青木繁と作品の85人に「なる」、 そんな森村泰昌の意図とは?

  • 文:川上典李子

Share:

  • Line

3.jpg
森村泰昌『ワタシガタリの神話』(映像作品)より 2021年 作家蔵。1907年撮影の青木の肖像写真に扮した森村が、関西弁で『海の幸』がなぜ名作と言われ神話化されたかを語る。

【Penが選んだ、今月のアート】

フィンセント・ファン・ゴッホの自画像に扮したセルフポートレートの作品を発表して以来、名画や写真の人物に変装する、「自画像的作品」をテーマとしてきた森村泰昌。ひそかに思いを寄せていた洋画家、青木繁(1882~1911年)を徹底研究し新作に挑んだ。

何者かに扮する「自画像的作品」に森村泰昌が最初に取り組んだのは、30年以上も前のこと。第一作はファン・ゴッホ。有名な自画像で描かれた画家本人になりきった写真作品は注目を集め、その後、レンブラントやセザンヌらにも扮した。森村は記している。

「私が求めていたのは、特定の画家への傾倒ではなく、さまざまな画家たちを通して共通に感じとれる、なんというか『画家に住まう神様』との、優しくもあり厳しくもある出会いなのであった」

このほど、森村はある試みに参加した。美術館の収蔵品にインスピレーションを得た作品を制作し、両者を展示。コレクションと現代美術作家が新たに制作する作品とのジャムセッションだ。選出したのは、明治期のロマン主義を代表する洋画家、青木繁の名作。森村は言う。「私の美術的感性の生みの親、いや曾祖父当たりに位置している人物です」

選んだ一点、『海の幸』は1904年の作。千葉の漁村で友人たちから聞いた話に想像を膨らませた、若き洋画家のエネルギーがほとばしる。この作品に森村が対面したのは2010年のことだったという。荒々しい筆づかいが残る作品を前にしての印象は、「中途半端なところで思っている絵やなあ」だったというが、その後、解釈は大きく変わっていった。16年に、既に青木になりきった作品に取り組んでもいた森村が、今回、改めて行った青木の徹底研究も興味深い。たとえばこうだ。「『海の幸』は画家の本来の資質ある繊細さと、それを良しとしない画家の自己否定、別言すれば秩序と破壊の危ない均衡のなかで生まれた一枚の奇跡」

長く思い続けてきた作品に、“なる”。それは、平面で描かれた絵画を立体的に立ち上がらせた上で再び平面にまとめ上げるという、複雑で時間のかかる作業となった。小型模型(ジオラマ)も制作しての検討も行った。しかもこの絵では群像の10名それぞれになりきることが求められる。さらに、明治から現在まで、日本の世相を反映した「変装曲」となる連作も制作、かくして扮した人物は85名にも上った。

コロナ渦での制作だったため、スタイリング、メイクから撮影に至るすべてをひとりで、自身のスタジオで行っていたという過程にも驚かされる。明治の画家が作品を制作した際の緊迫した空気を感じ取りながら、新たに表された、歩み続ける85名。行進する人々の姿に対する新解釈も添えている。

「『海の幸』の群像の行進を、過去から未来へとひたすら前進し続ける長い帯状の絵巻ものとして捉えていた。しかし、もしかしたらそうではなく、過去と未来はその端っこ同士を貼り合わせて輪っかを成しているのかもしれない」

人間はひとところに留まっていられない。私たちはどこから来てどこへ行くのだろう。何者かに扮した作品に、森村はそんな思いも重ねている。

「『なる』とは、似たようなものをつくることだけを意味しているのではありません。それは、制作と研究と鑑賞が三つ巴になった、絵画とのスリリングな出合いの場なのです」

---fadeinPager---

差DMA-A.jpg
森村泰昌『M式「海の幸」第9番:たそがれに還る) 』2021年 作家蔵。

DMA-2.jpg
青木繁『海の幸』1904年 石橋財団アーティゾン美術館蔵。『みごとなまでに造形的な完成形がめざされていた絵画』など、作品に関する森村の解釈も興味深い。

4.jpg
森村泰昌『自画像/青春(Aoki)』2016/2021年 作家蔵。左の自画像の青木に扮した作。本展は石橋財団コレクションの青木作品10点と森村作品約60点で構成。

5 (1).jpg
青木繁『自画像』1903年 石橋財団アーティゾン美術館蔵。青木が画壇にデビューした21歳頃に描かれた。「自負と覚悟の表情で遠くを見つめている」と森村。

森村泰昌 Yasumasa Morimura

現代芸術家。1951年、大阪市生まれ。2014年、ヨコハマトリエンナーレのアーティスティックディレクターを務める。近年の個展に『森村泰昌:エゴオブスクラ東京 2020-さまよえるニッポンの私』(原美術館)など。

『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×森村泰昌 M式「海の幸」―森村泰昌 ワタシガタリの神話』

開催期間:10/2~2022/1/10
会場:アーティゾン美術館
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間: 10時~18時(金曜は~20時)※入館は閉館の30分前まで
休館日: 月(2022/1/10は開館)、12/28~2022/1/3
料金:一般¥1,200(ウェブチケット、日時指定予約制) 
※開催の詳細はサイトで確認を www.artizon.museum

※臨時休止、展覧会会期や入場可能な日時の変更、入場制限などが行われる場合があります。

関連記事

青木繁と作品の85人に「なる」、 そんな森村泰昌の意図とは?

  • 文:川上典李子

Share:

  • Line

Hot Keywords