1位.最後のニュース (『ハンサムボーイ』収録)
2位.海へ来なさい (『スニーカーダンサー』収録)
3位.帰れない二人 (『氷の世界』収録)
「陽水さんの中で僕は焼鳥屋で会った彼 = 焼鳥くんとなっているようです」
そんなエピソードを教えてくれたのは、RADWIMPSの野田洋次郎さん。親の影響で幼い頃からジャズやフォークに親しんできた野田さんだが、初めて聴いた陽水作品も親が家で流していた「少年時代」だったという。
「幼稚園の頃で、初めて聴いた歌なのにとても懐かしい気持ちになったのを覚えています。陽水さんに初めてお会いしたのはリリー・フランキーさんにお誘いいただいた食事の席だったのですが、その時の陽水さんも『少年時代』と同様に、初めてという気持ちにさせない人だと感じました。ずっと昔から知っているおじさんのように、音楽やライブ、田舎の話をしてくれましたね」
野田さんと映画で共演経験があるリリーさんが、ふたりを引き合わせたのが焼鳥屋であった。それが、冒頭のエピソードにつながっている。ビジネスマンで混雑する庶民的な焼鳥屋のカウンターに3人が横並びで座り、野田さんは大先輩に挟まれて飲んだそうだ。
偉大な先輩から感じた、音楽家同士の交錯する想い。
陽水の曲とちゃんと向き合うようになるのは、本格的に音楽を始めてから。
「改めて聴くと楽曲のオリジナルさ、歌詞の構造、歌唱、あらゆる面に魅了されました。ときにすべてを言い、ときになにも言わないような陽水さんの詞。まねてみようとしたこともありました。もちろん無理な話で、あの詞は陽水さん自身なんだなと感じます」
他にも「言葉の音へののせ方、色気、歌詞の自由さ」と、井上陽水からの影響を挙げている野田さん。それは、そのままRADWIMPSの音楽を聴いてバンドを始めたいまの若者たちからも、聞こえてきそうな声でもある。
昨年、井上陽水のライブを観て印象的だった曲が「帰れない二人」だった。いまは亡き忌野清志郎との共作で知られる名曲だ。一行ずつリレー方式でつくり始めたという制作の背景を知り、ふたりの偉大なミュージシャンの交錯する想いを感じたという。
「ミュージシャン同士で曲をつくる時に、普段ひとりでつくる時は避けてしまいがちなことも、敬愛するミュージシャンとだとなぜかできてしまったり、引き出されたりすることがあります。この曲からはふたりのプライドと尊敬とが透けて見えるような気がします」
2位に挙げた「海へ来なさい」は、陽水が誕生した息子へ当てた曲。
「歌詞がどうしようもなく好きです。自分に子どもができた時、間違いなく胸に流れてくる歌だと思います」
そして、ベストワンは「最後のニュース」。報道番組のために書き下ろされた曲であり、歌詞の内容も社会性を帯びる。野田さんもしばしば個人と社会が対峙する楽曲を発表してきた。
「『傘がない』にも通じるものがあるのですが、僕が歌を歌う時の根底にある感覚を、すべて歌われたような思いがありました。いちばんシンパシーを覚える曲でもあります」
こちらの記事は、Pen 2020年5月1・15日合併号「【完全保存版】井上陽水が聴きたくて。」特集からの抜粋です。