【アートでひも解く、グランドセイコーのデザイン哲学】Vol.3 伝統工芸と現代アートを行き来する舘鼻則孝の作品

  • 写真(腕時計):星武志 写真(アート作品、ポートレート):齋藤誠一 文:篠田哲生 監修:青野尚子

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グランドセイコーの腕時計と舘鼻則孝の作品はともに、伝統を重んじながらも、新たな価値を取り入れて進化する。

”伝統“とは古臭いことではない。むしろかつては革新的だった手法やスタイルが、時代の変化に合わせて少しずつ形を変えながら、現代へと継承されるものである。腕時計はまさにその典型である。教会の塔時計から生まれた機械仕掛けの時計の歴史は、小型化によって身に着けられるようになり、実用品となった。しかし携帯電話の普及とともに、徐々に装身具としての価値が求められている。いうなれば伝統的な時計の世界にも、デザインや機能、価値を、Rethink(=再考)することが必要となっている。

グランドセイコーでは、時計のメカニズムを再考した、唯一無二のハイブリットムーブメント「スプリングドライブ」を開発。高級時計の世界に、新たな価値を作りだした。アーティスト・舘鼻則孝は、その進化に日本的な感性を感じ取った。

過去から着想し、現代的に再構築する

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1985年、東京生まれ。歌舞伎町で銭湯「歌舞伎湯」を営む家系に生まれ、鎌倉で育つ。2010年に東京藝術大学美術学部工芸科染織専攻を卒業。ニューヨーク、パリ、ベルギーなど世界各地で作品を発表。2021年に行われた、東京の伝統産業に焦点を当てたオンライン展覧会「江戸東京リシンク」の展覧会ディレクターを務めるなど、多方面で活動中。

舘鼻則孝の最新作である「Descending Painting」は、幾層にも重なるレイヤー的な表現を用いる。手描きのスケッチをデジタルデータ化し、支持体となるモチーフを象った木質板や描画表現に用いるマスキングシートを制作。木質板に舘鼻のアトリエで調合したアクリル絵の具でペイントしていく。平面の中にも立体的な表現があり、加えてペイントの際には筆致を残すことで、テクスチャーや質量を感じさせるのだ。

「マスキングをして絵の具を一層ずつ塗っていくので、厚いところは5㎜くらいあります。そのため、仕上げや修正する際は、絵の具を彫刻刀で削って整える。描くのではなく、“工芸的に絵画を制作している”という表現が近いでしょうか。僕自身は東京藝術大学で伝統工芸を学んできましたが、工程にデジタルを取り入れることも含め、伝統的な手法と現代的な手法を融合させることでしか生まれない表情があると思うし、だからこそ新しい表現が可能になる。伝統的な世界からジャンプアップするには、革新的なアクションが必要なのです」

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「Descending Painting」シリーズ。仏教において、臨終を迎える際に、阿弥陀如来と菩薩が雲に乗り迎えに現れる場面を描いた「来迎図」に着想を得たもので、阿弥陀如来と菩薩が描かれる代わりに雷が描かれる。レイヤーを重ねることで立体的に表現し、見る場所や光によっても印象を変える。

舘鼻が世に出るきっかけとなったのは、2010年に大学の卒業制作としてつくった靴「Heel-less shoes」。江戸時代のアバンギャルドを体現する花魁の高下駄からインスピレーションを受けた作品を、レディー・ガガの専属スタイリストに見出され、それから約2年間、専属のシューメイカーとして活動した。

「僕の創作活動の概念でもある、日本古来の文化から着想して、現代的に再構築する『Rethink』の最初のきっかけとなったのが、この『Heel-less shoes』です。とはいえ靴づくりは独学ですし、もちろんすべて手仕事。革をカットするところから始まり、造形的な彫刻としての美しさやシルエットのラインを考えながらいろいろ試行錯誤していきました。しかし靴ですから、なによりも歩けることが重要だった。僕が目指したのは“美術工芸品”。すなわち“用途がある芸術品”なので、履ける、歩けるが成立してくれないと困る。日本国外には“美術工芸品”っていうジャンルが存在しない。でも僕は用途があっても、アートとして成り立たせたかった」

Heel-less shoesはレディー・ガガが履いたことで、用途を持った“美術工芸品”へと昇華されたのだった。

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レディー・ガガが見初めた「Heel-less shoes」は、最終的に彼女のために25足以上も制作された。彼女からのオーダーによって、高さ約40㎝はあろうかという厚底のものや、バレエダンサーの履くトゥシューズのようなものまで、さまざまなモデルが制作された

