「今こそコム デ ギャルソン!」と、僕が思う理由

  • 文・石戸 諭

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「Pen」 2012年 2/15号 『1冊まるごとコム デ ギャルソン』

僕の新刊『ニュースの未来』のあとがきは、コム デ ギャルソンから始まっている。寄せられる感想で、意外だったという声は少なくない箇所だ。一見するとまったく結びつかないニュース業界の話題と、コム デ ギャルソンがなぜつながるのか。

「既に見たものでなく、すでに繰り返されたことでなく、新しく発見すること、前に向かっていること、自由で心躍ること」

これはコム デ ギャルソン社がつくった1997年のDMに書かれた言葉だ。僕は最先端のモードの世界で、常に刺激的なコレクションを発表しているコム デ ギャルソンのデザイナーにして、社長も務める川久保玲さんの仕事をずっと尊敬していた。社会人になってからの目標でありモチベーションのひとつは、自分の仕事で得たお金で、川久保さんがデザインした服を着ることだった。

その大きな理由は、彼女が責任を伴った企業のトップ、ビジネスパーソンでありながら、斬新なクリエイションを発表していること、ビジネスとクリエイションを高い次元で両立をさせていることにあった。僕にとって、コム デ ギャルソンは独立した精神と気概、新しさへの挑戦が詰め込まれている服だ。先日、朝日新聞のインタビューでコム デ ギャルソン、とりわけオムプリュスの洋服について語ったところ、2022年春夏コレクションと展示会に招待された。

大胆な花柄とカットされたジャケットが印象的で、新型コロナ禍にあってもクリエイションの力を信じる姿勢が表現されており、フィジカルなコレクションがもつパワーに圧倒された。袖を通すたびにいつも驚かされる。今、販売されている秋冬シーズンもねじれていたり、裏地が表地になっていたりと大胆なアイディアが詰め込まれているのだが、新しい洋服として成立している。テーラードジャケットという高いレベルで完成している洋服を崩しながらも、逆説的に正統を感じさせる一着——。どう着るか、考えることそれ自体が楽しい。

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2020年、「Pen」本誌の連載「創造の挑戦者たち」登場時の石戸諭。コム デ ギャルソンの私服を着用。

僕もライターとして、いつも新しいテーマを世に問いたいと思っている。あれがダメだ、これがおかしいと指摘するだけでなく、誰も読んだことがないような新しさに満ちた読み物で読者の知的好奇心を刺激し、前に向かっていくエネルギーを詰め込んだものを常に出していきたいと思っていた。それだけでなく、読者に支えられるビジネスとしても成立させないといけない……。

そのためにはエネルギーがいる。コム デ ギャルソンの服を着るということは、服がもっているエネルギーを身にまとうことでもあるのだ。

今、ニュースだけでなくクリエイションの世界でも「今までの繰り返しではない仕事をしよう」「これまでよりも新しい表現を探そう」という気概がどんどんなくなり、作り手は批判に萎縮しているように見える。僕も時に怯んでしまい、無難なほうへ、無難なほうへと流される原稿を書いてしまいそうになるときがないとは言わない。「あれがダメ」「あっちの方がもっとダメ」で終わらせたほうが楽だが、それは過去の焼き直しに過ぎないと自分に言い聞かせている。

『ニュースの未来』のキーコンセプトは良いニュースはクリエイティブである、というものだ。「良いニュース」は新しい発見に満ちていて、おもしろさがある。凡庸でつまらないニュースではなく、もっとパワーがあるもの、強い原稿を出し続けていくことでしか僕もまた未来は切り開けない。

コム デ ギャルソン・オムプリュス、今季のテーマは「ダークルーム」だという。闇に包まれた世界であっても、新しいものは生み出せる。11月に予約していたウール縮絨のジャケットが到着するのが、今は待ち遠しい。

【執筆者】石戸 諭
ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。ニューズウィーク日本版特集「百田尚樹現象」で、2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を受賞。文藝春秋「自粛警察の正体」でPEPジャーナリズム大賞(2021年)を受賞。著書に『ニュースの未来』(光文社新書)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館、2020年6月)など。

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