メインの仕事道具としては他機を使っていても、ライカにはまた別の愛着をもって接する写真家たちがいる。写真家・三部正博さんにその愛の遍歴をたどってもらった。
ライカで撮ると、なんだか現場が心地よくなる。

「実は20代前半はライカを敬遠していたんです。ライカは嗜好品というイメージが強く、自分には合わないなって。とはいえ『ライカはいいよ』って声も聞こえてきて。ライカを使うことでこれまでとは違う表現ができればと思い『ライカM3』を買いました。でも、M3って威厳のあるカメラだから、気疲れしてしまい、結局あまり使わずに、手放したんです」
そう語る三部正博さん。以後しばらくライカから離れるが、5〜6年前に再び「ライカM5」を導入した。M型の系譜において、M5は異質だ。アナログ式のメーターを内蔵しており、ややサイズが大きい。
「普通のライカと違う、ネオクラシックというか、アメ車のような見た目と握った感じがよかった。M5は道具として気兼ねなく使える雰囲気がありながら、ライカの手触りも残っている。ライカ特有の静かなシャッター音で、撮られる側も撮る側も、そしてそのまわりにいる人も含め、現場が心地よくなるカメラだと思います。実はこのシャッター音こそが、ライカを忘れられなかった理由なのかもしれません」
ライカを使っていく中で、被写体との向き合い方についても新しい発見があったという。
「一眼レフとは違い、ライカだと厳密なフレーミングができません。だからいままで構図を最優先にしていた意識が、モデルの表情の変化などに向くようになったんです。また、暗室で仕上げる際に、同じズミクロン50mmでも製造された年代により発色が違い、色の再現性に個性があることがわかりました」
いまの三部さんにとって、ライカはもう嗜好品ではなく、撮れば撮るほどに新しい驚きを与えてくれる「道具」といえるのかもしれない。

三部正博(さんべ・まさひろ)

1983年、東京都生まれ。泊昭雄に師事後、2006年に独立。カルチャー誌やファッション誌などのエディトリアルの他、CDジャケット、広告など幅広く活躍中。スチル撮影だけでなく、近年はコマーシャルフィルムも手がけている。
※この記事はPen2019年3/1号「ライカで撮る理由。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。