ボーダレスな鬼才ジョーダン・ラカイが放つ、時代とリンクしたネオ・ソウル

  • 文:栗本 斉

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1992年、ニュージーランド生まれ。オーストラリアで育ち、現在はロンドンを拠点にマルチ・プレイヤーとして活動。3枚目のアルバム『Origin』は多くのメディアでアルバム・オブ・ザ・イヤーに選出される。本作は4枚目。© Joseph Bishop

【Penが選んだ、今月の音楽】

国境やジャンル。これらのキーワードは音楽を言葉で説明する時にたびたび使うのだが、ジョーダン・ラカイのようなアーティストが登場するようになってからはかなり困っている。ニュージーランドに生まれてオーストラリアで育ち、現在はイギリス在住という彼のアイデンティティはどこなのか。ポップ、ソウル、ヒップホップ、アンビエントなどさまざまな要素がミックスされた彼の音楽は、どういうカテゴリで紹介すればいいのか。いずれもなかなかの難問だ。

逆に言えば、こういった複雑なバックグラウンドをもっているからこそ、素晴らしい音楽をクリエイトしているとも言い換えられる。彼の周辺にいるトム・ミッシュやアルファ・ミストなども同じような印象があるし、実際UKに限らず日本を含めた世界中に、連鎖するかのごとくボーダレスなミュージシャンが生まれている。

2019年発表の前作『Origin』で一躍注目を集めた鬼才の待望の新作は、さらにミクスチャーの度合いを深めた一筋縄では行かない力作だ。以前より深みのある音づくりが特徴だったが、ここではさらにその個性を際立たせており、非常に内省的な雰囲気を漂わせている。生演奏とエレクトロ・サウンドを絶妙にミックスし、ネオ・ソウルといわれることの多いR&Bテイストのソングライティングは健在。ヒップホップ風のビートの使い方やジャズ的要素の強い楽器の配置なども相変わらず独特で、いずれも穏やかなヴォーカルに溶け込んでいき、耳にとても優しい。

サウンド面におけるナイーブな印象の背景には、家族の問題、BLM運動、コロナ禍といった社会の風景がリンクしているという。いまを生きる辛さや難しさは、音楽性に直結するのも当然だろう。もはや国籍やジャンルは不問。誰もが直感的に共感できる時代の音楽が、ボーダレスな環境と稀有な才能から生まれている。

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