15世紀頃、ファン・アイク兄弟をはじめとするフランドルの画家によって技法が確立された油彩。その起源は古く、油彩の発展は美術史を語る上で極めて重要だと言えるが、いまインターネットや画像編集ソフトといったテクノロジーを用い、油彩の新たな可能性を切り開こうとするアーティストがいる。
それが東京・東品川のANOMALYにて個展『Mapping the Land/Body/Stories of its Past』を開いている今津景(いまづ・けい)だ。今津は歴史的絵画や博物図譜、またSNSにアップされた写真など、インターネット上から採取したさまざまな画像データをPhotoshopにて編集。そこから再構成された下図をもとにして、キャンバスに油彩で描いている。しかもタブロー上の筆先のストロークや擦れなども「指先ツール」や「ブラシツール」を使って予め決定し、重いデータを処理する際のバグの痕跡までもモチーフとして取り込んでいるから驚きだ。
新作の『Memories of the Land/Body』に注目したい。ここでは従来のPhotoshopだけでなく、3DレンダリングソフトであるDimensionを用いて画像を解体。そのデータを奥行きと平坦さをもって構成していて、バナナの房や花、赤ん坊や虎、それに銃剣を構えた兵士などが、全く異なったスケールをもった葉や骨などのモチーフとともに半ば入り乱れている。その様子を見ていると、静止しているはずの画面がものすごいスピードで動いているようで、いくつもの次元が次々と立ち現れては消えていくような錯覚に陥る。またこの他にも、熱帯雨林のジャングルを描いた風景をマシンにセットした筆が自動で消していく『Artificial green by nature green 2.0』といった時間で変化するインスタレーション的な作品もあり、絵画表現を超えるようなチャレンジングともいえる試みも見過ごせない。
1980年に山口県に生まれた今津は、『VOCA2009』(2009年)にて佳作賞、『絹谷幸二賞奨励賞』(2013年)を受賞するなど評価を得て、2019年には『あいちトリエンナーレ』や『六本木クロッシング』へ参加し、積極的に活動してきた。そして現在はインドネシアのバンドゥンに在住し、植民地としての歴史や移り住んだ土地での経験などをきっかけに制作を続けている。実に東京では約3年ぶりとなる帰国展を見逃さないようにしたい。---fadeinPager---
『今津景個展 Mapping the Land/Body/Stories of its Past』
開催期間:2021年10月2日(土)〜11月7日(日)
開催場所:ANOMALY
東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 4F
TEL:03-6433-2988
開館時間:12時~18時
休館日:日・月・祝 ※11月7日のみ日曜日回廊
入場無料
※営業時間の変更や臨時休廊が行われる場合があります。事前にお確かめください。
http://anomalytokyo.com