マニアが熱視線を送る、都内の個性派パン5選。

  • 写真:尾鷲陽介
  • 文:岡野孝次

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パン屋の厨房からは毎朝、小麦の濃い香りがあふれる。写真は谷中の「ヴァーネル」で供する北欧の食事パン「サワードウ」。小麦・水・塩で仕上げたシンプルな味わいの虜になる人も多い。

街角や商業施設にパン屋ができるたび、長い行列ができる光景もいまではお馴染み。一挙に注目を浴びる話題の店が現れる一方で、慎ましくも長きにわたり着実に支持される店も存在する。そんなアピール控えめな良店から、とりわけパンマニアが熱心にリピートする5選を紹介したい。どんな食事にも合う北欧の食事パンであるサワードウや、スパークリングワインの最高の酒肴になるフレンチのタルティーヌなど個性派揃い。目利きたちに人気の逸品を知ることで、奥深いパンの可能性がさらに広がるはずだ。


1. どんな料理にも合う、谷中「ヴァーネル」の北欧パン
2. とろける食感がクセになる、大岡山「ヒンメル」のドーナツ
3. 大人を魅了する、浅草橋「シゲルキッチン」のフレンチトースト
4. 晩餐のボルテージを上げる、浅草「ペタンク」のタルティーヌ
5. バナナ風味豊かな、西荻「進藤製パン」の食パン

どんな料理にも合う、谷中「ヴァーネル」の北欧パン

「サワードウ ブレッド」写真の1ローフで¥1,200(税込)。ヘッドベイカーの宮脇さんは、オスロのパン屋「ille brød(イレブロ)」で学んだ縁で、修行先のサワー種を発酵に使う。焼成しても膨らみ過ぎない生地なので、クラム(外皮の内側)も食べ応えがある。

谷中の古民家に出現した話題の北欧パン専門店「ヴァーネル」。1年半経ったいまも静かに人気は続いている。定番のサワードウは小麦やライ麦を水と混ぜて培養させたパン種。「これで小麦・水・塩のシンプルな生地を発酵させます。北欧では、どんな料理にも合う白飯のようなパンです」とヘッドベイカーの宮脇司さんは語る。

ノルウェー産の全粒粉と栃木産小麦「ゆめかおり」を合わせて焼く宮脇さんのサワードウ。口に入れるとまず全粒粉の香りが鼻を突き、酸味の後、小麦の旨味が濃厚に広がる。「シンプルゆえに、気温や湿度で日々味わいが異なる。つくり手として探究心が尽きません」。購入した翌日は酸が立って複雑味が増すこともあり、経日変化もこのパンの魅力だ。長時間かけて低温で酵母が活性化するため、栄養や消化面でも優良。サワードウに熱視線が注がれている。

2018年8月オープン。古民家の扉を開けると、正面からパン職人の仕事を眺められる。「以前ここに店を構えていた『カヤバベーカリー』閉店後にそのまま入居しました」とマネージャーの吉田友翔さん。サワー種を使ったシナモンロールやカルダモンロールなども棚に並ぶ。

1938年建造の日本家屋を改装した複合施設「上野桜木あたり」。どの駅からも歩いて10分以上かかる住宅街に立地するが、ここを目指して全国からパン好きが来訪する。オスロ発のコーヒーショップ「フグレン」のコーヒーもドリップして販売、店前のベンチで寛いでいく人も多い。

ヴァーネル
東京都台東区上野桜木2丁目15-6 上野桜木あたり 2
TEL:03-5834-8137
営業時間:9時〜18時
定休日:月、火(月曜が祝日の場合は営業)

とろける食感がクセになる、大岡山「ヒンメル」のドーナツ

「クラプフェン(シナモン)」1個¥200(税込)。ラムレーズン入りの生地は小麦に対して水を100%以上加えたトロトロ状態。これを手際よく成形、長時間かけて揚げることで表面はサクッと、中はしっとりと仕上がる。また卵の風味も味わいのアクセントに。さとうきび由来のシュガーをまぶした「クラプフェン(カソナード)」も評判だ。

「ヒンメル」のクラプフェンは発酵させずに揚げるドーナツ。ゆえに厳密な意味では“パン”でないが、2008年のオープン以来、ドイツパンを看板に掲げる同店で不動の一番人気。その秘密は“パン”を求めに来たマニアも手が伸びるオンリーワンの食感にある。

