季節が夏から秋へと移り変わるいま。飲みたくなる日本酒も、少しずつ様変わりしていく。
うだるほど気温が高い日は、飲んで気分がスカッとする、軽くてポップな酒をひたすら求めていた。でも、少しずつ空気が冷たくなってくると、しっかり腰を据え、落ち着いてちびりちびりと味わいたくなる日本酒が恋しい。
1.五味のバランスを絶妙に備えた、透明感が見事な純米大吟醸
まず、この酒から始めよう。少し冷やした「東北泉 瑠璃色の海」は、静かに味わいたくなる秋夜の沈黙が似合う純米大吟醸だ。
晴れわたる秋の澄んだ空のように、一点の曇りもない透明感があり、口当たりはスムーズで、余韻は淡く儚い。なんとも控えめな酒質だが、緻密な五味のバランスは見事で、飲むたびに感激してため息をこぼしてしまう。
2.冷酒や常温から燗酒までと、幅広い温度帯で楽しめる一本
アンデスメロンを思わせる甘い香りがほのかに漂う「志太泉(しだいずみ)」は、心をゆるやかにさせてくれる日本酒。やわらかくとろみのあるコンパクトな旨味が優しい。脂の乗った魚の刺身や焼き魚と合わせると、酒の旨味がさらに膨らみ、口の中はまったりと幸せになる。
3.美しく歳を重ねた熟成酒に宿る、なめらかな舌触りの余韻が秀逸
「不老泉」の枯れた匂いは、秋の夜長に心地よい。なめらかな旨味は艶があり、後味に少し残る蜜っぽい甘みにも酔いしれてしまう。煮炊きしたキノコ料理とともに、深まる秋に身を寄せながら、しみじみ飲みたい日本酒である。
汲めど尽きない泉のように、飲めば飲むほど旨みを感じる“泉”がつく3本。謎かけみたいな例えだが、それは本当です。
●今月の選酒人:山内聖子
呑む文筆家・唎酒師。日本酒歴は18年以上。日々呑んで全国の酒蔵や酒場を取材し、雑誌『dancyu』や『散歩の達人』など数々の媒体で執筆。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)。