ちびりちびりと初秋に味わう、 「旬の肴が旨くなる」日本酒3選

  • 文:山内聖子

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季節が夏から秋へと移り変わるいま。飲みたくなる日本酒も、少しずつ様変わりしていく。

うだるほど気温が高い日は、飲んで気分がスカッとする、軽くてポップな酒をひたすら求めていた。でも、少しずつ空気が冷たくなってくると、しっかり腰を据え、落ち着いてちびりちびりと味わいたくなる日本酒が恋しい。

1.五味のバランスを絶妙に備えた、透明感が見事な純米大吟醸

まず、この酒から始めよう。少し冷やした「東北泉 瑠璃色の海」は、静かに味わいたくなる秋夜の沈黙が似合う純米大吟醸だ。

晴れわたる秋の澄んだ空のように、一点の曇りもない透明感があり、口当たりはスムーズで、余韻は淡く儚い。なんとも控えめな酒質だが、緻密な五味のバランスは見事で、飲むたびに感激してため息をこぼしてしまう。

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東北泉 瑠璃色の海 純米大吟醸。ボトルは、地元・吹浦の海の色を彷彿させる、ブルーのビジュアルが美しい。岡山県産の雄町米100%と山形酵母を使い、丹念につくり上げた名酒。この透明感は一度飲む価値あり。720㎖ ¥2,860/高橋酒造店 www.touhokuizumi.co.jp

2.冷酒や常温から燗酒までと、幅広い温度帯で楽しめる一本

アンデスメロンを思わせる甘い香りがほのかに漂う「志太泉(しだいずみ)」は、心をゆるやかにさせてくれる日本酒。やわらかくとろみのあるコンパクトな旨味が優しい。脂の乗った魚の刺身や焼き魚と合わせると、酒の旨味がさらに膨らみ、口の中はまったりと幸せになる。

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志太泉 純米酒。兵庫県産の山田錦と静岡酵母“NEW5”を使用。やわらかい旨味が持ち味だが、キレのいい後口も特筆したい。冷酒から徐々に温度を上げて常温、そして燗酒など、幅広い温度帯で楽しめる。720㎖ ¥1,320/志太泉酒造 https://shidaizumi.com

3.美しく歳を重ねた熟成酒に宿る、なめらかな舌触りの余韻が秀逸

「不老泉」の枯れた匂いは、秋の夜長に心地よい。なめらかな旨味は艶があり、後味に少し残る蜜っぽい甘みにも酔いしれてしまう。煮炊きしたキノコ料理とともに、深まる秋に身を寄せながら、しみじみ飲みたい日本酒である。

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不老泉 山廃 特別純米酒 参年熟成。いまや希少な手法、自然の重力のみを用いる“木槽天秤しぼり”でていねいに搾り、3年以上じっくり熟成させた酒。艶やかな透明感もあり、口の中で溶ける甘みの余韻が美しい。常温か燗酒で。720㎖ ¥1,500/上原酒造 http://furosen.com

汲めど尽きない泉のように、飲めば飲むほど旨みを感じる“泉”がつく3本。謎かけみたいな例えだが、それは本当です。

●今月の選酒人:山内聖子

呑む文筆家・唎酒師。日本酒歴は18年以上。日々呑んで全国の酒蔵や酒場を取材し、雑誌『dancyu』や『散歩の達人』など数々の媒体で執筆。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)。

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