デュッセルドルフで100年以上の歴史を誇る「ヒンケル」で製パンを学んだオーナーの金長鴨之さん。「最も衝撃を受けたのがクラプフェン。日本に帰ったら絶対に再現しようと誓いました」。クラプフェンはキリスト教のカーニバルで食される揚げパンで、地域・家庭・店舗により製法も味も異なるという。

加水率100%を優に超える生地は、とろけるような食感。時間をかけて揚げるため、噛み締めるたび、油の旨味がにじみ出る。ここにシナモンの甘さ、バターのコクが重なれば、えもいわれぬ口福感。多少の罪悪感を振り払っても、2個、3個とかぶりつきたくなる代物だ。

約70種類のパンを販売。ドイツの“食事パン”であるロッゲンミッシュブロートや、お馴染みのブレッツェルなど金長シェフ得意のドイツパンが揃う。メロンパンや食パンといった和製パン、またフランスのパンやペイストリーも展開。サンドイッチも人気の品だ。

金長シェフの修行先、デュッセルドルフの「ヒンケル」にインスパイアされた店構え。「自転車は『ヒンケル』にあったものです。車体の値段の何倍も送料を払って、飛行機で日本に持ってきました」。大岡山店の他、自由が丘、目黒にも支店があり、各店舗で「クラプフェン」を販売している。

ヒンメル 大岡山店
東京都大田区北千束3丁目28-4 アンシャンテ大岡山 1F
TEL:03-6431-0970
営業時間:8時30分〜19時30分(月、水~金) 7時30分〜19時30分(土、日、祝)
定休日:火
www.himmelbrot.com

大人を魅了する、浅草橋「シゲルキッチン」のフレンチトースト

「フレンチトーストとベーコン」¥1,080(税込)。どの商品にもデフォルトでマカロニサラダが付く。「ペリカン」の食パンを使用するのはご近所さんのご縁ゆえ。「食感がやわらか過ぎず、甘くないのもいいですよね」と店主の原田さん。最低2日はかけてフレンチ液に浸すため、味もよく染みている。

チョークアートの黒板メニューが浅草橋界隈で目を引く、ポップな内観。「またお洒落なカフェが下町に?」と思ったら、なんとそこは地元の老舗焼き鳥店のサンドイッチショップ。しかも「ペリカン」の食パンを使用、その意外性と希少性で「わざわざ浅草橋まで」という人が増えている。

「うちの焼き鳥を広めたくて、サンドイッチを始めました」と「柳ばし 鳥茂」2代目の原田久美子さん。看板メニューは焼き鳥店のつくねを挟んだサンドイッチ「鳥茂のつくね たれ」だが、「フレンチトーストとベーコン」も隠れた人気商品だ。食パン2巾の両端、耳の部分を厚く切って焼くから食べ応えは十分。甘過ぎないフレンチ液で最後まで食べ飽きることもない。そして最大の特徴はカリカリ食感のベーコンとたっぷりのシナモン。「おやつではなく食事にしたかった」と原田さんは言うが、その甘辛さと芳しさはニューヨークのダイナーを想起させる、大人の味わいだ。

夜は目と鼻の先にある「柳ばし 鳥茂」で焼き台に立つ原田さん。継ぎ足しで守ってきたタレの味わいがにじむ「鳥茂のつくね たれ」の他、「しお」もオンメニュー。メニューは全13種類。

2017年オープン。テイクアウト中心の店構えだが、イートインカウンターも。店内で食べる場合は持ち帰り用ボックスではなく、プレートに盛り付けて提供してくれる。蔵前のコーヒーロースター「コフィノワ」の当店オリジナルブレンドも、サンドイッチに合う飲み口。

シゲルキッチン
東京都台東区柳橋1丁目32−8
TEL:03-3866-9741
営業時間:11時30分〜14時(月〜水、金) 11時30分〜16時(土) ※売り切れ終い
定休日:木、日

晩餐のボルテージを上げる、浅草「ペタンク」のタルティーヌ

「タルティーヌ ゴルゴンゾーラのムースとアマゾンカカオ」¥880(税込)。「カンパーニュだと食感が重い。ワインの邪魔をしてしまいます」と山田シェフ。パンは東日本橋の「ビーバーブレッド」に特注。スペルト小麦を使用することで、香りと味わいの濃厚さがありながら軽く仕上げられている。食事に合わせるパンも同じ商品を提供。

