絵画表現の新たな地平を切り開く。ANOMALYで開催中の『今津景個展 Mapping the Land/Body/Stories of its Past』

  • 文:はろるど

Share:

『Memories of the Land / Body』 2020年 オランダの地質学者フランツ・ウィルヘルム・ユングフンの描いたジャワ島の火山グヌン・スンビンの絵を参照している。激しい動きを伴うような勢いのあるストロークに引き込まれる。 今津景「Mapping the Land/Body/Stories of its Past」展示風景、ANOMALY、東京、2021 撮影:木奥惠三 courtesy of ANOMALY

15世紀頃、ファン・アイク兄弟をはじめとするフランドルの画家によって技法が確立された油彩。その起源は古く、油彩の発展は美術史を語る上で極めて重要だと言えるが、いまインターネットや画像編集ソフトといったテクノロジーを用い、油彩の新たな可能性を切り開こうとするアーティストがいる。

それが東京・東品川のANOMALYにて個展『Mapping the Land/Body/Stories of its Past』を開いている今津景(いまづ・けい)だ。今津は歴史的絵画や博物図譜、またSNSにアップされた写真など、インターネット上から採取したさまざまな画像データをPhotoshopにて編集。そこから再構成された下図をもとにして、キャンバスに油彩で描いている。しかもタブロー上の筆先のストロークや擦れなども「指先ツール」や「ブラシツール」を使って予め決定し、重いデータを処理する際のバグの痕跡までもモチーフとして取り込んでいるから驚きだ。

新作の『Memories of the Land/Body』に注目したい。ここでは従来のPhotoshopだけでなく、3DレンダリングソフトであるDimensionを用いて画像を解体。そのデータを奥行きと平坦さをもって構成していて、バナナの房や花、赤ん坊や虎、それに銃剣を構えた兵士などが、全く異なったスケールをもった葉や骨などのモチーフとともに半ば入り乱れている。その様子を見ていると、静止しているはずの画面がものすごいスピードで動いているようで、いくつもの次元が次々と立ち現れては消えていくような錯覚に陥る。またこの他にも、熱帯雨林のジャングルを描いた風景をマシンにセットした筆が自動で消していく『Artificial green by nature green 2.0』といった時間で変化するインスタレーション的な作品もあり、絵画表現を超えるようなチャレンジングともいえる試みも見過ごせない。

1980年に山口県に生まれた今津は、『VOCA2009』(2009年)にて佳作賞、『絹谷幸二賞奨励賞』(2013年)を受賞するなど評価を得て、2019年には『あいちトリエンナーレ』や『六本木クロッシング』へ参加し、積極的に活動してきた。そして現在はインドネシアのバンドゥンに在住し、植民地としての歴史や移り住んだ土地での経験などをきっかけに制作を続けている。実に東京では約3年ぶりとなる帰国展を見逃さないようにしたい。---fadeinPager---

_MG_8296.JPG
『RIB』 2021年 若桑みどりの『女性画家列伝』(岩波書店、1985年)に登場する画家の絵からサンプリングした二次元のモチーフを、奥行きのある三次元空間に落とし込んだ作品。巨大な手や髑髏のイメージとともに見え隠れするのは、イタリアのカラヴァッジョ派の画家、アルテミジア・ジェンティレスキの『ホロフェルネスの首を斬るユディト』の一場面だろうか。
 今津景「Mapping the Land/Body/Stories of its Past」展示風景、ANOMALY、東京、2021 撮影:木奥惠三 courtesy of ANOMALY

_MG_8303.JPG
『Artificial green by nature green 2.0』(collaboration work with Bagus Pandega)  2021年 インドネシアの作家であるバグース・パンデガとの共作。水を含んだ筆がキャンバスの色面を自動で撫で続けていて、会期が進むごとにジャングルの緑が薄くなって消えていくという。溶出す緑はパームオイルプランテーションによる森林破壊を表している。なお2019年にジョグジャカルタで発表された『Artificial green by nature green』ではオラウータンが描かれていたが、今回はキャンバス上部に吊り下げられた横長のモニターにオラウータンを映している。 今津景「Mapping the Land/Body/Stories of its Past」展示風景、ANOMALY、東京、2021 撮影:木奥惠三 courtesy of ANOMALY

_MG_8307.JPG
『Artificial green by nature green 2.0』(collaboration work with Bagus Pandega)  2021年 筆がくるくると動く様子。マシンとは別の電力で、左に展示された本物のアブラヤシからの生体電流によってマシンと筆の動きは制御されている。 今津景「Mapping the Land/Body/Stories of its Past」展示風景、ANOMALY、東京、2021 撮影:木奥惠三 courtesy of ANOMALY

_MG_8265.JPG
『今津景個展 Mapping the Land/Body/Stories of its Past』会場風景 大きな油彩の作品が時に重なり合うようにして展示されているとともに、天井から画中のモチーフであるスマトラタイガーやフライングフロッグ、それにジャワ原人とも呼ばれるピテカントロプスの姿を象った鉄のモビールが吊り下げられている。 今津景「Mapping the Land/Body/Stories of its Past」展示風景、ANOMALY、東京、2021 撮影:木奥惠三 courtesy of ANOMALY

『今津景個展 Mapping the Land/Body/Stories of its Past』
開催期間:2021年10月2日(土)〜11月7日(日)
開催場所:ANOMALY
東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 4F
TEL:03-6433-2988
開館時間:12時~18時
休館日:日・月・祝 ※11月7日のみ日曜日回廊
入場無料
※営業時間の変更や臨時休廊が行われる場合があります。事前にお確かめください。
http://anomalytokyo.com