江戸ワンダーランドが手がける「SATOYAMA創生プロジェクト」は、里山再生も進み着々と江戸時代に戻っています。

  • 文:Pen編集部

Share:

桜の木が立ち並ぶお堀沿いにて。アファンの森財団理事長のC.W.ニコルさん(左)と、江戸ワンダーランド代表のユキ・リョウイチさん(右)。

——栃木県日光市にある、江戸時代の文化を再現したカルチャーパーク「江戸ワンダーランド 日光江戸村」(以下、江戸ワンダーランド)。この地を舞台に、江戸ワンダーランド代表のユキ・リョウイチさんと、自然環境保護活動の第一人者・C.W.ニコルさんが共同で取り組む「EDO-SATOYAMAプロジェクト(過去の記事はこちら)」をご存じでしょうか。人間の日々の営みには自然が不可欠という考えのもと、里山の再生を目指す取り組みです。里山とは、人と動物が互いに共存する生活になくてはならない自然環境のこと。一昨年にスタートを切った同プロジェクトはいま、どのように進んでいるのでしょうか。おふたりに話を聞きました。

ユキ プロジェクトがスタートした当初、この森には人の手がまったく入っておらず、鬱蒼としていました。しかし適切な間伐を行うことによって、森の中に光が入り、風も通るようになりました。その結果、森が育ち、野生の鹿やキジ、絶滅危惧種のヤマネなども現れるようになりましたね。

ニコル もともと、この山にはどんな種類の木があったかを調べて、たとえば動物が好むトチノキやクリを植えると、もっとたくさん戻ってくると思います。動物の排泄物には木々の種が含まれています。つまり、彼らが森にやってくると、一緒にさまざまな植物も運んできてくれるのです。

ユキ その中には、キノコの菌もありますよね。キノコは死んだ動物や落ち葉を分解してくれる力があるので、森をキレイにしてくれます。また、森では植物同士の助け合いも行われています。木は自らミネラルを摂ることができません。一方で、キノコは光合成ができず、糖分をつくることができません。だから地面のなかでは、木はキノコからミネラルをもらい、キノコは木から糖分をもらっているのです。

「EDO-SATOYAMAプロジェクト」は、里山を通して江戸時代のサスティナブルな生活を再現しています。江戸ワンダーランドでは、江戸時代の生活を熟知したスタッフによる自然ガイドや馬を用いた林業体験、さらには江戸野菜の再現や炭焼き体験など、来場者がさまざまなアクティビティを楽しめる施設づくりに取り組んでいます。

ユキ さまざまな体験の場を準備中ですが、なかでも炭焼き小屋づくりに注目してもらいたいと思います。炭焼き体験ができて、その炭で実際に火を起こすことができます。お茶を入れたり料理したり。そんな体験を楽しんでもらいたいですね。

ニコル 江戸時代には、小さな炭ひとつで魚が焼ける、七輪という素晴らしい調理器具が開発されましたね。日本の炭づくりはとても効率がよく、そして質がいい。おそらく、この森の中にも古い窯があるんじゃないかな。石を積み上げて炭窯をつくり直すといいのでは、と考えています。

ユキ 炭焼きの煙は、周辺の木々を虫食いから守ってくれるんですよね。新芽に付く毛虫も、この煙が苦手のようです。

ニコル いずれこの場所に炭窯ができて、馬がその炭を運ぶような、江戸時代と同じ風景が見られるといいですね。とってもワクワクしてきます。

里山は、子どもたちの豊かな心を育む。

昨年、近隣の園児とともに桜の木の植樹が行われました。今年は、さらなる成長を願って水撒きと肥料撒きを実施。

――「子どもが健全に育つには、森が必要だ」とニコルさんは言います。しかし、子どもたちが森に触れるためには、どうしたらよいのでしょうか?

ユキ ニコルさんに教えてもらったのですが、私たちの遺伝子のほとんどは森と海で育まれてきました。子どもの頃に自然の中で遊ぶ経験は、五感を刺激し脳の発達を促します。研究者の間では、「自然欠乏症候群」という病状としても認識され、特に西洋ではその研究が進んでいるそうです。

ニコル 「里山(SATOYAMA)」や「森林浴(SHINRIN-YOKU)」という言葉は、数十年も前から、世界でその価値を認められています。健康的な森にいるだけでストレスが軽減され、体の免疫力が高まり、そして目や耳の疲れも和らぐとされています。私が手がける長野の「アファンの森」でも、20年も前から子ども向けの体験プログラムを設けています。当初はアクティビティをたくさん考えました。でも、特別なものはなにもいらないんです。ただ森に入って、怪我にだけ気をつけて自由に遊ばせておけばいい。里山では、子どもたちが自ら学習し、自然を感じることができるんです。

ユキ 江戸時代の生活は、里山によって支えられていたと言っても過言ではありません。ここ江戸ワンダーランドでは、1日でも早く理想の里山を取り戻し、子どもたちにも楽しんでもらいたいと思っています。

――一昨年、「桜プロジェクト」第一弾として、近隣の保育園児とともに、桜苗木の植樹を行いました。既に花を咲かせている木もあり、この木々を大切に育てようと、このたび当時の園児たちと育樹を実施しました。

ユキ 桜プロジェクト」の植樹・育樹に参加してくれた園児たちが大人になった時、彼らが自分たちの子どもと江戸ワンダーランドの森で一緒に遊んでもらいたいと思っています。

ニコル 子どもたちが大きくなったら、彼らが植えた桜の木の下で一緒にお酒を飲みたいなあ(笑)。

お江戸の花見、歳時記イベントも開催。

料理研究家・冬木れいさんが監修した花見弁当。江戸時代の料理を取り入れ、お花見にふさわしい華やかな弁当に仕上がりました。

――今年4月4日から14日まで、咲き誇る桜を眺めながら江戸料理が味わえる、江戸ワンダーランドならではの歳時記イベント「春の宴 〜江戸の花見〜」が開催されました。昨年春から実施しているこのイベント(過去の記事はこちら)は、江戸ワンダーランドが新たに力を入れている文化体験「食」をテーマにしており、江戸料理のメニューや自家製調味料の開発、江戸野菜を使用した料理など、ここでしか味わえない食体験が堪能できます。この日、育樹を終えた子どもたちは、ニコルさん、冬木さんとともに、端唄の美しい歌声を聴きながら、桜の木の下で花見弁当を楽しみました。

江戸料理に加えて、武士の言葉遣いが学べ、剣術や流鏑馬の修行を行う事ができ、侍文化の体験ができる「侍修行館」も新設し、ますます充実する江戸ワンダーランド。里山の魅力にも触れるならば丸2日はかかりそうですが、その2日間は、きっとかけがえのない体験になるでしょう。

●問い合わせ先/江戸ワンダーランド 日光江戸村 TEL:0288-77-1777
http://edowonderland.net/