“パン飲み”という言葉がもてはやされて久しいが、「さぁ、パンで飲め!」と押し売りされているようで実は食傷気味、という人が癒やされているのが浅草・観音裏にあるビストロ「ペタンク」。タルティーヌは1種のみだが、「ウフマヨ」や「チューリップ」と同じ前菜としてオンメニュー。このクールな提案こそ、いまパン好きがグッとくる展開なのだ。

シェフの山田武志さんにとっても、タルティーヌは食事の展開を占う重要な一皿。「最初の一杯がスムーズに飲めて、より食欲も刺激するように。ゴルゴンゾーラのムースはコクを残したまま独特の風味は抑えます。またカカオの香りと食感で高揚感をプラス。泡系のワインとよく合います」。サラダにメイン、締めのパスタへとつなぐパンの前菜。その役割に、パン飲みの新たなかたちを見た気分だ。

タルティーヌは季節によって内容が変わる。イチジクのコンポート&マーマレードやレバーなど、いずれもワインに合う酒肴揃いだ。

店内には山田シェフの遊び心が垣間見える。シェフはフレンチの名店として知られる五反田の「ヌキテパ」からキャリアを開始、フランスの星付きレストランや在ハンガリー日本国大使館でも厨房に立った。また自然派ワインの先駆者である勝山晋作氏のビストロ「グレープ・ガンボ」のシェフだったこともあってヴァンナチュールに力を入れる。

2017年にオープン。良店の開業ラッシュに沸く浅草・観音裏だが、山田シェフがこの物件に決めた理由は前職との縁。「『ワインショップ&ダイナー フジマル 浅草橋店』のシェフだった時、一駅先のこのエリアに可能性を感じました」。門扉も控えめな8席のマイクロビストロは、2020年も「ミシュラン」のビブグルマンに輝いた。

ペタンク
東京都台東区浅草3丁目23−3 上野ビル 101
TEL:03-6886-9488
営業時間:17時~24時(月〜金) 15時〜22時(土、日、祝)
不定休

バナナ風味豊かな、西荻「進藤製パン」の食パン

「バナナ食パン」1本¥659(税込)。バナナの果肉を練り込んだ生地を焼き上げた。看板商品の「進藤食パン」と異なる味わいを出すために砂糖を多めに加えるが、果実の酸味と合わせることでバランスのとれた甘さに。

昨今の爆発的な食パンブーム。もちもちの食感、なめらかな口溶け、微かに残る甘さなど従来の食パンになかった魅力を合わせもつものも多いが、その愛され要素をさらに進化させたのが食パン専門店「進藤製パン」の「バナナ食パン」だ。

看板商品の「進藤食パン」は噛んだ瞬間はもちもちながら、口の中でとろけていく。吸水率105%のゆるい生地に糊化させたデンプン「湯種」を練り込むことで実現する食感だ。牛乳や練乳を加えるためほんのり甘いが、これをバナナに置き換えたのが「バナナ食パン」。ミルクの甘味とは異なる天然の果実の糖が、これまたじんわり身体に染みる。

クラストの上部はバナナやクッキー生地もトッピングされ、スイーツの様相。ただしクラム(外皮の内側)はバナナの香りのほうが強く、全体でみればマイルドな甘さだ。目の詰まったクラムは食べ応えもあり、甘いものが苦手という人のおやつにも向く。毎日20食限定なので、購入の際は早めの来店を心がけたい。

店主の進藤恵介さんは独学で食パンづくりを習得。「前職がクラフトビール店のスタッフなので、生粋の小麦好きなんです」と冗談のように話すが、午前中から昼過ぎにかけて店前に行列ができることも。その間ひとりで粛々と、その日の焼成&翌日の仕込みをこなす。

2018年にオープン。西荻窪はベーカリーやパティスリー、またパンと相性のいいシャルキュトリーショップも点在するため、散策がてら梯子で訪問するパン好きも多いようだ。角食の「レーズン食パン」や山型の「フランス食パン」なども販売する。

進藤製パン
東京都杉並区西荻北2丁目26−4 沢元ビル 1F
TEL:03-6913-7973
営業時間:10時〜20時(火〜土) ※売り切れ終い、13時オープンなどもあるため店のSNSで要確認
定休日:月、日

マニアが熱視線を送る、都内の個性派パン5選。

  • 写真:尾鷲陽介
  • 文:岡野孝次

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