コロナ禍、写真家の間で起きている新たなムーブメント

  • 文:仁尾帯刀

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SÃO PAULOサンパウロ

コロナ禍、写真家の間で起きている新たなムーブメント

文:仁尾帯刀

「サンパウロへ150枚の写真」第2弾のウェブサイト。写真はすべて20×30cm以下にプリントされ、コロナ禍が落ち着いてから、感謝状とともに購入者へ郵送される。写真はマウリーン・ビシリアの『少年天使』(1965年)。

社会格差が著しいブラジルでは以前から慈善活動が盛んだが、コロナ禍で困っている人のために手を差し伸べたいと行動する人がさらに増えている。ブラジルの写真家の作品をオンラインで販売することで得た収益で食料を購入し貧困家庭に届ける「サンパウロへ150枚の写真」は、パンデミック中に自分たちにもなにかできないかと行動を起こした写真家らによるチャリティ企画だ。

第1弾が行われたのは昨年4月。アートや報道、ネイチャーの世界で著名なブラジルの写真家150人の写真に1枚150レアル(約¥3,000)と手の届きやすい価格が設定され、販売された1973枚の写真で得た収益295,950レアルから、プリント代を差し引いた金額が、セスタ・バジカ(基本的食料の詰め合わせ)1800セットの購入に充てられた。

食料の配布を記録した写真家ヴィクトル・モリヤマは、企画運営者のひとり。サンパウロ周辺には、明日の食糧もままならない世帯が多いことに驚いたという。©Victor Moriyama

スローシャッターで風景を撮り続けるアレサンドロ・グルツマッカーの『要塞の岩5』。チャリティ販売される写真作品は風景、ドキュメンタリー、建築などさまざま。プリント代値上げのため第2弾では1枚200レアルで販売。Photo: Alessandro Gruetzmacher

このたび5月10日に発表された第2弾では、前回と異なる150人の写真家の作品がチャリティ販売されているところだ。寄付される収益で実際にセスタ・バジカを購入し、貧困家庭に配布するのは2018年から市内各地のファベーラで無償でヨガを教えながら慈善活動を行っている団体「トレイノ・ナ・ラージェ」。参加者に自己肯定感を育んでもらうために始めたヨガ教室は、パンデミックにより中断されている。そんな最中にもファベーラとの絆をより深めるため、寄付を募ってセスタ・バジカを住民に提供してきた。「サンパウロへ150枚の写真」は、この慈善活動への後方支援を買って出たのだった。

「サンパウロへ150枚の写真」を率いるのは、コマーシャル撮影などのエグゼクティブ・プロデューサーを務めるフラヴィア・パドロン。自らの人脈を駆使して各界の写真家に企画への参加を募ってきた。

「貧困にあえぐ人の救済に、写真が直接行えることは多くないので、写真を現金化して協力する企画を立ち上げました。写真家には日頃、孤独に制作する人も多いですが、慈善の名の下にはみな喜んで参加してくれました。パンデミック開始当時の企画1回目は勢いで始めましたが、想定以上の収益を得ることができました。あれから1年で感染状況は深刻化し、いまは社会全体が疲れきっています。それでもさらに慈善活動への協力が行えるよう期間を1回目の倍の1カ月に設定した2回目を開催しました」とパドロンは企画の経緯と意気込みを語ってくれた。

「トレイノ・ナ・ラージェ」のインストラクターとスタッフたち。中央の白マスクの女性が代表のソフィア・ビジリア。バレエダンサーとしての経歴をもち、過去11年にわたって囚人に演劇を教える活動をしてきた。Photo: Samuel Alexandre

サンパウロへ150枚の写真