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時を刻むという、用途をもった美術工芸品

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左が「SBGC242」で、GMTを搭載したモデル。18Kイエローゴールドとのコンビネーションが華やかだ。右はセラミック×ブライトチタンのスポーティなクロノグラフGMT「SBGC223」。どちらもスプリングドライブムーブメントを搭載している。

“日本古来の文化から着想して現代的に再構築する”というRethinkの考え方や、伝統的な手法と現代的な手法をコラボレーションさせる舘鼻の探究は、まさにグランドセイコーが得意とするところでもある。

例えばグランドセイコーの特徴である、平面と稜線を活かした造形は、1967年に誕生したモデル「44GS」がベースとなっている。それを現代的なスポーツウォッチである「SBGC223」と「SBGC242」のデザインに融合させているのだ。

「ガラスと金属、そしてセラミックなどの異素材を組み合わせるのは非常に難しい。グランドセイコーは、見えていない場所も含めて緻密な設計をしていることが分かります。綺麗な稜線のデザインが特徴だと聞きましたが、“稜線がある”こと自体が目的ではなく、デザインや機能、素材の特性などを吟味してから決められてることが分かります」

今回紹介するグランドセイコーの「SBGC223」はセラミックとブライトチタン、「SBGC242」はステンレススチールと18Kイエローゴールド、セラミックといった異素材の組み合わせが特徴的なモデル。腕時計がなにかに接触した際にセラミックパーツが先に当たることで腕時計を守る構造にもなっており、機能的にも優れたデザインだ。

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セラミックの独特の輝きに魅せられた舘鼻。大型ケースやシャープなデザインは存在感があるが、意外と軽くて着用感に優れる。
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鏡の上にペイントを施したガラスを3層重ねることで、不思議な視覚効果が生まれる「Descending Layer」。ステンレススチール製のフレームは職人が制作しており、ガラス、鏡、ステンレススチールという異なる素材が美しく調和する。

グランドセイコーの美しい稜線や磨き込まれたパーツなどは、すべて人の手を介して作られる。例えばケースにはザラツ研磨という特殊技法を用いているが、専門の職人が素材の特性やケースデザインに合わせて丹念に磨き上げている。こういった技術は簡単には継承できないが、だからこそ目を引き付ける美しさが生まれる。

「日本では“表現”というものが、信仰にも近い。緻密な描写の背景には必然性があり、精神的なことさえもデザインされている。プロフェッショナルが集まって作り、熟練職人だけが持っている基準や尺度が、新たな世代へと継承されていく。そのときに伝えられるのは、技法という情報だけでなく”価値観“なのだろうと思います」

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「精度を突き詰めるというグランドセイコーの考え方は、ある意味ユーザーフレンドリーでもある。腕時計としての本質をついておきながら、技術を革新し続けているのは凄いことです」(舘鼻)

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「Heel-less shoes」は、舘鼻が単に靴のデザイナーではなくアーティストであったからこそ、革新的な発想により生み出された。その彫刻的な造形美に隠れた前衛性は、美しい腕時計でありながら技術や技法を突き詰める「SBGC242」にも通じるところがある。

SBGC223」と「SBGC242」には、セイコー独自のハイブリッドムーブメント「スプリングドライブ」を搭載しているが、その技術開発へのこだわりにも日本的な感性を感じ取った。

「幕末から明治にかけての工芸品は、西洋でも高い評価を受けました。それは西洋が機能からデザインを導き出したのとは反対に、用途以上に過剰なほど技術を費やしたからこそでもあります。例えば香炉は、機能としては香を薫くためだけでよいのですが、日本では装飾に凝ったり巨大化させたりと、用途以上に逸脱した美術品の領域に入っていた。でもそういった装飾過剰な考え方がパリ万博などで評価され、話題になりました。グランドセイコーの『スプリングドライブ』が目指した美しい針の動きや精度への探究心も、そこに通じる美学がある気がします」

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現代の高級時計は審美性を追及するがために、時を告げるという本質をおざなりにしがちだ。しかし時計はあくまでもアートではなく、用途を持った“美術工芸品”であるべきだ。グランドセイコーはまさにそれを体現しており、その姿勢は舘鼻が目指す創作活動とも通じる。

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異素材を組み合わせた「機能美」が特徴的な、グランドセイコーのスポーツコレクション

【各モデルの公式ページ一覧】
SBGC223
SBGC242
SBGC221
SBGC244


問い合わせ先/セイコーウオッチ お客様相談室 TEL:0120-302-617
https://www.grand-seiko.com/jp-ja/special/storiesofgrandseiko/

会場協力:KOSAKU KANECHIKA

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