPager---

素材や機能の特性で、海の表情を描き分ける

2色のゴールド、チタンからなるケースの素材、端正な3針とクロノグラフ、アラームなどの機能……。これらがもたらす多彩な表現も「マリーン」の魅力だ。

マリーン 5517

マリーン5517_ゴールド.jpg

ローズゴールドのケースにラバーストラップを合わせた、ラグジュアリーでスポーティなクロノグラフ。マリーンのゴールド素材のモデルでは定番仕様となる波モチーフの手彫りギヨシェが施された文字盤は、ローズゴールド×スレートグレイで彩られ、新鮮な印象に仕上がった。¥3,410,000

マリーン 5517

マリーン5517_青.jpg

ホワイトゴールドケースに同素材のブレスレットを合わせた、街使いにも向いたモデル。3針の場合も、ゴールドモデルだけは波モチーフの手彫りギヨシェが文字盤に刻まれ、チタンのモデルとの違いを表現した。ケースの厚みは11.5㎜と、クロノグラフよりスリムなシルエット。¥5,841,000

マリーン 5517

マリーン5517_グレー.jpg

ソリッドな外見ながら、意表をつくほど軽量なチタン製のケース&ブレスレットモデル。潮風や腐食に対する耐性が高いチタンは、海洋がテーマの時計にふさわしく、アレルギーフリーでもある。手作業でサンバースト仕上げを施したダイヤルには、ロゴを起点に繊細なラインが広がる。¥2,376,000

マリーン クロノグラフ 5527

マリーングロノグラフ5527_青.jpg

2021年の新作として初登場した、ブルー文字盤のクロノグラフ。ブレゲの全ラインアップの中でも、チタンケースのフライバック・クロノグラフはパイロットウォッチの「タイプ X X I」と、この「マリーン クロノグラフ 5527」しか存在しない。ブルーのサンバースト文字盤が映える。¥2,563,000

マリーン クロノグラフ 5527

マリーンクロノグラフ5527_ゴールド.jpg

ゴールドモデルに手作業で施される華麗なギヨシェの波模様は、マリーンのコレクションのコンセプトを具現化するために特別にデザインされたもので、第3世代から使われ始めた。スレートグレイで彩られた文字盤が、深みのあるローズゴールドと美しいコントラストを描く。¥4,026,000

マリーン アラーム ミュージカル 5547

マリーンアラームミュージカル5547_黒.jpg

美しい音色を響かせるアラームモデル。ふたつのサブダイヤルは第2時間帯表示とアラーム設定の専用ダイヤル。視覚での確認と操作が直感的に行える。アラームのパワーリザーブ・インジケーターも装備。チタンケースはアラーム機構と相性がよくハイボリュームで澄んだ音が楽しめる。¥3,410,000

マリーン アラーム ミュージカル 5547

マリーンアラームミュージカル5547_ゴールド.jpg

ローズゴールドが艶やかな、アラームモデルのブレスレット仕様。銀色に仕上げたゴールド素材のダイヤルは、波立つ海を船の舷窓から見るかのように、波模様のギヨシェがサブダイヤルの中にまで越境していく趣向。ギヨシェ彫り職人の熟達の技が、海の魅力を視覚的に引き立てる。¥7,183,000

P12_TKS-17_20210909_Pen18345-1-7.jpg
マリーン アラーム ミュージカル 5547/自動巻き、チタンケース、ケース径40mm、パワーリザーブ約45時間、シースルーバック、レザーストラップ、50m防水。¥3,410,000

問い合わせ先/ブレゲ ブティック銀座 TEL:03-6254-7211
ブレゲ ブティック伊勢丹新宿店 TEL:03-3352-1111(大代表)
ブレゲ ブティック日本橋三越本店 TEL:03-6665-0143
ブレゲ ブティック阪急うめだ本店 TEL:06-6313-7863

https://www.breguet.com/jp
Instagram @montresbreguet
Twitter @MontresBreguet