おいしく問題解決、アルマーニで食すフードロスコースとは?

  • 文:吉田 桂
  • 写真:河内 彩
Share:

フードロスは深刻な問題だが、食べる楽しみも大切。アルマーニ / リストランテで解決の糸口を見た。

<アンティパスト>大根のフラン

TKS-1-210706_032+.jpg

TKS-2-ズッキーニ.jpg

野菜のブイヨンで煮込んだ大根にナイフを入れると、小さく刻まれた愛らしいズッキーニとサフランクリームがとろりとあふれ出す。傷や変形があるため商品として販売することができなくなった大根と、コロナウイルスの影響で注文が減り、出荷先を失ったズッキーニを使用。野菜由来の穏やかな旨味が、じんわりと食欲を呼び覚ましてくれる、スターターにふさわしいひと皿だ。

<アンティパスト>カプレーゼ2021

TKS-3-210706_040+.jpg

TKS-4-トマト.jpg

桃太郎、フルティカ、ピッコラルージュの3種のトマトを、ミルクとブッラータチーズのジェラート、トマトウォーターのエスプーマで覆った進化系カプレーゼ。トマトの爽やかな甘みが口中で弾けるような夏らしい味わい。土耕栽培で育てられたトマトは天候の影響を受けやすく、収穫量の約15%が不揃いなため販売不可に。そんな“かたちは悪いが味は抜群”の素材を活用している。

---fadeinPager---

<プリモ・ピアット>スパゲット 赤ピーマンとグリーンソース

TKS-5-210706_049+.jpg

TKS-6-赤ピーマン.jpg

ソースに使った赤ピーマンのまろやかな甘みに、真鰯のマリネの酸味とイタリアンパセリの苦みがアクセントを添える。かたちが不揃い故に販売できない赤ピーマンをスロージューサーで搾り、太めのパスタに絡めて活用。また、魚価低迷やコロナの影響で、厳しい状況が続く漁業の現場よりセレクトしたのは三重県の真鰯。廃棄される魚が少しでも減ればと、生産現場からの期待も集まる。

<セコンド・ピアット>金目鯛 枝豆 ライムの香りのコンソメ

TKS-7-210706_079+.jpg

TKS-8-枝豆.jpg

ドライエイジングした後に昆布で締め、備長炭でふっくらと焼き上げた金目鯛に、スモークした枝豆のソースを。パリパリの皮目とソースの香ばしさが舌の上で心地よく共鳴する。炭火で焼いた魚の頭、チェリートマト、コブミカンの葉などを煮込んだスープを食べる直前に回しかけると、いっそう旨味が増す。出荷先が減少し、大幅に相場が低下した金目鯛を極上の一品に昇華させた。

<セコンド・ピアット>あか牛外腿肉 ナスのテクスチャー

TKS-11-210706_091+.jpg

TKS-12-牛肉.jpg

口に入れた瞬間、ほろほろと崩れるほどやわらかく煮込まれた牛の外腿肉を、薄くスライスしたナスで包んだ、本コースのクライマックスと呼びたいひと皿だ。ビネガーが効いたナスのピューレソースの甘酸っぱさが、あか牛本来のヘルシーな旨味を際立たせる。外腿肉は、調理に技術が必要であるため売れ残ることが多い部位だが、低温で長時間煮込むことで、絶妙な食感に仕上げている。

---fadeinPager---

<ドルチ>酒粕 メロン

TKS-13-210706_013+.jpg

TKS-14-メロン.jpg

メロン果汁100%でつくったカキ氷とメロンの果肉に、酒粕とヨーグルトのソーダ、酒粕と豆乳のリコッタチーズを組み合わせた。表面に傷が入り市場に出なかった新鮮なメロンの甘みと、香り豊かな酒粕とが驚くほどマッチする。日本酒の製造工程で出る酒粕は、すべてを商品として加工することは難しく、大部分が廃棄の対象に。調味料や製菓材料として広く使われることが望まれる。

<ドルチ>煎茶 シトラス

TKS-15-210706_021+.jpg

TKS-16-煎茶.jpg

ホワイトチョコレートとマスカルポーネのクリームで描いたサークルの中に、煎茶と柑橘のゼリーを流した、清涼感いっぱいのドルチェ。ふるふるととろけるゼリーとサクサクした煎茶ミルクのアイスパウダーとの食感のコントラストも楽しい。使用しているのは、香りも旨味も強い、佐賀県産嬉野茶の製造過程で生じる粉茶。廃棄または肥料として使われる予定だったものだ。

---fadeinPager---

フードロス問題を解決するためのアクションと聞くと、少なからず我慢を強いられたり、崇高な理念を求められたり、というイメージをもつ人もいるのでは。だが、「アルマーニ/リストランテ」が今春始めた「ロス フード メニュー」は、我慢や堅苦しさなど微塵も感じさせずに、フードロス問題と向き合うきっかけを与えてくれる。10月末まで提供される夏のコースは全7皿。魚と肉の両方が楽しめるダブルメインとなっており、前菜からデザートまで、全皿にフードロス食材を取り入れている。

そもそもフードロス食材とは、かたちが不揃いであったり、コロナ禍により出荷先が減少したりといった理由から廃棄される予定のもの。そのため通常よりも時間をかけて調理しなければならないものや、ていねいな下処理が必要なものも多い。なにより、「メニューありきで食材を選ぶ」のではなく、フードロスに直面している食材からメニューを考え、コースを組み立てるため、シェフには柔軟なアイデアと卓越したセンスが求められるのだ。

それを成し遂げたのがイタリア人エグゼクティブシェフのカルミネ・アマランテ。このプロジェクトは、彼が中心となり日本からイタリアに提案し、ミラノ本社が賛同したことから始まった。「地球の未来は私たち全員の関心事であり、この問題には、ブランドに携わるすべてのスタッフが積極的に関わるべき」というジョルジオ・アルマーニ自身の発言に、環境問題に対するブランド全体の意識の高さが表れている。

付加価値をもたせることで廃棄しない。知名度も影響力もある同店のこうした取り組みは、フードロスの問題解決に向けた追い風となるだろう。

210906-pen-04.jpg

アルマーニ / リストランテ

住所:東京都中央区銀座5-5-4 アルマーニ / 銀座タワー 10・11F 
TEL:03-6274-7005
営業時間:11時30分~14時L.O.、17時~18時30分L.O.
定休日:月
料金:ロス フード メニュー¥10,000(サービス料別) 
※要予約 www.armani.com/restaurant/jp

関連記事

※この記事はPen2021年10月号「捨てない。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。