現代社会と服の関係性を見つめ、常に新しい価値観を提案し続ける東京デザイナー4人衆に、モノ選びのヒントを訊いた。
※こちらはPen 3/15号「TOKYO GENTLEMEN」特集よりPen編集部が再編集した記事です。
丸龍文人 ──シーンを超える、“機能拡張”のアイデアこそ必要。
“21世紀に必要な服”をテーマに掲げ、時代の空気感を色濃く反映させた、コンセプチュアルな服づくりを得意とする丸龍文人さん。コロナ禍に製作された2021年春夏コレクションは、現在の社会情勢に向き合いつつ、普遍的に着用できる提案として、部屋着と外着との境界が曖昧なアイテムを発表した。
「いま僕たちに必要なのは、臨機応変にあらゆるシーンを横断できる、フレキシブルなアイテム。そう考えてつくったこのライトブルゾンは、普通のジャージーよりもエレガントで肌触りもよいボンディング素材を採用しているので、部屋着の心地よさを担保しながら、上品な質感で外着としてのファッション性も高めています。さらに両脇のコンシールファスナーを上げると機能が拡張し、通常のジャージーブルゾン以上の可動域と通気性を確保することができます。このトランスフォーマブルな構造によって、部屋着としても心地よく、そのまま外に出ればスポーツもできるという、ワンアクションで内と外のギャップに対応するデザインが実現しました」
機能が拡張し、異なるシーンでフレキシブルに活躍するというアイデアは、これからのスタンダードとなりつつある。
丸龍文人●1976年、福岡県生まれ。文化ファッション大学院大学を卒業後、2004年にパタンナーとしてコムデ ギャルソンに入社。08年に自身の名を冠した「ガンリュウ」をスタート。16年に同ブランドを終了して退社。18年に「フミト ガンリュウ」を立ち上げる。www.fumitoganryu.jp
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浅川喜一朗 ──自分に合う色を知り、そのポテンシャルを広げていく。
「シュタイン」を手がける浅川喜一朗さんは、自分のスタイルにいちばんしっくりくる色として、毎日黒いアイテムばかりを愛用している。自身のブランド内にも「ブラック」というラインを設けてしまうほど、黒の世界観にはこだわりがある。
「自分は限りなく無に近いけど、うっすらと空気感や匂いが感じられるような表現が好きなので、そのベースとして黒はいちばん基本的な色。なんでも狭い分野をどんどん深掘していくタイプということもあり、黒の表現方法を発展させていくプロセスが、デザインの醍醐味でもあるんです。このプリーツニットも、色調の違う3色の糸を編み上げたものなので、ただの黒一色のアイテムよりも、表情に奥行きが出ています。身体を動かした時も、プリーツ素材の独特なドレープやシルエットが楽しめるから、シンプルなデザインのわりに存在感があるんです」
自分にいちばん合う色やスタイルを見つけ、それを突き詰めていくことも、ファッションの楽しみかたのひとつ。
「あとはシーズンごとに消費されていくファッションではなくて、古着、建築、本などのように、時が経っても価値が失われない普遍的なものを選びたいし、つくり続けていきたいです」
浅川喜一朗●1986年、山梨県生まれ。原宿の伝説的セレクトショップ「ナイチチ」のスタッフを経て、2016年に独立し、ヴィンテージと国内外のブランドを揃える「キャロル」をオープン。同年に自身が手がけるブランド、シュタインをスタート。いまも店頭で接客にあたる。
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高橋悠介 ──本当に必要なものを突き詰め、“用の美”を考える。
「現代の生活に必要なものを突き詰め、それを必要最小限の要素で形にするのが私の命題です」と語るのは、イッセイ ミヤケ メンのデザイナーを6年間務め、今季から自身のブランドであるCFCLをスタートさせた高橋悠介さんだ。
「すべての商品に再生素材を使用し、コンピューターニッティングで編み上げたアイテムのみを展開しています」
このニットは軽くて伸縮性に優れ、シワにもなりにくく、ほぼすべてのアイテムが洗濯機で洗えるのも特徴だ。
「私が仕事や日常的な社会生活を送る上で、必要不可欠なアイテムとしてまず思い浮かべるのがジャケットです。そのジャケットの構成要素をいま一度見直して、不必要な要素をすべて削ぎ落としたものが、上の写真のジャケット。本来2つボタンか3つボタンのデザインが主流ですが、本当に使っているボタンはひとつだけ。ライニングも毛芯も含め、不必要なパーツを排除すれば、結果的に洗濯機で洗える利便性と軽量化が実現し、コストやCO2の削減にもつながります」
高橋さんは普段からミニマルな服ばかりを着ている半面、靴やバッグは、遊び心のあるデザインを選んでいるそうだ。
高橋悠介●1985年、東京都生まれ。文化ファッション大学院大学卒業後、2010年に株式会社三宅デザイン事務所入社。13年に28歳でイッセイ ミヤケ メンのデザイナーに就任し、6年にわたりチームを率いる。20年に三宅デザイン事務所を退社し、株式会社CFCL設立。 www.cfcl.jp
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大島裕幸 ──ベーシックないいものと、長く付き合っていく時代。
部屋着にすべてカシミアのアイテムを選ぶほど、天然繊維を使ったアイテムに強いこだわりをもつ、ヘリルの大島裕幸さん。“本当にいいもの”を追求する妥協のないものづくりは、常に目の肥えたファンを魅了してやまない。
「このラミー素材のニットにはとても細い繊維を使っているので、こんなに張りのあるテクスチャーに仕上げるのはものすごく難しいのですが、まだ誰も見たことがないものをつくりたいという一心で、なんとか製品化までたどり着きました。こうやって新しいチャレンジを繰り返していくことで、天然素材の可能性はさらに広がっていきます」
大島さんは普遍的でベーシックなスタイルに、素材やシルエットで新しい表情を与えるデザインを得意とする。
「ぱっと見の新しさを価値基準にしてしまうと、数シーズンで飽きてしまうかもしれません。でも新しい表情が与えられたベーシックであれば、見た目も新鮮で、長く愛用できるはず。これからは大量につくって大量に売る時代ではなく、本当にいいものを、その価値に共感してもらえる人たちに直接届け、モノと人とが長く付き合っていく時代だと思っています」
大島裕幸●1974年、香川県生まれ。文化服装学院卒業後、デザイナーズブランドや大手セレクトショップの企画を経験し、2019年秋冬シーズンからユニセックスブランドのヘリルをスタート。工場や職人とともに新しいコンセプトの素材開発も行い、ものづくりに反映する。