人気フォトグラファー興村憲彦が、森岡書店で開催する写真展『DRIVE』を語る

  • 写真:興村憲彦
  • 文:Pen編集部

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写真家・興村憲彦写真集『DRIVE』より。

流動的に流れていく時間の中で、ある一瞬を切り取り、まるで記憶の中の断片を掘り起こしたかのような美しい光景を写真で描く。人気フォトグラファー・興村憲彦の写真は、どこまでも切なくノスタルジックで、脳裏に焼きつく”あの日”を想起させる。

興村といえば、小誌Penはもとより昨年話題となった木村拓哉が出演する日本マクドナルドの広告や、俳優の佐藤健、矢本悠馬が出演する大林組企業の広告など、 思わず誰もが「知ってる!」と納得の有名なコマーシャルフォトを数多く手がける人気フォトグラファーだ。そんな興村だが、今回は写真家としてこれまでのキャリアの集大成のひとつに掲げるのが、10月5日から東銀座の「森岡書店」で開催する写真展『DRIVE』だ。 その見どころを興村自身に訊ねた。

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写真という”DRIVE”を通して、言語化できないテーマをあぶりだしたい


──写真展『DRIVE』のコンセプトと、展示作品、そして写真集に込めた気持ちとは?

今回の写真展『DRIVE』は、これまで刊行してきた同名ZINEのひと区切りとして集大成版を作成しました。写真展は、その記念として開催するものです。そのため展示作はZINEから選び出しています。ZINEは、もともと仕事とは別に私的に撮り続けてきた作品です。自分のポートフォリオとしてつくり始めたのがきっかけです。クリエイティブビジネスの核となるコンセプトなどはなく、むしろそうしたものから距離を置いて、写真という”DRIVE”を通して、自身の胸の奥底にある言語化できないテーマをあぶりだそうと企画しました。本作は2015年から2020年の5年間をまとめた一冊となります。

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──写真展『DRIVE』の開催に合わせて、写真集もリリースされます。興村さんのお父さまであり、コピーライターで、現在は詩作活動に取り組む興村俊郎さんとの共作です。親子で写真集を手がけた経緯は?

親子の対話というか、そういう本があると面白いなと思いました。父も同じ広告業界に身を置き、仕事をする者同志です。けれど、普段の会話が多いわけではありません。言葉と写真を通してわかり合える部分があるというか。そのため父親としてではなく、いちコピーライターと仕事する感覚で、作品づくりは取り組んでいます。

今回の作品は、写真と言葉の相乗効果による伝達内容の広がりという試みをしています。 おそらくレンズを向けられることのないものまでが思いもよらないことを語りだす、そんな"楽しさ"を随所で見つけていただけるのではないでしょうか。

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──「一冊の本を売る本屋」として知られる東銀座の「森岡書店」ですが、なぜここで写真展を開催することになったんですか?

もともと版画家である松林誠さんとのご縁で、森岡書店を知りました。僕にとって、数々の文化を生み出した銀座という特別な意味を持つ場所で、 特色豊かな運営スタイルを実践されている点は才人ならでは。その発想に初めは驚きました。森岡書店で開催させていただくことは光栄なことですし、とても感謝しています。

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──今回、フォトグラファーとしてではなく、写真家として興村さんが目指した写真表現とは?

写真家は写真家であるまえに、それぞれに独立して生きる人間であります。 そして、人間にはそれぞれの必然から生まれた生き方があります。写真表現は、そうした限定的な部分だけで生まれるものではありません。 ぼくは人生半ばにさしかかって、生きるほどに自分自身の無知蒙昧を知るばかりです。せめて与えられた私の必然に、 たとえば写真という手段で生きていこうと改めて思っています。それが目指す表現でもあります。

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記憶の断片を写すかのような、第6感を刺激する作品たち

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写真集『DRIVE』は、興村憲彦にとって写真を通して5年の日々を収めた、私小説のような個人の記録である。けれど、日常の中に潜む"儚く美しい出来事"は、興村個人の想い出としてではなく、観る者誰もが懐かしさを感じ、記憶の奥底に眠る記憶とも自然と繋がる普遍性がある。今回の写真展では、全73枚の作品の中から10枚を厳選。いずれも一瞬の煌めきに神経を研ぎ澄まし、興村が無心でシャッターを切った珠玉の写真で構成されている。

新型コロナウイルスの影響で、日常のなかの些細な感動や変化を実感しづらくなったいま。東銀座にひっそりと佇む森岡書店で展示される、第6感を刺激し心にじわっと染み入る興村の写真作品。この秋、情感あふれる写真展と一冊の写真集にどっぷりと浸ってみては?

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写真集『DRIVE』。著者・写真 興村憲彦、言葉 興村俊郎。限定400部 ¥4800
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写真集『DRIVE』。著者・写真 興村憲彦、言葉 興村俊郎。限定400部 ¥4800
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写真集『DRIVE』。著者・写真 興村憲彦、言葉 興村俊郎。限定400部 ¥4800

興村憲彦(おきむら・のりひこ)●大阪府出身。2009年4月、広告代理店の撮影スタジオ勤務等を経て独立。12 年11 月、写真展『PRESENCE』開催、15年〜20年、ZINE「DRIVE」を刊行。21年10月、写真展『DRIVE』を開催。雑誌や広告を主なフィールドとし、ポートレイト撮影を中心に活動を行う。https://www.okimuranorihiko.com

興村俊郎(おきむら・としろう)●大阪府出身。1973 年より広告代理店勤務。08年より独立し、フリーランスのコピーライターに。17年より広告代理店時代からのライフワークである詩作に専念。複数の文芸祭等で最優秀賞受賞。

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『DRIVE』

会期:2021年10月5日(火)〜10月10日(日)

会場:森岡書店銀座店

住所:東京都中央区銀座1-28-15 鈴木ビル1F

時間:13時〜19時

料金:無料

※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。

写真集『DRIVE』
著者・写真:興村憲彦
言葉:興村俊郎
デザイン:宮本 碧美
印刷:山田写真製版所
版型:200×262 不定型 176ページ

価格:¥4,800(税込)

発売日: 2021年10月5日