京都市京セラ美術館で、開館1周年記念展『モダン建築の京都』が開催中だ。明治時代、東京への遷都を機に衰退し、その後の近代化の中で復興を遂げ、数々の名建築が生まれた京都。幸いにも震災や戦災の被害をほとんど受けることなく、京都の街には明治以降に建てられた洋風建築や近代和風建築、モダニズム建築、いわゆる「モダン建築」が数多く現存する。本展は、京都を代表するモダン建築のひとつ、京都市京セラ美術館を会場に、建築を通して京都を深く知る大規模な建築展となる。
「京都の明治以降の建築は見るべきものが多く、現在の街そのものが大きな博覧会場とも言えます。本展では京都市域に現存するモダン建築100を選出、そこからさらに36を選んで、それにまつわる資料を展示しています。音声ガイドアプリやツアー、特別公開、レストランやカフェの特別メニューなど、この会場にとどまらない広がりをもった展覧会となっています」と青木淳館長。
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展示は「古都の再生と近代」「様式の精華」「和と洋を紡ぐ」「ミッショナリー・アーキテクトの夢」「都市文化とモダン」「住まいとモダン・コミュニティ」「モダニズム建築の京都」という7つのセクションに分かれ、36の建築を紹介。展覧会初出展や重要文化財などの貴重な図面、写真、スケッチ、模型、家具、映像など、400点以上の多様な資料が、テーマパークのごとくずらりと並ぶ。
面白いのは、それらに建築物の一部や、内部で使われている家具、さらには施主や建築家のパーソナリティにまでフォーカスしたものなどが含まれていること。たとえば、普段なら間近に見ることのできない京都国立博物館の破風装飾木彫原型・菊花紋メダリオン。建築家・藤井厚二が建てた実験的な自邸、聴竹居のコーナーでは、自作の焼き物や、洋画家・太田喜二郎との書簡や茶会絵巻を展示。動物学者、遺伝学者の駒井卓の自宅である駒井家住宅では、ダーウィンを初めて日本に紹介したとして、その著書や研究のためのスケッチブックまで公開されている。
また、かのブルーノ・タウトが泊まった大丸ヴィラ、昭和初期に一大天文ブームを巻き起こした花山天文台など、一般公開されていない建築物は、撮り下ろした映像が流れるほか、会場内には、国立京都国際会館のためにインテリアデザイナー・剣持勇がデザインした六角形のイスなどを配置し、実際に座って写真を撮影できるコーナーを設けている。
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富士ラビット(旧日光社七条営業所)の設計を手がけた愛仁建築設計事務所の坂尻一郎のように、本展のためのリサーチを機に、その活躍が明らかにされた建築家もいる。
本展の9人のアドバイザーのひとりである京都工芸繊維大学名誉教授、中川理いわく、「長い間、近代の文化財の調査に携わってきたけれど、そこでも見せてもらえなかったような資料がたくさん出てきている。多大なる貴重な資料が粘り強く集められ、感動を覚えるほど。また、京都はかつての都が没落しそうなところをなんとか復活させていったという特別な近代化をたどった歴史がある。その京都の近代化と建築を合わせて見ていくと、より面白い見方ができると思う」
冒頭の青木館長のコメントにもあるように、街歩きの音声ガイドアプリ、建物特別公開、旅行会社やホテルによるツアー、レストランやカフェの特別メニューなど、多くの企業や機関と連携してさまざまな企画やイベントを推進していることも、本展の大きな特徴。特にレア度でいえば、伊東忠太設計の大雲院 祇園閣の特別公開を見逃す手はない。街に点在する歴史的建築を巡りながら、現在どのように保存活用されているかも注目したいところだ。
とにかく見どころ満載で、キュレーターの建築愛とパッションがほとばしる渾身の展覧会。建築ファンなら、このためだけに京都を訪れる価値がある。
『京都市京セラ美術館開館1周年記念展 モダン建築の京都』
開催場所:京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ
京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
開催期間会期:開催中〜12月26日(日)
休館日:月(祝日の場合は開館)
開館時間:10時〜18時(最終入場17時30分)
入館料:¥1,900(税込)
開催の詳細はサイトで確認を
https://kyotocity-kyocera.museum
※臨時休止、展覧会会期や入場可能な日時の変更、入場制限などが行われる可能性があります。