
ヴァン クリーフ&アーペルはいままでも、ひと際ダンスへの理解が深いメゾンとして知られてきた。その強固な関係をはっきりとカタチにしたのが、2020年に始まった「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」だ。このプロジェクトを通して、ヴァン クリーフ&アーペルはモダンダンス・コンテンポラリーダンスを上演するアーティストやカンパニーをサポートし、新作のクリエイションを奨励する。20年の秋から既に複数の公演や創作活動の支援、劇場や芸術祭との提携が始まり、22年3月には大規模なダンスイベントも予定されている。現代のパフォーマンス・アートの最前線で、ヴァン クリーフ&アーペルが果たしている役割は注目に値するのである。
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ヴァン クリーフ&アーペルとダンスの歩み
バレリーナ クリップ(1945年)。ダイヤモンドやカラーストーンを用いて華麗な衣装を纏う女性バレエダンサーのポーズを描くクリップは、1940年代に初めて製作されてから、ことごとく話題を呼んでいる。ヴァン クリーフ&アーペルはダンスとダンサー、とりわけバレエをモチーフとした華麗で可憐なジュエリーで名高い。その歴史は1940年代、「バレリーナ クリップ」をはじめとする一連の作品から。ゴールドの身体にダイヤモンドの顔のバレリーナはポワントで立ち、ルビーやサファイアで彩られたチュチュやヘッドドレスを着け、扇を手にしてポーズを取る。パリ・オペラ座からほど近いヴァンドーム広場に本店ブティックをもつヴァン クリーフ&アーペルは、宝石のエトワールを夢の舞台に上げたのである。その後もダンサーをモチーフとし、世界各地のさまざまな衣装を着けたクリップが製作された。『白鳥の湖』で王子の舞踏会に集まった各国の姫君らのように、ヴァン クリーフ&アーペルの歴史は華やいだバレリーナで埋め尽くされているのである。

ヴァン クリーフ&アーペルの功績はクラシック・バレエを踊るダンサーを華麗なジュエリーに活写したことだけではない。さらに注目すべきはダンスそのもの=身体の動きを高度に抽象化してみる離れ業を見せたことだ。たとえば「トゥールビヨン クリップ」の造形は、つま先立って高速回転するシェネの連続が見せる軌跡のように映る。本当はその渦巻きは残像の連なりのようなものであり、しかも実際には見ることがない真上からの錯視だ。それは物語の主人公ではなく、ダンスそのものを抽象化して表現しているのである。クラシックな物語であるバレエに対して、身体の動きそのものに主眼を置くモダンダンスが誕生したように、ヴァン クリーフ&アーペルは人が踊ることを精神性のレベルで捉え直した。その偉業には、現代バレエを変革したある振付家の巨匠との関係が大きく関わっている。

バレエに造詣が深かったクロード・アーペルはニューヨーク五番街のブティックを任されており、N.Y.シティ・バレエの創設者である振付家ジョージ・バランシンと1950年代から親交をもっていた。バランシンは、近現代のバレエとダンスの歴史を語る上で最も重要な芸術家のひとりだ。そのバランシンが五番街のブティックのショーウインドウを眺めて着想を得たと伝えられ、またクロードが薦めたともいわれるバレエ作品が『ジュエルズ』である。全3幕がそれぞれエメラルド、ルビー、ダイヤモンドと名付けられたこの作品は、バランシンの“純粋抽象主義バレエ”の完成とも評価される傑作である。物語の中での役割をもたなくとも「人間の動きはそれだけで美しい」とするバランシンは、「そのままで美しい宝石」を、自らの傑作に重ねた。ヴァン クリーフ&アーペルはダンス史に記録される“クラシックとモダンの結節点”に立ち会い、不朽の名作の誕生に関わったのである。
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日本での開催も予定されている、注目のダンスイベント


いま、ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペルを強力に推進しているのが、2013年1月からプレジデント兼CEOの職にあるニコラ・ボスと、19年4月にアート&カルチャープログラム マネージャーとして入職したセルジュ・ローランである。カルティエ現代美術財団でのキャリアをもつボスは、アートを理解し支持することが、ヴァン クリーフ&アーペルというメゾンの強みであることを知り抜いている。「プロジェクトは世界各国で展開をしていきます。もちろんアジアも予定に入っています」。頼りになる知恵袋が、ダンスを含めたフランスの芸術の殿堂ポンピドゥー・センターのキュレーターから転じたセルジュ・ローランだ。「プロジェクトには一貫性と永続性が必要」と考える彼は、ヴァン クリーフ&アーペルがどのように活動することが、ダンスの理解を広めることにつながるのかを熟慮し、メゾンの実行を促す立場にある。

そもそも、ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル以前から、メゾンは“ダンスの現代”を推し進めるための支援活動を続けてきている。よく知られているのがダンサーで振付家のバンジャマン・ミルピエに対するサポートだ。ミルピエは13年から16年にかけて、メゾンの支援を受けて制作した三部作『ジェムズ』で、コンテンポラリー・ダンスの新しい地平を拓いたダンス界の風雲児だ。しかもその間ミルピエは、14年から16年は世界最高峰のパリ・オペラ座バレエの芸術監督を務めてもいるのである。メゾンが19年に発表したハイジュエリー・コレクション「ロミオとジュリエット」は、ミルピエによる同名の創作を反映したものだ。興味深いのは、ミルピエはバランシンが創設したN.Y.シティ・バレエの出身で、『ジュエルズ』を踊った経験もあることだ。なによりミルピエは、バランシンから続くアメリカン・モダンダンスの正当な継承者のひとりとみなされているのである。

さらにヴァン クリーフ&アーペルは15年から「FEDORA-ヴァン クリーフ&アーペル バレエ賞」を、創意にあふれるその年の優れた作品に贈っている。各国のバレエ団との提携にも意欲的であり、オーストラリア バレエ団とのパートナーシップの他、ボリショイ劇場のスポンサーでもある。14年からはフランスと中国の芸術交流祭「フェスティバル・クロワズモン」とのコラボレーションも始まっている。
20年に始動したダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペルは、そうしたメゾンの活動の集大成ともいえるものだ。ひとつの柱はモダンダンスの振付家とカンパニーの新作を支援すること。既にボリス・シャルマッツ、ラシッド・ウランダンら、日本での公演経験もあるコンテンポラリー・ダンスの旗手たちが、新作への支援を受けている。そして、新たな機関との提携。秋の芸術祭「フェスティバル ドートンヌ ア パリ」とのパートナーシップに続き、パリ市立劇場、パリ国立音楽・舞踏学校、リヨン国立オペラ座バレエ団、英国サドラーズ ウェルズ劇場ら、錚々たる顔ぶれとの提携が開始された。
もうひとつの柱が、ロンドンを皮切りにスタートする、1都市を拠点としたダンスイベントだ。ここではコンテンポラリー・ダンスの主要作や新作が上演される他、ダンス映画の上映、講演会、アーティストによるマスタークラス、一般参加のワークショップなどの文化プログラムが開催される。それはダンスの歴史と文化に対して人々の関心を呼び起こし、高める社会的な意義をもった出来事だ。世界的メゾンへの注目が期待を増幅し、ダンスの価値観を一変させるイベントは、日本での開催も既に予定されている。
TEL:0120-10-1906